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3章 12人の思惟
7話 知りたくない事まで知ってしまうのは辛い・・・
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エレベーターを操作する旅館の娘の後姿を、
中野綾香は、観察した。
着物が、身体の緩やかなラインを、
優しく包んでいた。
着物に愛された、
着物が良く似合う体形らしい・・・
その姿は、見る者に安心感を与えた。
エレベーターのドアが開くと、
旅館の娘は軽く会釈をした。
待つ宵(よい)の間は、五階に在った。
五階フロアは、静まり返っていた。
このフロアの客は中野綾香1人らしい。
街の外からの客が居なくなれば、
そうなるのも仕方がない。
清潔で雰囲気が良い旅館なだけに、
誰も居ないのは勿体ないような気がする。
しかし、このフロアを独り占め状態は気分が良い。
フロアを全裸で走り回っても、
誰にも見られないだろう。
廊下を少し歩くと、
屋上に上がる階段が見えた。
「屋上に上がれますか?」
着物を着た旅館の娘に聞いた。
「夏場だとビヤガーデンをやってるのですが・・・」
「・・・」
「はい」
旅館の娘は、柔らかな表情と、
ちょっとだけ困った表情を浮かべた。
もうちょっと押せば、
何とか成りそうな雰囲気だったが、
ごり押しして、彼女を困らせるのも気が引けた。
・・・・と思わせる旅館の娘の表情。
それが意図して作られてものなのか、
天然物なのかは解らなかった。
街の上空で繰り広げられる防空戦の様子を、
見たかったが、ここである必要はないか・・・
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
新館屋上のビヤガーデンへは、
非常階段で行けば、旅館の人と会わなくても行ける。
チーム・西の島の思惟Ωが、その螺旋階段を上って行くと、
チーム・北の島の璃琥(りく)が、汗まみれで駆け下りて来た。
思惟Ωは、璃琥とハイタッチをしてすれ違った。
特別会話をする必要性を感じなかった。
思惟Ωは、璃琥が何を感じ考えているかを、
自分の事の様に感じる事が出来た。
璃琥だけじゃない。
思惟全員の感じた事は、
すべて思惟Ωの思考回路に流れ込んで来た。
この事は、誰にも言っていない。
同じ思惟とは言え、
自分の感じた事が筒抜けになるのは、
気持ちの良いものではないし・・・
「しかし・・・疲れる」
1人分の時間で、
12人分の思考を処理するのは、
非情に疲れる。
「知りたくない事まで知ってしまうのは辛い・・・」
季節外れの屋上ビアガーデンには、誰も居なかった。
思惟Ωは、この誰も居ない季節はずれな感じが好きだった。
夏場のシーズンには、思惟も駆り出されて、
息を着く暇がないほど働いた。
その忙しさは、通常の思考を簡単に吹き飛ばした。
夏の暑さと人々の喧騒と、
次から次へと入るオーダーはスタッフを、
ある種の熱狂の中に突き落とした。
そんな夏の熱狂を楽しめたのは、
さっき汗まみれで走り込んでいた璃琥的な要素が、
あったからからかも知れない。
今も思惟Ωの思考回路には、
汗まみれで走り込む璃琥の想いが、
流れ込んでいた。
「熱い・・・」
身体を鍛える事への熱狂は、冷めた思惟Ωには、熱すぎた。
「さて・・・・」
このビヤガーデンの下には、
あの街の外から来た客がいる待つ宵の間がある。
あの女は敵か味方か?
つづく
中野綾香は、観察した。
着物が、身体の緩やかなラインを、
優しく包んでいた。
着物に愛された、
着物が良く似合う体形らしい・・・
その姿は、見る者に安心感を与えた。
エレベーターのドアが開くと、
旅館の娘は軽く会釈をした。
待つ宵(よい)の間は、五階に在った。
五階フロアは、静まり返っていた。
このフロアの客は中野綾香1人らしい。
街の外からの客が居なくなれば、
そうなるのも仕方がない。
清潔で雰囲気が良い旅館なだけに、
誰も居ないのは勿体ないような気がする。
しかし、このフロアを独り占め状態は気分が良い。
フロアを全裸で走り回っても、
誰にも見られないだろう。
廊下を少し歩くと、
屋上に上がる階段が見えた。
「屋上に上がれますか?」
着物を着た旅館の娘に聞いた。
「夏場だとビヤガーデンをやってるのですが・・・」
「・・・」
「はい」
旅館の娘は、柔らかな表情と、
ちょっとだけ困った表情を浮かべた。
もうちょっと押せば、
何とか成りそうな雰囲気だったが、
ごり押しして、彼女を困らせるのも気が引けた。
・・・・と思わせる旅館の娘の表情。
それが意図して作られてものなのか、
天然物なのかは解らなかった。
街の上空で繰り広げられる防空戦の様子を、
見たかったが、ここである必要はないか・・・
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
新館屋上のビヤガーデンへは、
非常階段で行けば、旅館の人と会わなくても行ける。
チーム・西の島の思惟Ωが、その螺旋階段を上って行くと、
チーム・北の島の璃琥(りく)が、汗まみれで駆け下りて来た。
思惟Ωは、璃琥とハイタッチをしてすれ違った。
特別会話をする必要性を感じなかった。
思惟Ωは、璃琥が何を感じ考えているかを、
自分の事の様に感じる事が出来た。
璃琥だけじゃない。
思惟全員の感じた事は、
すべて思惟Ωの思考回路に流れ込んで来た。
この事は、誰にも言っていない。
同じ思惟とは言え、
自分の感じた事が筒抜けになるのは、
気持ちの良いものではないし・・・
「しかし・・・疲れる」
1人分の時間で、
12人分の思考を処理するのは、
非情に疲れる。
「知りたくない事まで知ってしまうのは辛い・・・」
季節外れの屋上ビアガーデンには、誰も居なかった。
思惟Ωは、この誰も居ない季節はずれな感じが好きだった。
夏場のシーズンには、思惟も駆り出されて、
息を着く暇がないほど働いた。
その忙しさは、通常の思考を簡単に吹き飛ばした。
夏の暑さと人々の喧騒と、
次から次へと入るオーダーはスタッフを、
ある種の熱狂の中に突き落とした。
そんな夏の熱狂を楽しめたのは、
さっき汗まみれで走り込んでいた璃琥的な要素が、
あったからからかも知れない。
今も思惟Ωの思考回路には、
汗まみれで走り込む璃琥の想いが、
流れ込んでいた。
「熱い・・・」
身体を鍛える事への熱狂は、冷めた思惟Ωには、熱すぎた。
「さて・・・・」
このビヤガーデンの下には、
あの街の外から来た客がいる待つ宵の間がある。
あの女は敵か味方か?
つづく
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