思惟ちゃんと式神的な巨大ロボット

健野屋文乃(たけのやふみの)

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2章 分身の術?

10話 初めての朝

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12人の思惟になって初めての朝が来た。


ニッキ―にとって、いつもと違うのは、ベットではなく、女将の間の居間に敷かれた布団から目覚めた事だ。


そして、目を開けると・・・


ニッキ―が寝ている布団を囲んで、何人かの思惟が話し合っていた。


目覚めた直後に、数人の自分が自分の布団を囲んでいる状態の意味を、理解するのに、ニッキ―は数十秒要した。


そして、自分を囲むその状況を素早くデジカメで記録した。


「おはよう」×2


同時に、2人の思惟から声を掛けられ、両頬にキスをされた。

多分、この2人は昨晩、裸の思惟を両脇から抱きしめていた2人だ。


少なくともこの2人も、昨日までは、1人の思惟として生きていた存在。

同じ過去の記憶を共有している存在。


・・・とりあえず、両頬をキスされる自分の自撮りを完了。

確認すると、照れまくるニッキ―が写っていた。


しかし、今目覚めていて良かった。

もしニッキ―の目覚めが、数分遅ければ、ニッキ―のチーム名が、「裸族」だの「コテカ」などに決められるところだった。

 

【チーム・コテカ】なんて、女子だけのチームの名前としてありえないだろう!

大体、コテカが必要な人員など、1人もいない!


とりあえず、ニッキ―は急いで目を覚まして、 「曾おじちゃんに因んだ名前が良い」と主張する裸族の思惟の意見を、覆して、【南の島】で落ち着かせた。

その流れで、思惟αのチーム名が【北の島】食料調達班が、【西の島】と決まった。



「南の島って、何よ!曾おじちゃんは、ニューギニア戦線の生き残りだよ!コテカはその証明!」

と裸族の思惟は、反論したが、その他の思惟の同情の視線を受け、ニッキ―は【南の島】を、なんとか押し切れた。



 大勢の思惟と食事を済ますと、

「うん、それじゃあ、あなたは、今から学校に行って、いつも通りの生活をしてね」


女将のあみちゃんから、そう言われた。


「私が?」


女将のあみちゃんは、ニッキ―の耳元に近づいて

「南の島ではあなたが一番普通でしょう。」

と囁いた。女将のあみちゃんは、大人の女の匂いがした。



確かに、思惟・裸族バージョンを学校に行かせる訳には行かない。

そんな事をすれば今以上に混乱する。

この思惟・キス魔バージョンもあり得ないだろう。


「それじゃあ~お着替えしましょうね」

そう言ったのは、そのキス魔バージョンの2人だ。

キス魔バージョンは、ニッキ―の浴衣を脱がせに掛かった。


「1人で着替えれるから」


「何恥ずかしがってるの?同じ思惟じゃない」


「同じ思惟・・・」


ニッキ―は数秒考えてから抵抗を止め、キス魔の2人に身体を委ねた。


この状態をどう定義するのか?

自分と他者との境界線をどこに置くか?

1人の思惟としての境界線とするのか、

12人の思惟としての境界線とするのか?の違い?


自分の浴衣を脱がそうとする自分。

だとすると、別に特別な事ではない。

 

しかし、自分の・・・思惟の中に、裸族やキス魔の要素があった事は、ショックだ。                                              


どちらかと言うと、控えめで、人見知りな人生を送ってきたはずなのに・・・


ニッキ―は、2人のキス魔に送られて女将の間を出た。



女将(仮)の継母の朝は、誰よりも早い。 

旅館のフロントホールでは、継母が、色々な備品を磨きまわっていた。

お蔭で、旅館はいつも輝いている。



ニッキ―はいつも通り「行ってきます」と挨拶した。


「思惟ちゃん、いってらっしゃい」

と言う継母は、優しく誰もが好感のもてる表情だった。

しかし、それが営業用なのか、私的なものなのか、未だに区別は出来なかった。



それに比べて、あの2人のキス魔の思惟の表情は、完全に私的な表情をしていた。


「悪くは、ない・・・」


ニッキ―は呟いた。




つづく
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