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1章 憲兵隊本部長の娘

5話 私たちの夜明けが来るね。

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「粛清リストを知らないんですか?」

暗い後部座席で、由良穂香は聞いた。
僕自身は、知っているかも知れない。
知らないかも知れない。
僕が言葉を選んでいるうちに、由良穂香は言葉を続けた。

「お父さまのID使って、色々見てたら偶然見つけたんだけど、その粛清リストに載ってる何人かは、この半年で、事故死に見せかけて殺されてるらしいの。少なくとも憲兵隊本部はそうみてる。で、その粛清リストに、私のお父さまの名前も載ってたの」

由良穂香は、僕の表情を見ながらそう言った。

憲兵隊は、普通の一般市民と関わることはほとんどない。
防諜と公務員の行政監査が主な任務だ。政治活動は厳しく制限されている。

「それで私の誘拐でしょう。
何か関係あると思ったわけです。
誘拐犯さんはは粛清リストの関係者ですか?
その位、話しても問題はないと思います」

問題も何も、記憶のない僕には話すべき情報は何もない。

「そう、じゃあ取引しましょう。
もし誘拐犯さんが私の味方になってくれたら、誘拐犯さんに私のすべてをあげます。心も身体も・・・
誰かに理由も解らず粛清されるくらいなら、誘拐犯さんに、にすべてあげます」

由良穂香のすべて・・・・
可愛い系と言うより、美女系の顔立ちに、無駄なく鍛えられてはいるが、女らしい柔らかさも兼ね備えた身体。

「私にその価値はありませんか?」

僕は損得など色々考えた・・・・

例えば僕がその粛清リスト側の人間だったとしよう。
彼女に味方するって事は、その粛清リスト側を裏切る事になるわけだろ。

憲兵隊本部長を殺そうとする組織が弱い訳がないよね。
結論、由良穂香にその価値はない。

その結論を言おうと振り向くと、由良穂香の口が、僕の口に迫っていた。
僕によける術も時間もなかった。

彼女の口の優しさは、なぜか僕の目から涙を流し、僕の心を簡単に口説き落としてしまった。

「取引成立ですか?」

僕の口から離れた彼女の口は聞いた。

「うん」
僕の意思に反して、僕の心は高鳴り、取引成立を宣告した。


「私にとって、初めてのキスです。
もしあなたが私を裏切った時は、
あなたと刺し違えて私も死にます。
宜しいですね?」

僕は、頷く以外手段がなかった。

「誘拐犯さん、私たちの夜明けが来るね」



つづく 
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