ねじ巻き九六九(クロック)

健野屋文乃(たけのやふみの)

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5話 お風呂沸かしといたよ。

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街が寝静まった満月の夜。

ぼくは黒猫だけど、オルゴール博物館の中庭で、檜の盥(たらい)のお風呂に入っていた。
凍えていた身体が、ホント芯から温まる。
お風呂好きな猫は珍しいけどね。

明治の古い洋館のしっとりとした闇が、昼間の喧騒をすーと鎮めていた。

そこに・・・

「一夜一夜に人身頃 人並みに奢れや おなご」
と、穂波ちゃんの透き通った美しい声が響いた。

「カッコ ゆえに今夜の私は、奢り昂ぶるの!五円くん カッコ閉じ」
穂波ちゃんは、オルゴール博物館の館長の1人娘で、中学3年の受験生だ。

色々混乱しているお年頃。

ちなみに、五円と言う名前は、ぼくの目が、五円硬貨みたいだかららしい。
う~ん、良いのか?悪いのか?
ご縁で、縁起はいいらしいが・・・・

「それより穂波ちゃん、何、その格好?」
「カッコ格好?穂波ちゃん?誰?カッコ閉じ」

カッコ閉じって・・・受験勉強のしすぎで、口調がおかしくなってしまったらしい。

「私はオルゴールの妖精、ππ(ぱいぱい)・・・
妖精仲間は、私を控えめなππ(ぱいぱい)と呼ぶ」

普段は、地味で控えめな穂波ちゃんは、黄緑の妖精ぽい衣装を来て、背中には妖精には大きすぎる、どちらかというと天使のような羽根を付けていた。

そして、この寒いのに、おへそを出していた。
控えめなおへそが、穂波ちゃんらしいと言えばらしい。

「さあ、行くπ。オルゴールの妖精伝説を作るπ!」

穂波ちゃんはそう宣言すると、檜の盥から、ぼくを抱き抱え、バスタオルでぼくを包み込んだ。

穂波ちゃんに、バスタオルで拭かれるの、好きー!
しあわせとは、こう言うことを言うんだ。

「しかし・・・・オルゴールの妖精伝説を作るって何?」

「イッツ オルゴール販売ステマπ」

「ステマかよ」

「ア~ ワタシ ハクブツカン ツグコロ キャク ヘルノ カクジツπ」

「なんで片言?英語苦手なの?」

「クロネコ ト ヨウセイ ニ マツワル デンセツ ツクルノ 
デンセツ アルト オルゴール ウレル
ハコイリムスメハ ハコノナカデ カンガエタノサπ」

「えっ俺も伝説に加わるの?」


「イエース アイ デュー \(゜□゜)/
 ユー アー ベリー ミステリアス
クロネコ イルト ナンカ 不可思議なコト オキソウ
不可思議 イコール クロネコπ」

「買いかぶり過ぎだよ。
黒猫はね、静かで地味に生きたいんだよ」


満月の下、控えめなππに贈った一句。         



満月に
奢れや おなご
黒猫と


      ねじ巻黒句

つづく
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