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4話 いちご大福、取っといたよ。

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銀青色のコラット猫のシークレット(♂)は囁くように、クールな口調で話す。

「昔、聞いた話だが、猫の中には前世が人間だった奴が、結構いるらしい。
人間だった時の感覚が、相当残ってる奴もいるらしい。
お前もそう言う種類の黒猫じゃないのか?」

鋭い!そうぼくは前世に人間だった。
そう思える事案が多々あるのだ。
ただそれをみんなに、告げるのは今ではない。

そんな話をしながら、ぼくたちは商店街の外れに向かった。
商店街の外れには、古い回転寿司屋がある。

実はそこ、三毛猫に取り憑かれている。
憑りついているのは、『三毛の中将(♀)』と呼ばれる、化け猫かも知れないと噂のある街猫だ。

今日は月一の街猫集会日。
回転寿司屋の大将の孫娘が、朝、リボンのついた勝負パンツを履いて出かけたら、
それが集会開始の合図だ。

孫娘の恋路に掛ける性的リビドーが、三毛の中将の妖術を強力にさせるらしい。

勝負パンツの噂を聞いたぼく達は、孫娘の恋路の健闘を祈りつつ、回転寿司屋に駆けつけた訳だ。
街猫通信によると、孫娘の恋路は、まだ1勝もしていないらしい。

店の自動ドアには、店休日の看板が掛かっていた。
ぼくが自動ドアの前に立つと、ドアは「ゴゴッゴゴゴッ」と音を立てながら開いた。

カウンターには、十数匹の街猫達が回ってくる寿司を、じーと吟味していた。
カウンターの奥では、妖術に掛かった大将が、ぼんやりとした表情で、寿司を握っていた。

ここの大将は、昔、知る人は知る超一流の寿司職人だったらしい。
御労(おいたわ)しい・・・
コラット猫のシークレットは、静かに哀れんだ。

「しゅうちゃん、こっち」

とぼくを呼ぶのは、白猫の餅子さん(♀)
【しゅんちゃん】これもぼくの名だ。誰もが好き勝手な名前を付けてぼくを呼ぶんだ。

「しゅうちゃんが好きな、いちご大福取っといたよ。1つしかないんだよ」
カウンターには、美味しそうな焼きプリンが!
「おいちそう、うんうん♪」

白猫の餅子さんは、飼い猫で可愛いらしい鈴付の首輪をつけていた。
ぼくが、餅子さんの隣に座ると、街猫たちの視線が、ぼくたちに注がれた。

こいつら、ぼくと餅子さんを、引っ付けようとしているんだ。
しかし、ぼくは人間から猫に、化けさせられた身・・・・かもしれない。

なので子供が出来ちゃうと、人間に戻った時に困りそうなのだ。


「柊(しゅう)ちゃん、私ね。
柊(ひいらぎ)の花言葉を知っちゃった
【用心深さ】【先見の明】【保護】
だって。ほぼ、しゅうちゃんだね」

そう言うと餅子さんは純粋な目で、ぼくを見つめた。

「私・・・・しゅうちゃんに保護されたいな」

何て事を言うんだ!この猫ちゃんは!

餅子さん → (*v.v)。 (/ω\) ← ぼく。
周りの街猫達 | 皿 |д・) じ~

餅子さんは、視線に構わず俺に寄り添って来た。

「しゅうちゃん、良い香りがする」

そんな甘く照れくさいひと時の最中、三毛猫の中将の叫び声が響いた。

「厄病神と貧乏神が帰還した!総員、第一種戦闘態勢を取れ!
クローバークラブ隊は、北北西に進路を取り、陣形・鋒矢にて、敵を撃滅せよ!
ダイヤダイヤ隊スペードスペード隊 ハートハート隊 
陣形・方円にて、周囲を警戒せよ!」

厄病神と貧乏神が帰還?
第一種戦闘態勢?

この街に来て初めて聞く言葉だ。

「何?何?ん?ほくほく星に進路?」

状況をいまいち掴めないでいると
「黒猫!こっちだ!」
と知り合いの虎猫・タイガー愛(♀)が叫んだ。

猫たちは混乱に襲われていた。

その混乱の最中、ぼくは背後にいた何か(神霊的な存在?)に、記憶のリセットボタンを押され、意識が飛び、フラッシュバックがいくつか見えた。

ぼんやりと理性が効かない中、寿司屋の白い壁の小さな窓の隙間から、人間が心配そうにぼくを見ていた。
そしてぼくの直感は告げた、この人間はぼくだ!と。

お前は、ぼくなのか?????

「おい!黒猫!」
タイガー愛の声に、我に返り俺はタイガー愛の後を追った。
クローバークラブ隊1番手のタイガー愛は、厄病神と貧乏神を見つけると、まるで虎その者の様に、厄病神の首元に噛みついた。

おおおー

さすが百獣の王 猫科!
霊長類の人間とは、身体に宿る攻撃本能のレベルが違うのだ!

ぼくも続いて、襲いかかろうとしたが、貧乏神は、ぼくの攻撃を失笑しながら、難なく躱(かわ)した。

えっ、なぜ?

ぼくは、壁に激突した。
餅子さんの目の前で、恥を掻かせやがって!
貧乏神は、嘲(あざけり)りに満ちた表情で、ぼくを見た。 
嫌な表情だ。

しかし、厄病神と貧乏神は、次から次へと襲いかかる喧嘩慣れしたクローバークラブ隊の野良猫たちの、敵ではなかった。

とうとう厄病神と貧乏神の泣きが入った。

「参った・・・・参った・・・・参った」

と厄病神と貧乏神は何度も言った。
虎猫の次に駆けつけた2番手・コラット猫のシークレットは厄病神と貧乏神を睨み付け静かな口調で言った。

「ここの商店街は、厄病神と貧乏神はお断りだ。
さっさと去るがいい、迷惑極まりない者どもよ」

「お前ら猫だって、この店に憑りついているだろうが!調子に乗るな!」

厄病神は反論した。厄病神の言うのも一理ある。
走り回った猫達の性で、店はぐちゃぐちゃだ。

災難にも程がある。

動きを止められた、疫病神と貧乏神の元へ化け猫感いっぱいの三毛の中将が近づいた。

「商店街は我々の縄張り・・・お前は、成りたてか?」

化猫!と噂がある三毛の中将の気迫に、厄病神と貧乏神は、一瞬で威圧された。

「はい・・成りたてです」
「だったら、国道沿いの店に、行ってみてな、あそこには、お前の好きな敵意と悪意が渦巻いている。
そう言うの・・・好きだろ?」
「敵意と悪意は蜜の味でございます」
「それでは、わたしが、案内しよう。さあ今日の街猫集会はお開きだ」

街猫達は、三毛の中将と伴に、回転寿司屋を後にした。
その後、店内から妖術の解けた回転寿司屋の大将の叫び声が轟いた。

「なんじゃこれ!祟りじゃ!呪われている!」
「御労(おいたわ)しい」

コラット猫のシークレットは、静かに哀れんだ。

「とりあえず、厄病神と貧乏神は追っ払ったから、許してつかーさい」

餅子さんは、謝罪した。


三毛の中将たちと別れ、餅子さんを家に送る途中、

「しゅうちゃん、大活躍だったね」
「俺、何もしてないけど・・・」
「しゅうちゃんが、空白を埋めたから勝てたんだよ」

・・・と意味不明な事を言われた。

空白を埋めたから、勝った?

「空白って何?」
「さあ」

ぼくはふと俺っぽい人間の事を思いだした。
あの人間のぼくが、空白を埋める何かをしたのか?



帰り道で、回転寿司屋の大将の孫娘が、ニヤケながら歩いていた。
恋路にちょっとだけ成果が逢ったって表情だ♪

その瞳は希望に満ちていた。

「厄病神と貧乏神の敗走が、彼女の恋路に影響を与えたのだよ」
コラット猫のシークレットは、静かにぼくに告げた。

回転寿司屋の孫娘に、さち、あらんことを。


寒空から降り始めた雪を見ながら、詠んだ一句。


空白を
埋める仕事を
したらしい?


       ねじ巻き黒句
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