転校生は女神さま

健野屋文乃(たけのやふみの)

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第5話 染井吉野

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学校の校庭の桜を見上げる少女の横顔は、美しかった。


「桜散り桜舞う時、染井吉野は何を想ってると思う?」

女神の少女は、ぼくに聞いた。


「桜散るは切なく、桜舞うは嬉しげ、かな」

「どうかな~試してみようか?」

「どうやって?」

「こうやって♪」


次の瞬間、ぼくは染井吉野に変身していた。


「えええええええええ」

ぼくの危惧は変身させらえれた事ではなく、ここが学校の校庭だって事だ。

そう少女が女神だとばれてしまう!


でもぼくの心配は杞憂だった。

学校の校庭に、さっきまでいたはずの生徒たちが誰もいなくなっていた。

まるで、ぼくと女神の少女だけが、この世界にいるかのように。


「さあ散って」

女神の少女は言った。


ぼくが桜になったからなのか、『散って』それはとても残酷な言葉の様に思えた。

それに「散って」と言われたからって、桜の意思で散れるものではないらしい。


身体に振動が伝わった。


「揺らなさないで下さい」

「だって」

「こういうのは時間をかけないとダメなんですって!」

「もう」


そう言うと女神の少女は座り、桜の木のぼくに背中を預けた。

女神の少女の体温が伝わった。


桜の木の心は優しく、女神の少女をすっごく見守りたくなった。

そんな桜の木に寄りかかった、女神の少女はそのまま眠りに落ちていった。


時が流れ、桜の花びらが散り始めた。

ぼくの心は少し切なくなった。


花びらと言う過去のぼくが、去って行くようで。


目を覚ました女神の少女は、散りゆく花びらをじっと見つめていた。

そこに微風が吹いて、女神の少女の周りで、桜の花びらが舞った。

女神の少女の頬に、微笑みが零れた。


その美しい微笑をぼくの心に仕舞った後、ぼくは人間に戻った。


「で、気分はどうだった?」

女神の少女の問いに、ぼくは

「お祭りの最中に、過去の自分が散って去って行ったような」

「お祭り?」

「うん、お祭りのような卒業式」

「なんかいいね」




おしまい


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