転校生は女神さま

健野屋文乃(たけのやふみの)

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第4話  鶯(うぐいす)と漆(うるし)のお弁当箱

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原生林の上空を飛びながら
「ホーホケキョ」
と、ぼくは鳴いた。

え?何でぼくは、鶯(うづいす)に成って飛んでるんだろう?
まあ、驚くことでもない。

女神の少女が勝手に、ぼくを変身させたんだ。

「やれやれ」と呟いたつもりが、「ホーホケキョ」と鳴いていた。
「ホーホケキョ(やれやれ)」
と、ぼくが鳴くと、地上の原生林で、立ち尽くしていた女神の少女と目が合った。

無茶振りされる気がしたけど、ぼくは吸い寄せられるように降下し、女神の少女の肩に止まってしまった。

原生林の澄んだ空気の中にいる少女は、その空気と同様に、透き通るような表情をしていた。

でも着ている服が、鹿の着ぐるみっぽい?
ん?これは着ぐるみじゃない。
本物の鹿の毛皮と角だ!

「ホーホケキョ(何着てるんですか!)」

驚くぼくの叫びに、鹿の尻尾が嬉しそうに揺れた。

「ネットで見た、着ぐるみパジャマが可愛かったから、自分で作ってみたの、可愛いでしょう」

彼女の可愛いの基準が解らん・・けど、
「ホーホケキョ(う・・うん)」
と返答。

剥製の鹿の目が、何かを悟ったような目をしていた。
この状況、悟るしかないよね。

「行こう」
鹿の剥製着ぐるみを着た少女は、ぼくを指に乗せたまま、歩き出した。

5分ほど歩いたところに、雑木林の中にこんもりとした小山があった。

「ホーホケキョ(こ・・これは・・・・)」
一見、外からは小さな小屋ぐらいの、小山に見えたが
「ホーホケキョ(これは、竪穴式住居!)」

驚くぼくに少女は、
「昼ごはんにしましょう」
と呟く様に言うと、隠し扉を開け中に入った。

竪穴式住居の中は、ひんやりとして気持ちよかった。

「わたしが張る結界の砦みたいなところよ。
半分地中に埋まってるから、大地の気の流れを感じやすいの。
最近、大地の流れが大きく変わってしまった性で、結界が突破されたの。
本当は結界なんて張りたくはないんだけど、誰かに結界を張らせない為には結界を張らないといけないと言う矛盾」

憂いた顔の少女に僕は、鳴いた。
「ホーホケキョ(・・・)」
この場に鶯(うぐいす)の鳴き声とは、なんとも間が悪い。

「それよりお腹すいた。今、わたしは幕の内弁当が食べたい気分だよ」
と、少女は言ったが、幕の内弁当など見当たらないし、ここは原生林のど真ん中、弁当屋なんてどこにも無いはず。

「ホーホケキョ(まさか!)」

少女は僕の泣き声に、ニヤリと笑った。
そう!次の瞬間、ぼくは幕の内弁当に変身させられた。

「わたしね、いつも思ってたの、きみって、幕の内弁当みたいだって、可もなく不可もなく、存在感も薄め。でもある種の安心感と安定感は持ってる。
でね、『本当にきみが幕の内弁当だったら、どんな味がするんだろう?』って」

「ぼ・・・ぼくを・・・男を食い物にする気ですか!」
「否定はしない」
「否定して下さい!」
「心配しないで、正確に言うと、お弁当箱が、あなたを形作っている型。
きみの血や肉や骨を変換したもの。
そして、このお弁当に入っている料理は、きみ自身の思念情報を、組み合わせ食べ物として具現化したもの」

少女はそう説明したが、なんの事やら・・・・

「わたしが今から食べようとしているのは、あなたの意識情報」
「ぼくの意識情報?」
「夢を食べる獏(ばく)みたいなもの」
「ぼくの意識情報を食べてどうしようって言うの?」

女神の少女は可愛く微笑むと、ぼくの問いに答えることなく、
「いただきます」
と言ってしまった。

そして、弁当の蓋は開けられ、ぼくの中身を少女に晒(さら)した

「おっ、漆(うるし)のお弁当箱・・・渋いね、少年」
「いやん(/ω\)」
「えーとメニューは、ご飯に梅干、鮭に、から揚げに、豆が乗ったシュウマイ2つに、ウインナー・・・きみのウインナー(笑)」
「いやん(/ω\)」
「えーと、後は、玉子焼きに里芋の煮物に蓮根にゴボウサラダ、鶉(うずら)の卵が2つに、飾りだけのレタス1枚、そしてナポリタン少々、沢庵3枚、チーズ竹輪・・・あっチーズが出掛かってるよ、少年。何でかな?」
「・・・」
「授業中も元気だったのは何でかな?ふふふ、その件は秘密にしといてあげる」
「・・・」
「おおお!葉蘭(はらん)はらんが、本物の葉っぱだ!
料亭みたい、やるねー少年、見直したよ」

少女は、何の躊躇いもなく、思念情報を返還させた幕の内弁当を食べ始めた。

「味は・・・まあまあ、可もなく不可もなく」

食べておきながら、酷い評価だ。
そして、弁当箱の僕は空っぽになってしまった。

空っぽになったぼくを、少女は近くの川で洗い、
「ご馳走様♪」
と丁寧に拭いた。

竪穴式住居に戻った少女は、原生林で取れた山菜を使い、夕食を作った。
竪穴住居内の囲炉裏の炎が、少女を幻想的に照らした。

そして、空っぽの弁当箱に山菜御飯を入れ、その上に、山芋をどっさりかけた。
「さあ、人の姿に戻りましょう」
少女はそう言うと、ぼくを人の姿に戻した。

「どう?思念情報が幕の内弁当から、山掛け山菜御飯弁当に代わって気分は?」
「山掛け山菜御飯な気分」
ぼくは面白みの欠片もない返答をした。

しかし、大量の山掛け・・僕に何を求めてるのだろう?

「山掛け山菜御飯で、この原生林の精霊の意思を取り込んだきみは、少しだけわたしに近づいたの」

女神に近づいたの?
それにしても少女は何者なんだろう?

少なくとも、本物の鹿の毛皮着ぐるみを着た少女は、只者ではない。
竪穴式住居を出ると、原生林の冷たい風が吹き、鹿の着ぐるみの尻尾が、嬉しそうに揺れた。


おしまい
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