9 / 11
壱章 転校生の少女
第九話 漆(うるし)のお弁当箱
しおりを挟む
原生林の上空を飛びながら、
「ホーホケキョ」
と、僕は鳴いた。
え?何で僕、鶯(うづいす)に成って飛んでるんだろう?
まあ、驚くことでもない。
少女が勝手に、僕を変身させたんだ。
「やれやれ」と呟いたつもりが、「ホーホケキョ」と鳴いていた。
「ホーホケキョ(やれやれ)」
と、僕が鳴くと、地上の原生林で、立ち尽くしていた少女と目が合った。
無茶振りされる気がしたけど、僕は吸い寄せられるように降下し、少女の指に止まってしまった。
原生林の澄んだ空気の中にいる少女は、その空気と同様に、透き通るような表情をしていた。
でも着ている服が、鹿の着ぐるみっぽい?
ん?これは着ぐるみじゃない。
本物の鹿の毛皮と角だ!
「ホーホケキョ(何着てるんですか!)」
驚く僕の叫びに、鹿の尻尾が嬉しそうに揺れた。
「ネットで見た、着ぐるみパジャマが可愛かったから、自分で作ってみたの、可愛いでしょう」
彼女の可愛いの基準が解らん・・けど、
「ホーホケキョ(う・・・うん)」
と返答。
そう言えば、彼女の私服を見るのは初めてだ。
初めて見る転校生の少女の私服が、鹿の剥製で作った着ぐるみパジャマとは、驚愕すぎる。
剥製の鹿の目が、何かを悟ったような目をしていた。
この状況、悟るしかないよね。
「行こう」
鹿の剥製着ぐるみを着た少女は、僕を指に乗せたまま、歩き出した。
5分ほど歩いたところに、雑木林の中にこんもりとした小山があった。
「ホーホケキョ(こ・・これは・・・・)」
一見、外からは小さな小屋ぐらいの、小山に見えたが
「ホーホケキョ(これは、竪穴式住居!)」
驚く僕に少女は、
「昼ごはんにしましょう」
と呟く様に言うと、隠し扉を開け中に入った。
竪穴式住居の中は、ひんやりとして気持ちよかった。
「私が張る結界の砦みたいなところよ。
半分地中に埋まってるから、大地の気の流れを感じやすいの。
最近、大地の流れが大きく変わってしまった性で、私の張った結界が突破された」
多分、この前の暗殺者たちの事だ。
憂いた顔の少女に僕は、鳴いた。
「ホーホケキョ(・・・・)」
この場に鶯(うぐいす)の鳴き声とは、なんか間が悪い。
「・・・それよりお腹すいた。今、幕の内弁当が食べたい気分」
と、少女は言ったが、幕の内弁当など見当たらないし、
ここは原生林のど真ん中、弁当屋なんてどこにも無いはず。
「ホーホケキョ(まさか!)」
少女は僕の泣き声に、ニヤリと笑った。
そう、次の瞬間、僕は幕の内弁当に変身させられた。
「私ね、いつも思ってたの、きみって、幕の内弁当みたいだって、可もなく不可もなく、存在感も薄め。でもある種の安定感は持ってる。でね、
『本当にきみが幕の内弁当だったら、どんな味がするんだろう?』って」
「ぼ・・・僕を・・・男を食い物にする気ですか!」
「否定はしない」
「否定して下さい!」
「心配しないで、状況を正確に言うと、お弁当箱が、あなたを形作っている型。
あなたの血や肉や骨を変換したもの。
そして、このお弁当に入っている料理は、きみ自身の思念情報を食べ物として具現化したもの」
少女はそう説明したが、なんの事やら・・・・
「私が今から食べようとしているのは、きみの意識情報」
「僕の意識情報?」
「夢を食べる獏みたいなものよ。」
「僕の意識情報を食べてどうしようって言うの?」
魔法使いの少女は、僕の問いに答えることなく、
「いただきます」
と言ってしまった。
そして、弁当の蓋は開けられ、僕の中身を少女に晒した。
「おっ、漆のお弁当箱・・・渋いね、少年」
「いやん(/ω\)」
「えーとメニューは、ご飯に梅干、鮭に、から揚げに、豆が乗ったシュウマイ2つに、ウインナー・・・きみのウインナー(笑)」
「いやん(/ω\)」
「えーと、後は、玉子焼きに里芋の煮物に蓮根にゴボウサラダ、鶉の卵が2つに、飾りだけのレタス1枚、そしてナポリタン少々、沢庵3枚、チーズ竹輪・・・あっチーズが出掛かってるよ、少年。何でかな?」
「・・・」
「授業中も元気だったのは何でかな?
ふふふ、その件は秘密にしといてあげる」
「・・・」
「おおお!葉蘭が、本物の葉っぱだ!
料亭みたい、やるねー少年、見直したよ」
少女は、何の躊躇いもなく、幕の内弁当を食べ始めた。
「味は・・・まあまあ、可もなく不可もなく」
食べておきながら、酷い評価だ。
そして、弁当箱の僕は空っぽになってしまった。
空っぽになった僕を、少女は近くの川で洗い、
「ご馳走様。」
と丁寧に締めた。
竪穴式住居に戻った少女は、原生林で取れた山菜を使い、夕食を作った。
そして、空っぽの弁当箱に山菜御飯を入れ、その上に、山芋をどっさりかけた。
「さあ、人の姿に戻りましょう」
少女はそう言うと、僕を人の姿に戻した。
「どう?幕の内弁当から、山掛け山菜御飯弁当に代わって気分は?」
「山掛け山菜御飯な気分」
僕は面白みの欠片もない返答をした。
しかし、大量の山掛け・・僕に何を求めてるのだろう?
また元気になっちゃう。
「山掛け山菜御飯で、この原生林の精霊を取り込んだあなたは、少しだけ私に近づいたの」
私に近づいたの?
少女は何者なんだろう?
少なくとも、本物の鹿の毛皮着ぐるみを着た少女は、只者ではない。
竪穴式住居を出ると、原生林の冷たい風が吹き、鹿の着ぐるみの尻尾が、嬉しそうに揺れた。
つづく
「ホーホケキョ」
と、僕は鳴いた。
え?何で僕、鶯(うづいす)に成って飛んでるんだろう?
まあ、驚くことでもない。
少女が勝手に、僕を変身させたんだ。
「やれやれ」と呟いたつもりが、「ホーホケキョ」と鳴いていた。
「ホーホケキョ(やれやれ)」
と、僕が鳴くと、地上の原生林で、立ち尽くしていた少女と目が合った。
無茶振りされる気がしたけど、僕は吸い寄せられるように降下し、少女の指に止まってしまった。
原生林の澄んだ空気の中にいる少女は、その空気と同様に、透き通るような表情をしていた。
でも着ている服が、鹿の着ぐるみっぽい?
ん?これは着ぐるみじゃない。
本物の鹿の毛皮と角だ!
「ホーホケキョ(何着てるんですか!)」
驚く僕の叫びに、鹿の尻尾が嬉しそうに揺れた。
「ネットで見た、着ぐるみパジャマが可愛かったから、自分で作ってみたの、可愛いでしょう」
彼女の可愛いの基準が解らん・・けど、
「ホーホケキョ(う・・・うん)」
と返答。
そう言えば、彼女の私服を見るのは初めてだ。
初めて見る転校生の少女の私服が、鹿の剥製で作った着ぐるみパジャマとは、驚愕すぎる。
剥製の鹿の目が、何かを悟ったような目をしていた。
この状況、悟るしかないよね。
「行こう」
鹿の剥製着ぐるみを着た少女は、僕を指に乗せたまま、歩き出した。
5分ほど歩いたところに、雑木林の中にこんもりとした小山があった。
「ホーホケキョ(こ・・これは・・・・)」
一見、外からは小さな小屋ぐらいの、小山に見えたが
「ホーホケキョ(これは、竪穴式住居!)」
驚く僕に少女は、
「昼ごはんにしましょう」
と呟く様に言うと、隠し扉を開け中に入った。
竪穴式住居の中は、ひんやりとして気持ちよかった。
「私が張る結界の砦みたいなところよ。
半分地中に埋まってるから、大地の気の流れを感じやすいの。
最近、大地の流れが大きく変わってしまった性で、私の張った結界が突破された」
多分、この前の暗殺者たちの事だ。
憂いた顔の少女に僕は、鳴いた。
「ホーホケキョ(・・・・)」
この場に鶯(うぐいす)の鳴き声とは、なんか間が悪い。
「・・・それよりお腹すいた。今、幕の内弁当が食べたい気分」
と、少女は言ったが、幕の内弁当など見当たらないし、
ここは原生林のど真ん中、弁当屋なんてどこにも無いはず。
「ホーホケキョ(まさか!)」
少女は僕の泣き声に、ニヤリと笑った。
そう、次の瞬間、僕は幕の内弁当に変身させられた。
「私ね、いつも思ってたの、きみって、幕の内弁当みたいだって、可もなく不可もなく、存在感も薄め。でもある種の安定感は持ってる。でね、
『本当にきみが幕の内弁当だったら、どんな味がするんだろう?』って」
「ぼ・・・僕を・・・男を食い物にする気ですか!」
「否定はしない」
「否定して下さい!」
「心配しないで、状況を正確に言うと、お弁当箱が、あなたを形作っている型。
あなたの血や肉や骨を変換したもの。
そして、このお弁当に入っている料理は、きみ自身の思念情報を食べ物として具現化したもの」
少女はそう説明したが、なんの事やら・・・・
「私が今から食べようとしているのは、きみの意識情報」
「僕の意識情報?」
「夢を食べる獏みたいなものよ。」
「僕の意識情報を食べてどうしようって言うの?」
魔法使いの少女は、僕の問いに答えることなく、
「いただきます」
と言ってしまった。
そして、弁当の蓋は開けられ、僕の中身を少女に晒した。
「おっ、漆のお弁当箱・・・渋いね、少年」
「いやん(/ω\)」
「えーとメニューは、ご飯に梅干、鮭に、から揚げに、豆が乗ったシュウマイ2つに、ウインナー・・・きみのウインナー(笑)」
「いやん(/ω\)」
「えーと、後は、玉子焼きに里芋の煮物に蓮根にゴボウサラダ、鶉の卵が2つに、飾りだけのレタス1枚、そしてナポリタン少々、沢庵3枚、チーズ竹輪・・・あっチーズが出掛かってるよ、少年。何でかな?」
「・・・」
「授業中も元気だったのは何でかな?
ふふふ、その件は秘密にしといてあげる」
「・・・」
「おおお!葉蘭が、本物の葉っぱだ!
料亭みたい、やるねー少年、見直したよ」
少女は、何の躊躇いもなく、幕の内弁当を食べ始めた。
「味は・・・まあまあ、可もなく不可もなく」
食べておきながら、酷い評価だ。
そして、弁当箱の僕は空っぽになってしまった。
空っぽになった僕を、少女は近くの川で洗い、
「ご馳走様。」
と丁寧に締めた。
竪穴式住居に戻った少女は、原生林で取れた山菜を使い、夕食を作った。
そして、空っぽの弁当箱に山菜御飯を入れ、その上に、山芋をどっさりかけた。
「さあ、人の姿に戻りましょう」
少女はそう言うと、僕を人の姿に戻した。
「どう?幕の内弁当から、山掛け山菜御飯弁当に代わって気分は?」
「山掛け山菜御飯な気分」
僕は面白みの欠片もない返答をした。
しかし、大量の山掛け・・僕に何を求めてるのだろう?
また元気になっちゃう。
「山掛け山菜御飯で、この原生林の精霊を取り込んだあなたは、少しだけ私に近づいたの」
私に近づいたの?
少女は何者なんだろう?
少なくとも、本物の鹿の毛皮着ぐるみを着た少女は、只者ではない。
竪穴式住居を出ると、原生林の冷たい風が吹き、鹿の着ぐるみの尻尾が、嬉しそうに揺れた。
つづく
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。
梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。
王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。
第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。
常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。
ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。
みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。
そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。
しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】たとえあなたに選ばれなくても
神宮寺 あおい@受賞&書籍化
恋愛
人を踏みつけた者には相応の報いを。
伯爵令嬢のアリシアは半年後に結婚する予定だった。
公爵家次男の婚約者、ルーカスと両思いで一緒になれるのを楽しみにしていたのに。
ルーカスにとって腹違いの兄、ニコラオスの突然の死が全てを狂わせていく。
義母の願う血筋の継承。
ニコラオスの婚約者、フォティアからの横槍。
公爵家を継ぐ義務に縛られるルーカス。
フォティアのお腹にはニコラオスの子供が宿っており、正統なる後継者を望む義母はルーカスとアリシアの婚約を破棄させ、フォティアと婚約させようとする。
そんな中アリシアのお腹にもまた小さな命が。
アリシアとルーカスの思いとは裏腹に2人は周りの思惑に振り回されていく。
何があってもこの子を守らなければ。
大切なあなたとの未来を夢見たいのに許されない。
ならば私は去りましょう。
たとえあなたに選ばれなくても。
私は私の人生を歩んでいく。
これは普通の伯爵令嬢と訳あり公爵令息の、想いが報われるまでの物語。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
読む前にご確認いただけると助かります。
1)西洋の貴族社会をベースにした世界観ではあるものの、あくまでファンタジーです
2)作中では第一王位継承者のみ『皇太子』とし、それ以外は『王子』『王女』としています
よろしくお願いいたします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
誤字を教えてくださる方、ありがとうございます。
読み返してから投稿しているのですが、見落としていることがあるのでとても助かります。
狗神巡礼ものがたり
唄うたい
ライト文芸
「早苗さん、これだけは信じていて。
俺達は“何があっても貴女を護る”。」
ーーー
「犬居家」は先祖代々続く風習として
守り神である「狗神様」に
十年に一度、生贄を献げてきました。
犬居家の血を引きながら
女中として冷遇されていた娘・早苗は、
本家の娘の身代わりとして
狗神様への生贄に選ばれます。
早苗の前に現れた山犬の神使・仁雷と義嵐は、
生贄の試練として、
三つの聖地を巡礼するよう命じます。
早苗は神使達に導かれるまま、
狗神様の守る広い山々を巡る
旅に出ることとなりました。
●他サイトでも公開しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる