5 / 27
ミックスジュース
【肆】待ってろお兄ちゃん!
しおりを挟む懐中電灯の灯りが消え、完全に光のない闇がぼくを覆った。
ぼくの人生は終り?
☆…━━━━━・:*☆…━━━━━・:*☆…━━━━━・:*☆
車の窓に、カブトムシが風にも負けず必死でしがみついていた。
配達用の軽トラのミゼットの室内はやたら狭く、運転席に座る愛結島琉之輔の肘が、水穂未樹の肘に当たった。
さっき会ったばかりの男と、こんな狭い空間に一緒にいるのは気が引けた。
それもかなり愛想の悪い男だ。
「少なくとも商店の店員なんだから、少しくらい愛想良くしても良いのに」水穂未樹は思ったが、表情には出さなかった。
でも車内はなんとなく良い香りがした。
知らない異質な香りだ。
そもそもこの愛結島琉之輔も、異質な香りがした。
嫌な香りではなく、どこか安心させる香りだ。
「悪い人間ではなさそう」水穂未樹の勘はそう告げていた。
「だからこそもうちょっと愛想良くしたら、モテるのに」水穂未樹の乙女心はそう告げていた。
ミゼットは山道を走り始め、空はどんどん薄暗くなっていく。
水穂未樹の心は不安が満ちて行ったが、窓にしがみつくカブトムシを見ていると、少しは不安が落ち着いた。
ミゼットを降り、山道を少し歩いていると、あのカブトムシも着いてきた。
少し頼もしさを感じた。
「あちらです」
愛結島琉之輔は、が示す方角には小さな地蔵があった。
愛結島琉之輔は、その地蔵をどかすと、地蔵の奥の壁を開いた。
その奥には、人が1人入れるトンネルがあった。
「どうぞ、この中へ」
「えっ?わたしが先に入るの?」
「先にではなく、貴女だけが入るのです」
水穂未樹は流石に恐怖を感じた。
鬱蒼と茂った木々によって、周囲は薄暗く、さらに人里からかなり離れている。
こんな洞窟に1人で入るなんて。
「親近者である貴女が貴女の兄を引き寄せるのです。ここはそう言う仕組みです。
人は人と繋がる」
と人との繋がりを拒絶してそうな愛結島琉之輔は言った。
1分くらい水穂未樹が躊躇っていると、
「それでは閉めますね」
「えっお兄ちゃんは?」
「どちらにせよ、もうすぐ時間切れです」
「時間切れ?」
「はい」
「お兄ちゃんは?」
「もう会えないでしょう」
「!・・・行きます」
水穂未樹は、暗い穴を見た。
泥がぬかるんでいた。
愛結島琉之輔から、懐中電灯の着いたヘルメットを渡され、
「彼が道案内をします」
とカブトムシを紹介された。
普通のカブトムシではないらしい。
カブトムシがトンネル内に入ったので、水穂未樹も覚悟を決め小さなトンネル内に入った。
「ううううう制服がどろどろじゃん」
匍匐前進意外に進む手段がなかった。
「待ってろお兄ちゃん!」
つづく
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
宮廷画家は悪役令嬢
鉛野謐木
ファンタジー
みなさまごきげんうるわしゅう。わたくし、ローゼンシュヴァリエ王国、インヴィディア公爵家次女、エルヴェラール=フィオン=インヴィディア7歳ですわ。
さっそうよくある話で恐縮ではございますが、わたくし、前世の記憶を少しだけ思い出しましたの。わたくしはどうやら前世でいう「乙女ゲーム」というものに転生してしまったようですの。
乙女ゲームに転生してしまった主人公の悪役令嬢が前世の記憶を少しだけ思い出し、悪役令嬢としての役目を放棄して自由気ままに絵を描きながら時々彫刻をしてみたり前世のアイテムを作ってみたりする話。
カクヨム様、エブリスタ様、にも掲載しています。
悪役転生を望んだが男にしろとは言っていない!もよろしくお願いします。
隻眼の覇者・伊達政宗転生~殺された歴史教師は伊達政宗に転生し、天下統一を志す~
髙橋朔也
ファンタジー
高校で歴史の教師をしていた俺は、同じ職場の教師によって殺されて死後に女神と出会う。転生の権利を与えられ、伊達政宗に逆行転生。伊達政宗による天下統一を実現させるため、父・輝宗からの信頼度を上げてまずは伊達家の家督を継ぐ!
戦国時代の医療にも目を向けて、身につけた薬学知識で生存率向上も目指し、果ては独眼竜と渾名される。
持ち前の歴史知識を使い、人を救い、信頼度を上げ、時には戦を勝利に導く。
推理と歴史が混ざっています。基本的な内容は史実に忠実です。一話が2000文字程度なので片手間に読めて、読みやすいと思います。これさえ読めば伊達政宗については大体理解出来ると思います。
※毎日投稿。
※歴史上に存在しない人物も登場しています。
小説家になろう、カクヨムでも本作を投稿しております。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
雨上がりに僕らは駆けていく Part1
平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」
そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。
明日は来る
誰もが、そう思っていた。
ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。
風は時の流れに身を任せていた。
時は風の音の中に流れていた。
空は青く、どこまでも広かった。
それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで
世界が滅ぶのは、運命だった。
それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。
未来。
——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。
けれども、その「時間」は来なかった。
秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。
明日へと流れる「空」を、越えて。
あの日から、決して止むことがない雨が降った。
隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。
その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。
明けることのない夜を、もたらしたのだ。
もう、空を飛ぶ鳥はいない。
翼を広げられる場所はない。
「未来」は、手の届かないところまで消え去った。
ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。
…けれども「今日」は、まだ残されていた。
それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。
1995年、——1月。
世界の運命が揺らいだ、あの場所で。
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる