MPを補給できる短編小説カフェ 文学少女御用達

健野屋文乃(たけのやふみの)

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19 新しい物語の章

文学部地下書庫の怪人

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大学の文学部の就職率は低い。

わたしの就活の失敗はそれだけではないが、
「やっぱ悔しい」
わたしはふと呟いた。

わたしの言葉に、友人3人は少しだけ頷いた。


ここは文学部地下書庫。

わたしの前に立ちはだかっているのは、この地下書庫の管理者の女史だ。
準教授であるにも関わらず、和服を着ていた。
まるで大正デモクラシーを思わせる、和洋折衷な出で立ちのアラサー女子だ。

なぜ21世紀になって20年以上経過しているのに、彼女がそんな姿をしているのかは、不明だ。

そしてここにいるのは文学部の女子が4人。

選ばれた、違うな、残されたと言った方が適切だろう。
どいつもこいつも冴えない顔をしている。
就職戦線の敗北者だ。

なんで敗北者になったか?
わたしは知っている、この準教授に洗脳されたからだ。
真実と言う名の洗脳だ。

この底辺大学の底辺文学部の地下書庫には、真実が隠されていた。
逆に底辺大学の底辺文学部の地下書庫だからこそ、真実が隠されたのかも知れない。

とりあえず今は、それが真実だと仮定しよう。

大正デモクラシー女史は、この中では可愛い女子の身体を、指棒で弄った。
あくまで『どいつもこいつも冴えない顔をしている』の中ではまだ可愛い女子だ。

「先生、みんなの前では止めてください」
この中では可愛い女子は、ドMな表情をしながら言った。
ドMなその女子は、何故か大正デモクラシー女史に心酔していた。

いつもならこの後、ドMなその女子は、指棒でお尻を叩かれるのだが、今日はないみたいだ。

大正デモクラシーな女史は、黒いマントを翻すと告げた。
「この世界の80%は、嘘である。人は嘘の中で生き、嘘の中で死んで行く。
それがこの世界だ。なのに諸君は、この世界の真実を知ってしまった!」
大正デモクラシーな女史は、自分の言葉に酔っていた。

20世紀のSF作家シオドア・スタージョンが言ったスタージョンの法則
「どんなものでも9割はガラクタだ」
を思わせる内容だが、ここでそれを言うのは、空気を読まなさ過ぎので沈黙だ。

そして真実・・・

この女史の告げた事が真実であるかどうかは、わたしには解らない。

「だからこそ君らは『離さないで!』『話さないで!』『放さないで!』この言葉を心の奥に仕舞う必要がある。解るかねこれらの意味が?」

大正デモクラシー女史は、わたしたちに告げた。

『離さないで!』『話さないで!』『放さないで!』
わたしたちは、どいつもこいつも冴えない顔をしている。
解るはずがない。

大正デモクラシー女史は、この中では可愛い女子の手を握った。

大正デモクラシー女史は、彼女を書庫の奥に誘った。
わたしと残りの女子も、その後を付いて行った。

書庫の小部屋には黒板があった。
女史はそこにこう記した。

『真実を離さないで!』
『真実を話さないで!』 
『真実を放さないで!』

ニュアンスが『見ざる、聞かざる、言わざる』に似てなくもない。
ここでそれを言うのは、空気を読まなさ過ぎので沈黙だ。

「真実とは切れ味の鋭い刀と同じだ。刀は鞘に納めて置くべきなのだ!」

大正デモクラシー女史は、この中ではまだ可愛い女子を、抱きしめ、
「さあ行こう」と呟くと地下書庫の照明を消した。

その暗闇の中で女史の声が響いた。
「お前たちに授けた真実は、いずれ強力な武器になるであろう!」

照明が着いた時には、女史と女子は消えていた。

「この演出はどうなん?」
「イチャコラしに行った?」
「地上に上がってカフェに行こう」

残された3人は、何事もなかったかのように、地上に上がってカフェした。

ただわたしたちが『はなさないで』と言う時は、

『真実を離さないで!』
『真実を話さないで!』 
『真実を放さないで!』

これらの言葉を意味することは、秘密だ。
絶対に。

あんな変な準教授と、知り合いだと思われたくないのと、心のどこかでその真実を信じているからかも知れない。
        
       
         完
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