MPを補給できる短編小説カフェ 文学少女御用達

健野屋文乃(たけのやふみの)

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16 きんいろのかぎの章

女子中学生シェフ♪かすみちゃんの冒険譚 離島から来た少年編【下】

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      ●懐柔成功、ちょろいね●


その前に、わたしは鞄の中の食べ損ねた焼きそばパンの事を思いだした。

「焼きそばパン食べる?」

那実人くんは頷きが、少し緊張がほぐれた。
懐柔成功、ちょろいね。
流れに乗ったところで、わたしはあの話を始めた。

「わたしの家ね、レストランやってるんだけど、雨の日に限ってやってくる客がいるのね。わたしたちは勝手に雨女さまって呼んでるんだけど、なんで雨の日にだけやってくると思う?」

わたしの話に、那実人くんはチラッと横目でわたしの瞳を見つめた。
この距離で見つめられるとは思わなかったので、ドキッとした。

「なぞなぞ?」

なぞなぞ?ちょっと子どもっぽい発想だが、ちょっと前まで小学生だったのだ。
それは仕方ない。他の男子に比べても那実人くんは子どもぽいし。


「本当の話だよ」

那実人くんは、じっとわたしを見つめた。

ん?違う、視線が合ってない。

まるでわたしの背後の何かを見ているみたい。

鋭く心に突き刺さる視線だ。
痛みこそはないが、まるで銛で突き刺され絶命した気分だ。

那実人くんは空にあるネジを回すように、親指と人差し指を回し、

「違うよ、その人は雨女さまじゃない」
「ん?」
「問題はもっと大きい」
「えっ?」

わたしはちょっと軽い話題作りの話を、しようとしただけなの。

なんか・・・重く暗い雰囲気が・・・




        ●怯える少年●


「香坂さん家のレストランが特殊なんです」
「うちのレストランが特殊?」
「正確には、レストランのある丘の上が特殊なんです」

転校して来たばかりの少年が、なんで丘の上にレストランがあるって知ってるんだろう?
嘘を着いている様には見えないし、那実人くんの目が綺麗過ぎて、何か特殊な少年なのかも知れないと思えた。

「江戸時代、と言っても幕末ですが、その丘の上に饅頭屋があったんです」

那実人くん、なんか本気で語りだしたけど、止められそうもない。

「その日、雨の日であったにも関わらず、創業祭の食べ放題セールにつられて、多くの食い意地のはった街の人が訪れたそうです。
店内は大盛り上がりだったんですが、雨が止む気配がしない。
雨はどんどん降り続け、ついに大洪水へと発展しました。
丘の下の街の人々は逃げる間もなく、丘の上にある饅頭屋にいる人だけが助かったんです。食い意地のはった人だけが。
死んでいった人たちは、丘の上の饅頭屋に行っておけば良かった・・・もっと食い意地が張っていれば良かった。と言う想いがこの地には残ってしまったんです。
だから雨の日には、その想いに乗せられた、乗せられやすい人、そう言ったのを感じやすい人が、香坂さんのレストランへと向かってしまうんです。
きっとその赤い傘の女の人は、感じやすく、思いに憑依されやすい人なんだと思います」


そう言えば・・・江戸時代にあった洪水の話はどこかで聞いたことがある。

そして、通常レストランは雨の日は客足が減るらしいけど、うちのレストランは逆に人が増える・・・そう言う事か。

丘の上の饅頭屋に行けばよかった・・・もっと食い意地が張ってれば良かった・・・


あれ?

わたしは小さい頃、そんな想いを感じた事があったのを思い出した。

わたしは、ちょっとゾクッとした。


那実人くんは焼きそばパンを美味しそうに食べると、
「でもそんな思いが集まっているからこそ、香坂さん家のレストランは繁盛してるんです」
「そうなんだ」

まさかの話の展開にわたしは驚いたのだが、ちょっと怖くなって話を変えた。


「那実人くんは一人暮らし?」
「うん」
「ご飯とかちゃんと食べてる?」
「うん」
「わたし料理人志望だから、料理上手いんだよ。作ってあげようか?」


つい1人暮らしの男子中学生を前にして、自分の料理の巧さを、自慢したい欲求が出てしまった。
考えてみれば男子の部屋に行くって事だ!

那実人くんは、少し怯えて
「吾輩は・・・都会の人の女の人は・・・・ちょっと」
と。

離島で、からかい半分で何か入れ知恵をされたのだろう。
都会の女の人は・・・どうのこうのと。

この街は都会ってほど都会ではないし、どちらかと田舎の部類なのだが。
まあ、怯える那実人くんは、可愛かったので、今日は許してあげよう。

とりあえずわたしは、この可愛い転校生との仲良しの一番乗りを果たした。



             完


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