MPを補給できる短編小説カフェ 文学少女御用達

健野屋文乃(たけのやふみの)

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16 きんいろのかぎの章

女子中学生シェフ♪かすみちゃんの冒険譚 離島から来た少年編【上】

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      ●雨女さまの来訪●


雨の日の夕方。

丘の上のレストランの駐車場には、ピンクのラパンが停まっていた。
かすみが、レストランの勝手口から入ると、早速ひよりが声を掛けてきた。


「かすみちゃん、びしょ濡れじゃない!風邪ひくから早く着替えて!
言ってくれたら迎えに行ったのに」


祖父母のレストランでバイトをしてもらっている、女子高生だ。
人懐っこい性格で、すぐに、かすみのお姉ちゃんみたいな存在になった。

中学生のかすみに取ってとても頼もしい存在だ。

「雨の日は客が多いから、いいよ」

祖父母のレストランは、なぜか雨の日は客が多い。
何故なのかは不明だ。


「着替え手伝おうか?」
「いいよ」
「一緒にシャワー浴びる?」
「浴びない!」

ひよりは人懐っこいが、ちょっとウザい。

かすみは自分の部屋に駆け上がると、素早くシェフの制服に着替えた。

レストランの厨房に入ると、ひよりが小声で言った。

「また来てるよ、雨女さま」

雨女さま。
雨の日になると必ずくる女性客だ。

着物を着て大きな赤い傘を持っているから、それはそれは目立つ。
そして晴れの日に、絶対見かけない。

「注文、行って来るね」

ひよりは、注文を取りに行った。
注文は決まっている。
珈琲とデミグラスオムライスだ。

まあ、得意料理の1つだ。問題ない。

なぜ雨女さまは、なぜ雨の日にだけ来るのか?

かすみは、デミグラスオムライスを作りながら考えた。




       ●初めての循環バス●



那実人なみとくんは、離島の中学校が廃校になってしまって、わたしの通う中学校に転校して来た可愛い系で自称が『吾輩』の変わった少年だ。


自己紹介の時『吾輩』と言った時のクラスの驚きは凄かった。
多分、ずっとかなり少人数のクラスで、すくすくと自由に育って来たのだろう。


その那実人くんが、挙動不審状態で路線バスに乗ってきた。

私服の那実人くんを、見るのは初めてだ。

なんだろう?

なんか服が、めっちゃ余所行き感いっぱいのなんだけど。
彼にとっての都会のイメージなのだろう。

離島に比べればこの街は都会だけど、どちらかと言うと田舎だ。

その服は、気合入れ過ぎ!

その彼にとって初めての循環バスなのだろう。
こっちにも伝わるくらい、どっきどきの表情をしていた。

海の香りがしそうなちょっと日焼けした那実人くんは、バスの運転手と何か話した後、わたしの存在に気付いた。

バスは良い感じに混んでいて、ちょうどわたしの隣の席が空いていた。
同じクラスの女子であるわたしの隣に座らないと、気まずいくらいの混み具合だ。


『吾輩は、赤の他人の女子なら、気にしないけど、同じクラスの女子なら、何か会話しないと気まずいと思った』

って表情の憂鬱な那実人くんだが、この混み具合&雰囲気。

わたしの隣に座らないと不味いんじゃないの?

少年は伏目がちに軽く会釈すると、わたしの隣に座った。でも、


「・・・」
「・・・」


明らかに焦る無口な那実人くん。

はぁ~、女子の方から話しかけるのもと思ったが、わたしは仕方なく、話を振った。

『雨の日にだけ、うちのレストランに来る雨女さま』の話を。



女子中学生シェフ♪かすみちゃんの冒険譚 離島から来た少年編【下】 へ つづく
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