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14 かなうの章
林檎ジュースとアダム教授
しおりを挟むⅠ
上空には、大きな翼の天使がゆっくりと旋回していた。
「満月の夜が危険なの」
と凛々しい顔した天使が言っていた。
今日はその満月だ。
お蔭で天使たちは休日抜きで警戒に、あたっていた。
「園に悪魔が入り込んだんだって」
あたしの可愛い恋人は、心配そうに言った。
心配そうな彼も可愛いのだが。
「気にしなくても、大丈夫だよ」
と気休めを言った。
悪魔がどんな姿をしているのかさえ、あたしには解らない。
エデンの園と呼ばれるこの場所では、悪魔の侵入に、神や天使は大騒ぎだ。
でも、それはそれ、これはこれ。
と言う事で、あたしと恋人は、パイナップルの木に向かった。
そろそろ美味しくなる頃なのだ。
パイナップルの木に着くと、あたしはナイフを取り出し、パイナップルの実を取ると、食べやすいサイズに切り分けて、じっとあたしの様子を見ていた恋人に渡した。
「ありがと」
恋人はそう言うと、パイナップルの実を頬張った。
「美味しい」
とあたしに視線を送った恋人の笑顔と言ったら、可愛さ1000倍だ。
あたしは恋人の隣に座って、一緒に美味しいパイナップルを食べた。
しあわせ。
そんな、しあわせなひと時の後、
「知恵の実が!知恵の実が食べられた!」
天使が大騒ぎする声が聞こえた。
知恵の実。神から食べないように言われていた禁断の実だ。
あたしと恋人も騒ぎの中心へと向かった。
騒ぎの中心では、天使に何者かが捕らえられたていた。
「ねえ、あれはアダムとイブじゃない」
そうあたしの家の隣に住んでいるアダムとイブだ。
アダムは林檎の実を掴んでいた
どうやら、大変な事になったらしい。
知恵の実を食べた人間は、善悪を知るらしい。
「善悪って?」
「さあ」
あたしは善悪を知らない。
とにかく良く解らないまま、アダムとイブは園を追放された。
追放される日、あたしは隣人を見送りに行った。
今にも泣きそうなイブを、あたしの恋人が慰めていた。
「なぜ知恵の実を食べたの?」
あたしの問いにアダムは答えなかった。
その代りにアダムが言った言葉が、
「お前ら、裸だぜ」
「裸?」
なんの事だろう。
そう言えばアダムとイブは、身体を動物の皮の布で覆っていた。
「まあ良い。じゃあな、またどこかで会おう」
そうやってアダムとイブは、追放されていった。
あたしはその身体を覆っているものを、カッコいいと思ってしまった。
後のあたしたちはパイナップルの葉っぱから、服と呼ばれる物を作るようになった。
それはとても優しい服だった。
Ⅱ
「エデンの園の記憶がある」
そんな事を誰にも言った事はなかったし、これからも言うつもりはない。
だいたい大昔に本当にエデンの園があったかのかすら、今となっては曖昧だ。
だけど最近なんか嫌な予感がしている。その記憶に関する予感だ。
まあ経験上そんな思いは大体杞憂に帰する。
今迄もそうだったし、きっとこれからもそうだろう。
きっと疲労が貯まり過ぎて、思考がおかしくなっているに違いない。
夏休みに荒稼ぎしたろうと、バイトを入れ過ぎたのだ。
「疲れた・・・とりあえず、いっぱい寝たい」
思考がおかしくなっている最中、盆休みで誰も居ない大学の女子寮の公衆電話が鳴り、医学部の教授に『今すぐ来てほしい』と告げられた。
文学部のわたしが、なぜ医学部の教授に呼ばれるのか?
「って!朝の5時にもなってないじゃん、ほぼ夜じゃねーか!」
わたしは大学内の女子寮から展望台の食堂へ向かった。
明け方の大学内には誰の姿もなかった。
なぜ呼ばれるのか、心当たりはない。
でも嫌な予感が当たったのであれば・・・
ちょっとした恐怖に襲われた。
わたしは記憶が在る以外は、至って普通の人間だ。
今更エデンがどうの言われたって困る。
わたしは、大学の展望台の食堂へと向かった。
まだ誰も居ない食堂に入ると、記憶の中のアダムにそっくりな教授が、かなりお高いであろう皮ジャンを着て、一番奥の席で待っていた。
テーブルには教授の他に、白衣を着た医者が7人いた。
並びは、女医男医女医男医男医男医女医だ。
そして教授の席のテーブルには、林檎ジュースが。
「はぁ」わたしは心の中で溜息を着いて、
「もしかしてアダム?」
と聞こえないくらいの声で聞いた。
教授は頷いた。
そして、にやけると、
「お前、裸だぜ」
と。
なんてこった!!!!!!!!!!!!!!!
記憶のせいだ!間違いなく記憶のせいだ!
あの記憶にうなされたせいで、あの時の感覚で生活してしまっていたのだ!
わたしは決して変態ではない!
絶対に!
完
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