MPを補給できる短編小説カフェ 文学少女御用達

健野屋文乃(たけのやふみの)

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14 かなうの章

夜空には、知ってる月が輝いていると言うのに。 

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公園のベンチで寝落ちしそうになる寸前、
「あの丘を越えれば、あなたの願いが叶う」
と誰かが耳元で囁いた。


ぼくは目を開け、見慣れない景色に、
「ここはどこだろう?」と数秒、自問自答したのがいけなかったらしい。

耳元で囁いた誰かの姿は既になかった。

そして、この異界で、ぼくが生まれ育った世界の言葉をしゃべる存在に驚いた。

人は異なる人を迫害したがる。
その迫害の中で聞いた懐かしい言葉に、ぼくは癒された。
こんな事で癒されるなんて、嘆かわしい。




☆…━━━━━・:*☆…━━━━━・:*☆…━━━━━・:*☆



100キロは歩いたんじゃないかと思う。
身体に疲労が充満していた。

丘を越えると辿り着くと思っていた。
やっぱり無理か。

知らない街。
知らない人。
知らない言葉。


夜空には、知ってる月が輝いていると言うのに。


『どんな強固な城にも必ず抜け道はある』

歴史探究部の女子の先輩が、ぼくに行ってくれた言葉だ。

そう、この異界にも必ず抜け道があるはずだ。


「はぁ~先輩に会いたい~めっちゃ先輩に会いたい~」

ぼくは言葉にして呟いた。この世界では意味のない音だろう。


「はぁ」


ぼくが書こうとしていた『パラレルワールドに関する論文』

決して異界に来たかった訳ではない。

でも興味を持ってしまった事が、ぼくを異界に呼び寄せたのかも知れない。


「はぁ」


知らない街では、どうやら何かの祭りをやっているようだ。
人々の表情がかなり陽気だ。この雰囲気なら迫害はされないだろう。

ぼくはちょっとホッとした。


空腹なぼくは、街外れの個人経営のハンバーガー屋に入った。
店内の籠の中のインコが、ぼくを見ると羽を羽ばたかせた。

鳥好きなぼくでも、疲れて相手をする気力はない。

この異界は現世と同じような硬貨を使っていて、よく見れば違うのだが、たかが硬貨を、わざわざ見る人などいない。

そして、これで硬貨は底をつく。
最後の食事になるだろう。


ぼくはハンバーガー屋の店員に小声で何かを呟き、メニューを指差した。
可愛らしい女子の店員だ。現世での部活の女子の先輩に似ていた。

ぼくの心は少し躍った。しかし残念ながらここは異界。

言葉なんて通じない。

店員は、何かの言葉を発すると、当然の様に、ぼくの頭を撫でた。
なぜかは解らない。


何かの習慣か?
何かの挨拶か?
何かそんなお祭り?

ぼくは愛想笑を浮かべ誤魔化した。

女子の先輩似の店員は、特別疑う事もなく、厨房に向かった。
まさか異界人がいるなんて、誰も思わないだろう。

店員がハンバーガーとドリンクを持ってきた。
そして自分の頭を差し出した。


これはどういう意味だ?
頭を撫でろって事か?
お祭りの決まり事か?

ぼくは店員の頭を撫でてみた。

店員は嬉しそうに、何かのお礼を言った。多分。
正解だったらしい。

女子の先輩に似た店員は、ポテトも持ってきていた。

『サービスだよ』
的なニュアンスだと思う言葉を発した。

知らない異界に来たとしても、ぼくの味方になってくれる人は、同じようなタイプらしい。

この街に来るまで、敵意に満ちた人々とばかり出会って来た。
ぼくは、生まれて初めて迫害と言うものを経験した。

でも運が、ぼくに味方し始めたのかもしれない。

どうやら指をさしたハンバーガーは、チーズバーガーだったらしい。

これもついてる?

ぼくはハンバーガーは、チーズバーガーと決めていた。


ぼくは焼きたてのチーズバーガーを食べた。
香ばしい良いチーズだ。
ケチャップとの相性が最高だ。

ドリンクは何かのミックスジュースらしいが、特定は出来ない味だ。

ぼくは深い息を吐くと、今後の事を考えた。

その時!

「西の山の洞窟へ行け!抜け道!抜け道!」

と声がした。


それがインコの声だとすぐ解った!
その言葉を理解できるたのは、ぼくだけだったようだ。

店の人はインコが意味不明の言葉を発しても、気にしない。
見つかった!どんな強固な城にも必ず抜け道はある。

ぼくが店を出ようとすると、女子の先輩似の店員が、手をあげた。

これはハイタッチ?

ぼくは先輩似の店員とハイタッチをした。
可愛い店員は微笑んだ。

どうやら正解だったようだ。


       

          完


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