MPを補給できる短編小説カフェ 文学少女御用達

健野屋文乃(たけのやふみの)

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10 ときめきの章

ピンクな撫子の月の夜に

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撫子な 
いつもと違う 
月を見る

いつもと違う 
あなたの素顔

何かあったの?
と、後で聞こう



ぼくは部活で使う和歌ノートに記した。
高校の和歌部の先輩で、ぼくの和歌の師匠と言っても良い撫子なでしこさんに、いつか読んで貰いたい。

夜空を見上げると、月がいつもより濃厚だった。ピンクムーンと言うらしい。
もしかすると薄めの月の世界から、濃厚な月の世界に来てしまったのかも知れない。
そう思える程、月が濃厚だった。


世界が少しだけ濃厚になった結果、ぼくの何かも少しだけ変わってしまったのだ。
だから深刻な表情の撫子なでしこさんを、追う勇気が出たのだろう。


キッチンカーでホットドックを買うと、撫子なでしこさんの後を追った。

深刻な表情の撫子さんが心配だったからだ。
段状ステップガーデンを登ると、そこには緑化された屋上があった。

緑化された屋上に吹く風は、ビル街の香りと潮の香りがミックスされていた。


撫子なでしこさん」

声を掛けると、撫子さんはぼくをチラッと見た。

「はいチリチリなホットドック、撫子さん好きかなと思って」
「ありがと」

チリチリな辛い方を撫子さんに渡した。
辛い時は辛い食べ物が食べたくなると、どこかで聞いたからだ。


そして、ぼくは勇気を出して、撫子さんの隣に座った。
運が良ければ、撫子さんの腕と触れるかもしれない距離。

深刻な表情の撫子さんに、何があったのかは解らない。
でも、いつもとかなり違う深刻な表情なので、何かあったのだろう。

それを尋ねる程まだ親しくはないのだが。

撫子さんは、チリチリなホットドックの辛さを一口味わうと、

「中学の時の部活の先輩がね、『不幸な時にしか手に入らない幸いがある』って言ってた」
「【不幸中の幸い】ですね」
「その先輩が言うにはね、不幸な時はその【不幸中の幸い】を必死で探さなくちゃいけないんだって、後でその【不幸中の幸い】はとても大切なモノになるからって」


「中学生にしては大人びた発言ですね、その先輩」
「そう、大人びた先輩だった」
「見つかると良いですね」
「見つけたの」

そう言うと撫子先輩は、ぼくをじっと見つめた。

「ん?」

ピンクムーンに照らされた撫子先輩の頬から、少しだけ深刻さが消えた。
そして、じっとぼくを見つめるその視線はとても濃厚だった。

ぼくと撫子さんは、濃厚な世界に突入したらしい。




おしまい
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