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健野屋文乃(たけのやふみの)

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9 なつめぐの章

漫画の女神と文字の男神の恋ゆえに

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神々が集う、神在月のある日。

出雲神界の検察の神は言った。

「天は二物を与えず。当然、ご存じですよね」


被告席には、辛うじて神々らしさを残している漫画の女神が立っていた。

女神・・・と言っても、光り輝く女神ではなく、影のある引きこもり気味の女神だった。

漫画の女神は、小さな声で

「もちろんです」

「漫画の神であるあなたは、人に、二つの【才】を与えましたね

画力と物語構成力・・・これは明らかに、神界の法を犯したと言えるのではないでしょうか?」


「見たかっただけなんです!
歓声を上げたくなるような、美しい絵で描かれた面白い漫画を!
その想いを止められなかったんです!」

弁護の神は、漫画の女神を制止した。

「漫画の神、落ち着いて」


検察の神はため息をついた。

「それなら、画力のある者と物語構成力のある者が、コンビを組めばいいだけの事、神である貴女なら、
それぐらいの縁を結ぶことぐらい容易ですよね」

「それとは違うんです!
漫画家の頭の中でイメージされた世界観は、自らの手でしか表現できない事があるんです!
1人の漫画家の絶対領域、他者が入ることが出来ない、その絶対領域からこそ、生まれてくる作品があるんです!
わたしは、そんな作品が読みたいんです」


「そんな個別の事案。神々が考える事ではないでしょう。大切なのは秩序です。
積み重ねられた先例に基づいた美しき秩序こそ、人々を幸福へと導く事が出来る。わたしはそう信じています。」


反論しようとする漫画の神を弁護神は制止した。

「漫画の神よ、少々お待ちを・・・・」

法廷の議論が過熱する前に、弁護神は、漫画の女神に耳打ちをした。

漫画の女神は冷静さを取り戻し、検察の神を見据えた。

そして、

「わたしは、人に二物を与えていません」

「なんと!」

あきれる検察の神に漫画の女神は、

「漫画の絵は絵文字です。すなわち文字です」
「はい?」

「書道家には、文字を美しく描く【才】と、文字列を構成する【才】が与えられております。
ゆえに書として秩序ある美しさが生まれます」

「・・・」

「漫画の絵が文字なら文字を美しく描く【才】と文字列、すなわち物語を構成する【才】が与えられても、
問題はないのではないでしょうか」

「そんな詭弁・・・大体漫画の絵は文字ではない」

弁護の神がすぐに申し立てをした。

「司法の神、参考人招致してもよろしいでしょうか?」

「認めます」


神界法廷に、文字の神が招致された。
文字の男神は、漫画の女神を見るなり、顔を赤らめた。
弁護の神が合図を送ると、漫画の女神は照れくさそうに、文字の男神を見つめた。


弁護の神は知っていた。文字の男神が漫画の女神に恋していることを。


弁護の神は、文字の神に問いかけた。

「神界一の文字の専門家である文字の神から見て、漫画の絵は、文字と考えてよろしいでしょうか?」


文字の男神は、漫画の女神を前にして、

「もちろんですその美しい文字列こそ、人々に幸福をもたらすと信じています」

「書道家に認めてきた先例と同列と言う事ですね」

「その通りです」

            
司法の神の木槌を叩く音が、出雲神界の法廷に響いた。




漫画の女神と文字の男神の恋ゆえに、人間界の漫画家に二物を与える事が出来るように成ったと言う。






おしまい
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