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7 きらめきの章
私じゃない、私。
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「誰か・・・誰か出てきて・・・」
仲間からはぐれて、
どのくらい経ったのか、
彼女にも、解らなくなっていた。
親を知らない彼女にとって、
物心付いたときより、
いつも一緒にいた仲間たちは、
彼女にとってすべてと言ってもいい存在だった。
孤独な彼女を照らしていた太陽の光は、
徐々に弱まり、
彼女の周囲を薄暗い淀みが漂い始めた。
淀みに潜む刺激が神経に触れ
彼女の記憶や気持ちや感情の一部を、
引きちぎろうとした。
「私の心を奪う気?誰?やめて!」
彼女の心の叫びは、
薄暗く淀んだ闇の中に、
行く当てもなく吸い込まれていった。
すると、
彼女の心の叫びに反射したかのように、
闇の中で何かがうごめいた。
仲間が噂しあっていた、
彼女たちを捕食する肉食生物かもしれない。
彼女は闇の中で、じっと息を潜めた。
その間も、神経に触れる刺激が、
心を引き裂こうと躍起になっていた。
地の底から響いてくる地響きが、
彼女の体に伝わり、震え止まらなかった。
「誰か助けて、誰か私を助けて」
地響きの中、
肉食生物のうごめきが、
徐々に近づいてきた。
肉食生物は、
彼女に狙いを定めた。
肉食生物に睨まれた彼女は、
恐怖のあまり身体が動けなくなってしまった。
肉食生物が間近に迫った瞬間、
天空から一筋の光が降り注いだ。
肉食生物はその光に驚き、
慌てて退散した。
彼女は「助かった」と安堵感を感じるはずだった。
しかし、その光は彼女に安堵感をもたらさず、
彼女の引き裂かれそうになっていた心の一部どころか、
体の一部すらも奪い去っていった。
「いやーーーーー!」
体の一部を引きちぎられ、
全身に激痛が走った。
激痛で意識が朦朧とする中、
彼女は激しい喪失感と不安感に襲われた。
するとまた、天空からもう一筋の光が降り注いだ。
その光の中に彼女は、自分と似た生き物を見た。
「仲間?・・・違う!」
彼女は直感した。
その生き物が彼女自身から引き離された、
もう1つの自分である事を。
この星に、雄が誕生した瞬間だ。
もう1つの私じゃない、私。
自己愛かも知れないけど、
私だったもう1つの私が、とても愛おしく思えた。
引き裂かれた激痛に苛まれる中、彼女は呼びかけた。
「戻っておいで・・・私の元に」
しかし、闇の中で何か巨大な生き物が激しく動き出した。
その動きは彼女の周りの水の流れを大きく変え、
彼・・・もう1つの自分はその流れの中に飲み込まれていった。
この時以降、彼女は引き離されたもう1つの自分を、
引き戻すかのように彼を求め、
彼はもといた場所に戻るかの様に、
彼女を求めるようになった。
遥か昔、まだこの星の生き物が、
雄や雌の区別の無い微生物に過ぎなかった頃の話。
終
仲間からはぐれて、
どのくらい経ったのか、
彼女にも、解らなくなっていた。
親を知らない彼女にとって、
物心付いたときより、
いつも一緒にいた仲間たちは、
彼女にとってすべてと言ってもいい存在だった。
孤独な彼女を照らしていた太陽の光は、
徐々に弱まり、
彼女の周囲を薄暗い淀みが漂い始めた。
淀みに潜む刺激が神経に触れ
彼女の記憶や気持ちや感情の一部を、
引きちぎろうとした。
「私の心を奪う気?誰?やめて!」
彼女の心の叫びは、
薄暗く淀んだ闇の中に、
行く当てもなく吸い込まれていった。
すると、
彼女の心の叫びに反射したかのように、
闇の中で何かがうごめいた。
仲間が噂しあっていた、
彼女たちを捕食する肉食生物かもしれない。
彼女は闇の中で、じっと息を潜めた。
その間も、神経に触れる刺激が、
心を引き裂こうと躍起になっていた。
地の底から響いてくる地響きが、
彼女の体に伝わり、震え止まらなかった。
「誰か助けて、誰か私を助けて」
地響きの中、
肉食生物のうごめきが、
徐々に近づいてきた。
肉食生物は、
彼女に狙いを定めた。
肉食生物に睨まれた彼女は、
恐怖のあまり身体が動けなくなってしまった。
肉食生物が間近に迫った瞬間、
天空から一筋の光が降り注いだ。
肉食生物はその光に驚き、
慌てて退散した。
彼女は「助かった」と安堵感を感じるはずだった。
しかし、その光は彼女に安堵感をもたらさず、
彼女の引き裂かれそうになっていた心の一部どころか、
体の一部すらも奪い去っていった。
「いやーーーーー!」
体の一部を引きちぎられ、
全身に激痛が走った。
激痛で意識が朦朧とする中、
彼女は激しい喪失感と不安感に襲われた。
するとまた、天空からもう一筋の光が降り注いだ。
その光の中に彼女は、自分と似た生き物を見た。
「仲間?・・・違う!」
彼女は直感した。
その生き物が彼女自身から引き離された、
もう1つの自分である事を。
この星に、雄が誕生した瞬間だ。
もう1つの私じゃない、私。
自己愛かも知れないけど、
私だったもう1つの私が、とても愛おしく思えた。
引き裂かれた激痛に苛まれる中、彼女は呼びかけた。
「戻っておいで・・・私の元に」
しかし、闇の中で何か巨大な生き物が激しく動き出した。
その動きは彼女の周りの水の流れを大きく変え、
彼・・・もう1つの自分はその流れの中に飲み込まれていった。
この時以降、彼女は引き離されたもう1つの自分を、
引き戻すかのように彼を求め、
彼はもといた場所に戻るかの様に、
彼女を求めるようになった。
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雄や雌の区別の無い微生物に過ぎなかった頃の話。
終
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