MPを補給できる短編小説カフェ 文学少女御用達

健野屋文乃(たけのやふみの)

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6 まつよいの章

白壁の蔵の中

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数年に及ぶ嫌味、そして嫌がらせの数々。

奴は僕をどうしたいのだろうか?
僕が何をされても怒らない程、慈悲深い聖人君子とでも思っているのか?

怒りの限界を超えた。
僕はぶち切れてしまった。もうどうなってもいい。

あんな奴、ぶっ殺してやる!
庭の蔵に古い刀が在ったはずだ。それで・・・

僕は家の庭にある、古い白壁の蔵に向かった。

蔵の扉を開けると、椅子にどっしり座っているかの様に見える武士の甲冑が、僕を出迎えた。
僕がその甲冑の横にある、すでに錆付いて鍵が壊れている桐の戸棚を開けると、

刀を仕舞った桐の箱が静かに置かれていた。

桐の箱を開けると、雅に装飾さた古い刀が丁寧に仕舞われていた。
僕が刀を持つと、刀は重々しくその殺傷力の凄まじさを、僕に感じさせた。

刀を鞘から抜くと、刀身は異様に美しい輝きを放っていた。

僕は、刀を鞘に納め、蔵を出ようとすると、蔵の出口に白い着物を着た者が立ちふさがっていた。

僕は思わず刀を握り締めた。

その者は、僕を制止するかのように、静かに首を横に振った。

「1人殺すのも2人殺すのも一緒だ。」と思った僕は刀の柄を握り、殺意をにじませた。

すると、その者はすーと僕に近づき、僕の胸に触れた。

僕の胸に、その者の研ぎ澄まされた意志と魂が、伝わって来る様な気がした。

僕の目を直視するその者の目は、刀身が放った輝きと同じ、人の目とは思えない異様に美しい輝きを、放っていた。

僕は

「もしかしてあなたは、この刀の・・・幻影?精霊?」

と聞いた。

その者は僕の問いには答えず、僕の目を直視したまま
「もう、人の死は見たくない。」
と言った。

しかし、僕はまだ殺意をにじませたまま、刀を強く握り締めたままだった。

するとその者は強い口調で、
「仕舞え。」
と命じた。僕は今まで感じたことが無い種類の恐怖を感じた。

そして、気がつくと僕は何も持たずに、怒りを忘れ冷静さを取り戻して、

白壁の蔵の前に立ち尽くしていた。

僕の胸にはその者の、研ぎ澄まされた意志と魂の感触が、

まだ残っていた。



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