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健野屋文乃(たけのやふみの)

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5 なれそめの章

呪われた花園 後編

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町長は青銅色の蜂に言われるまま、花畑の養蜂場があった小屋に連行された。

花畑の中を歩くと、花畑のさわやかな春の香りがした。
花々自らの春を謳歌するかの様に、咲き乱れていた。
花々の鮮やかさに、町長は思わず
「ほう!。」
と声を上げた。青銅色の蜂は
「我々の美しき農園でございます。」
と説明した。花畑には蜜蜂たちが忙しく飛び回っていた。

花畑の奥には、養蜂施設兼養蜂家の住居があった。
 町長は
「確か養蜂をやってた爺さんがいたはずだが、死んだのか?。」
 と青銅色の蜂に聞いた。青銅色の蜂は
「ええ、世話好きな良い方でした。」
 と答えた。

ドアが開けはなれたままの住居は、廃墟の様に荒れ果てていた。
住居の奥にある養蜂所の窓から、蜜蜂が頻繁に出入りを繰り返していた。
 町長は
「あまり気持ちにいいものではない。」
と呟いた。青銅色の蜂は
「少々お待ちください。」
 と言って養蜂所の中へ飛んでいった。


町長の首元には未だにテニスボール大の蜂が止まっていた。


数分ほど待つと、養蜂所の窓から青銅色の蜂と、女王蜂と思われる青銅色の蜂の2倍の大きさの蜂が出てきた。

そして、蜜蜂より大き目の10数匹の兵隊蜂が女王を護衛するかのように、町長の周りを飛び回った。

町長の背筋に寒気が走った。

青銅色の蜂は
「女王陛下でございます。」
と言った。
 町長は苦笑いをした。青銅色の蜂は
「女王陛下は『ようこそ我が王国に。』と仰っています。」
言った。
「王国か? 女王がいて軍隊を持ち、農業を営む。王国と言えなくもないか。民主的とは言いがたいが。」と町長は思った。

青銅色の蜂は
「早速本題に入ります。

我々はあなた方人間の力を十分に存じております。

あなた方人間が我々の花園を潰すことなどわけない事でしょう。

我々は養蜂家の翁から譲り受けたこの花園を、守りたいだけでございます。

いかがでしょう。保養施設の建設を取りやめていただけないでしょうか?。」
 と言った。

 町長は失笑した。そして
「蜂の分際で、この土地を譲り受けたいだと?。」と思った。
しかし、町長は
「前向きに善処しましょう。」
と言った。

青銅色の蜂は
「ありがとうございます。女王陛下もお喜びです。」
 と言った。すると町長の首元にとまっていたテニスボール大の蜂が、やっと飛び去った。

町長は、ほっとため息をついた。

町長が蜂たちから解放されて、自分の車に乗り込むと、車内に小さな瓶に詰まれた黄金色に輝く蜂蜜が置かれていた。

青銅色の蜂は
「特別なロイヤルゼリーでございます。我々の気持ちです。

お受け取りください。あなた様と我々の関係がいつまでも良好なものであることを、お祈りしております。」
と言うと、養蜂所の方角へ飛んでいった。

町長は車のドアを閉めて、車内に蜂がいないことを確認すると
「虫けらが!

敵の正体が解れば恐れることなど無い。すぐにでも害虫駆除の業者を呼んで一網打尽にしてくれる。」
と言って車のエンジンをかけた。

ふと町長の目に、太陽の光を受け、黄金色に輝くロイヤルゼリーが目に入った。
「蜂蜜か。蜜蜂は蜜を取ってればいいんだ。」
と言って、ロイヤルゼリーの瓶を取り出すと、一口舐めた。
「ほう!。」
町長は甘美な味に感嘆の声を上げた。

しかし、

その特別なロイヤルゼリーは一瞬で町長の神経を侵し、

町長はそれが猛毒であることを知る事無く町長は絶命した。

呪われた花園の前での、町長の不可解な死によって、花園の呪いの話の噂は近隣市町村にまで、広まった。
そして、保養施設推進派の町長の死によって、保養施設建設は打ち切られた。

町役場は過疎化の流れを止めることが出来ず、隣の市に合併された。

過疎化の進む山奥の花畑でのちょっとした異変の話。

おしまい
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