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4 まっしぐらの章
千佳の変 中篇
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葛城は将来宇宙飛行士になると言っているだけあって、優秀で自信に満ちた顔立ちをしていた。
葛城は地域で最も偏差値が高い高校で、成績は常に首位を維持しており、そして運動神経も他の生徒を圧倒していた。
将来、宇宙飛行士になると言う葛城の夢は、誇大妄想や絵空事ではなく、極めて現実的な予定の様に思えた。
多少クラスで浮いた存在だったが、その事を除けば葛城は出来すぎた少年だった。
そして、千佳が陥った今の状況を打開するには、適任者の様に思えた。
千佳は
「私が世界の時間軸からはぐれた?」
と聞き返した。葛城は自習室の周りの目を気にしながら
「ロビーに行かない?ジュースでも奢るよ。」
と言った。千佳に異論はなく、2人はロビーに向かった。
ロビーのふかふかのソファーに腰掛けると、葛城は
「ところで君、名前なんて言うの?」
と言った。千佳は
「えっ?。」
と思わず言ったが、葛城の真剣な顔を見て
「飛騨・・・千佳。」
と言った。
千佳は
「本当に忘れれてしまったんだ。
もしかすると、私がおかしくなって、何か大きな勘違いをしてしまっているだけなのかもしれない。」
葛城の真剣な顔を見て、千自分が置かれた不安な状況を改めて認識した。
葛城は
「千佳さん・・・?」
と聞いた。千佳は
「はい。」
と答えた。
千佳は久しぶりに自分の名前が呼ばれて、なんだか嬉しくなった。
葛城は
「かぐや姫って知ってる?」
と聞いた。千佳は「何を言い出すの?突然。」と思いながら
「竹取物語。」
と言って、ボトルのお茶を口に運んだ。葛城は
「僕が思うに、月の人にとって地球ってのは、子どもが育つ環境としては、抜群にいい環境だと思うんだ。空には青空が広がり、森は天然の酸素を作り出す。だからかぐや姫もわざわざ地球に送られて、育てらたんじゃないかって。だから・・・。」
千佳は
「ちょっと待って、ちょっと待って。葛城君、何、言ってるの?」
と葛城の話をさえぎった。葛城は
「だから、千佳さんは現代のかぐや姫じゃないかって話。」
と言った。千佳は唖然として、思わず失笑した。そして
「葛城君とも在ろう人が・・・何言ってるの。」
と言った。葛城は真剣な表情を崩さず
「宇宙飛行士を目指す僕にとって、竹取物語の伝承はとても現実的な話だ。宇宙飛行士は丸腰で宇宙空間に出て、何らかの知的生命体と接触する可能性があるんだ。地球上でオカルト話に花を咲かせるのとは訳が違う。」
と力説した。
千佳はため息をついた。そして、葛城に期待した分がっかりした。
葛城は
「世界の時間軸をずらす事によって、千佳さんの地球上での、過去の形跡は消えてしまった。
月の子が、成長して月に帰る度に地球から突然消えてしまっては、地球は大騒ぎになるからね。そうしたんだ。彼らなりの礼儀だよ。」
と続けて言った。
千佳は葛城の話すことなど、どうでも良くなった。
そして、自分自身で自分の今後の事について考え始めた。
現実的事実・・・学校の入学記録とクラスの名簿から、自分の名前は消えていた。
クラスの生徒の、まるで初対面の人間を見るようなあの視線は、本気かどうかは不明。
クラス全員がふざけてるとしても、しーちゃんまでそれに加わる事は考えられない。
私が住んでいた家に、まったく違う家が建っていた。この目で見た現実的事実。
そうだ、母さんの仕事がもう終わった時間だ。とりあえず連絡してみよう。
千佳は携帯で母の仕事先に電話をかけてみた。携帯は繋がらなかった。
「ちょっと、電話してくる。」
と葛城に言うと、千佳は公衆電話に向かった。
公衆電話に母の仕事先の受付係りが出た。
「飛騨の娘の千佳ですけど、母はまだそちらにいますか?」
と千佳は聞いた。千佳は5分程待たされた。そして
「飛騨様は当社には在籍しておりません。」
と言う返事が返ってきた。千佳は
「企画部長の飛騨ですよ。」
と言った。受付係は
「飛騨と言う名前の社員は、当社には在籍していません。」
と言った。千佳は
「辞めたんですか?。」
と聞いた。受付係は
「いえ、過去にも在籍した記録はございません。」
と言った。千佳の体から力が抜けていった。
千佳は礼も言わず、受話器を置いた。
つづく
葛城は地域で最も偏差値が高い高校で、成績は常に首位を維持しており、そして運動神経も他の生徒を圧倒していた。
将来、宇宙飛行士になると言う葛城の夢は、誇大妄想や絵空事ではなく、極めて現実的な予定の様に思えた。
多少クラスで浮いた存在だったが、その事を除けば葛城は出来すぎた少年だった。
そして、千佳が陥った今の状況を打開するには、適任者の様に思えた。
千佳は
「私が世界の時間軸からはぐれた?」
と聞き返した。葛城は自習室の周りの目を気にしながら
「ロビーに行かない?ジュースでも奢るよ。」
と言った。千佳に異論はなく、2人はロビーに向かった。
ロビーのふかふかのソファーに腰掛けると、葛城は
「ところで君、名前なんて言うの?」
と言った。千佳は
「えっ?。」
と思わず言ったが、葛城の真剣な顔を見て
「飛騨・・・千佳。」
と言った。
千佳は
「本当に忘れれてしまったんだ。
もしかすると、私がおかしくなって、何か大きな勘違いをしてしまっているだけなのかもしれない。」
葛城の真剣な顔を見て、千自分が置かれた不安な状況を改めて認識した。
葛城は
「千佳さん・・・?」
と聞いた。千佳は
「はい。」
と答えた。
千佳は久しぶりに自分の名前が呼ばれて、なんだか嬉しくなった。
葛城は
「かぐや姫って知ってる?」
と聞いた。千佳は「何を言い出すの?突然。」と思いながら
「竹取物語。」
と言って、ボトルのお茶を口に運んだ。葛城は
「僕が思うに、月の人にとって地球ってのは、子どもが育つ環境としては、抜群にいい環境だと思うんだ。空には青空が広がり、森は天然の酸素を作り出す。だからかぐや姫もわざわざ地球に送られて、育てらたんじゃないかって。だから・・・。」
千佳は
「ちょっと待って、ちょっと待って。葛城君、何、言ってるの?」
と葛城の話をさえぎった。葛城は
「だから、千佳さんは現代のかぐや姫じゃないかって話。」
と言った。千佳は唖然として、思わず失笑した。そして
「葛城君とも在ろう人が・・・何言ってるの。」
と言った。葛城は真剣な表情を崩さず
「宇宙飛行士を目指す僕にとって、竹取物語の伝承はとても現実的な話だ。宇宙飛行士は丸腰で宇宙空間に出て、何らかの知的生命体と接触する可能性があるんだ。地球上でオカルト話に花を咲かせるのとは訳が違う。」
と力説した。
千佳はため息をついた。そして、葛城に期待した分がっかりした。
葛城は
「世界の時間軸をずらす事によって、千佳さんの地球上での、過去の形跡は消えてしまった。
月の子が、成長して月に帰る度に地球から突然消えてしまっては、地球は大騒ぎになるからね。そうしたんだ。彼らなりの礼儀だよ。」
と続けて言った。
千佳は葛城の話すことなど、どうでも良くなった。
そして、自分自身で自分の今後の事について考え始めた。
現実的事実・・・学校の入学記録とクラスの名簿から、自分の名前は消えていた。
クラスの生徒の、まるで初対面の人間を見るようなあの視線は、本気かどうかは不明。
クラス全員がふざけてるとしても、しーちゃんまでそれに加わる事は考えられない。
私が住んでいた家に、まったく違う家が建っていた。この目で見た現実的事実。
そうだ、母さんの仕事がもう終わった時間だ。とりあえず連絡してみよう。
千佳は携帯で母の仕事先に電話をかけてみた。携帯は繋がらなかった。
「ちょっと、電話してくる。」
と葛城に言うと、千佳は公衆電話に向かった。
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「飛騨様は当社には在籍しておりません。」
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と言った。受付係は
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と言った。千佳は
「辞めたんですか?。」
と聞いた。受付係は
「いえ、過去にも在籍した記録はございません。」
と言った。千佳の体から力が抜けていった。
千佳は礼も言わず、受話器を置いた。
つづく
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