上 下
32 / 186
4 まっしぐらの章

千佳の変 前編

しおりを挟む
 最初に異変に気づいたのは、登校途中の駅の自動改札機だった。

 千佳いつもの様に定期券を入れると、自動改札機の出口が閉まり、駅員が駆けつけてきた。
 駅員は
「どうしました?」
 と聞いた。千佳は
「定期はちゃんと入れましたけど」
 と言った。駅員は不信な表情で、定期が期限を切れてないか確認した。駅員は
「期限は切れてませんね。」
 と言いながら自動改札口の出口を開けた。千佳が「急いでるんです。」と言う表情で駅員を見ると駅員は定期を千佳に返して
「すいませんでした。機械の故障かな?」
 と愛想笑いをした。

 学校の校門に入った時から、千佳自身も異変を感じつつあった。

 下駄箱で会った親友のしーちゃんに声をかけた時、まるで初対面の様に「えっ?」と言う表情で愛想笑いを浮かべられた。
 そして、下駄箱を見るといつもの千佳の場所に、川井と言う見覚えの無い名札が付けてあった。下駄箱を開けるとその川井さんの靴が入っていた。

 千佳の脳裏に
「いじめ?」
 と言う単語が浮かんだ。
 幼稚園からの親友のしーちゃんが、いじめに加わるはずはない。
「絶対に!」と千佳は思った。

 千佳は仕方なく来客用のスリッパを履いて、教室へ向かった。


 千佳が教室に入ると、教室の視線が一斉に千佳に向かった。

 みんなの表情は、初対面の人間に見せる下駄箱でしーちゃんが見せた、あの表情と同じだった。千佳は思わず
「えっ何?みんな、どうしたの?」
 と言いながら、自分の席へ向かった。

千佳の席では、あまり話したことも無い男子の葛城が、落ち着いた様子で電子辞書をいじっていた。

 千佳が自分の机に鞄を置くと、葛城は「誰?」と言う目で千佳を見た。千佳は
「どいてよ。」
 と言った。葛城は不思議そうな顔しながら、椅子から立ち上がった。

 その時、教師が入って来て、千佳と葛城以外の生徒達は一斉に席に座った。教師は千佳を見るなり
「転校生?」
 と聞いた。千佳は
「先生まで!」
 と言って教壇に走った。そして
「どう言う事ですか?」
 と聞いた。
 教師は訳も解らず、慌てて教壇に置かれた名簿を確認した。
 千佳もその名簿を見て
「ここにちゃんとあるでしょう。私の名前が・・・」と言おうとしが、名簿には千佳の名前は無かった。見慣れてるはずの千佳の担任教師は
「とりあえず学生課に行って、そこに事務員の人がいるから、そこで一回確認してから、来てもらえる?。学生課は一階の売店の隣にあるから。」
 と他人行儀に言った。

 千佳が振り向くと、親友しーちゃんも含めた、教室中の不思議なものを見るような視線が千佳に集まっていた。

 千佳はその視線にいじめとは違う、異変を感じた。

千佳はその視線に耐え切れず、教室を飛び出した。

「とりあえず学生課に行こう。」
 と千佳は呟いた。
 学生課の名簿にも千佳の名前は無かった。千佳の入学記録すらなかった。

 千佳は、今まで築いた人との繋がりや社会との繋がりが、突然絶たれた気がした。

 見慣れた学校から突然、部外者扱いされた千佳は、この場所に居たたまれなくなった。
「家に帰ろう。」
 と1人呟いた。

 駅の自動改札機で2度も止められながら、やっと家に辿り着いた。

 自分の家に着いて千佳は愕然とした。自分の家が在るはずの場所に、違う家が建っている。
それも、築40年は経っている古い家。川井と書かれた古い表札が玄関に掛けられていた。

 千佳は思わず、持っていた鞄を落とした。

 玄関の横の犬小屋の前で、見たことも無いドーベルマンが静かに千佳を威嚇していた。

 千佳は
「そうだ、携帯。母さんに。」
 と言って携帯を取り出して、母に電話を掛けた。
しかし、携帯は何の反応の示さなかった。千佳は「携帯が繋がらない?。」思った。
千佳は電源を再度入れてみたが、やはり反応は何も示さなかった。

 学校にも家にも行き場を無くした、千佳は街を彷徨った。

 気がつくと、いつも通っている図書館の学習センターの自習室に、座っていた。
 日が暮れると自習室は、学校帰りの高校生で混み出した。

 そして、千佳の隣に座った生徒が、千佳に声をかけた。
「あの・・・。」
 千佳が隣を見ると、葛城が座っていた。千佳は
「葛城・・・君。」
 と言った。葛城は
「もしかしてあなたは、世界の時間軸からはぐれてしまったのでは?。」
 と千佳に言った。
 葛城の目は、面白い物を見つけた子供の様に輝いていた。

 つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜アソコ編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとエッチなショートショートつめあわせ♡

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜下着編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショートつめ合わせ♡

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜舐める編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショートの詰め合わせ♡

処理中です...