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健野屋文乃(たけのやふみの)

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3 かがりびの章

一線を超えて 後編

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私は死んだのだろうか?
死の定義って何だろう?


数万のミクロの砂に解かれてしまった私は、

自身を「死んだ」と定義していいのだろうか?

「誰かが、葬式でも挙げてくれたら、

死んだと認めてもいいのに」と私は思った。

いや違う、私じゃない、

正確には数億のミクロの砂に解かれてしまった、私達だ。

「これは死ではない。

ただ特殊な状況に陥っただけだ。

特殊な状態・・・要するに一線を超えた状態。」
とその人の声が聞こえた。

特殊な状態に陥った私達砂は、

時間の経過と共に、大地と一体となった。

大地と一体となった私達砂に、

風が吹き、冷たい雨が降り注いだ。

私達砂は冷たい雨と共に、

地層の底に徐々に落ちていった。


花崗岩の隙間を通るたびに、

私達砂は少しずつ濾過されていった。

地層の年代を1つ通り過ぎるたびに、

私達砂の邪念は私達から引き剥がされ、

邪念は地層のその年代に取り残された。

地層の最下層に辿り着いた時には、

邪念やその他一切を取り除かれ、

研ぎ澄まされ、私達砂自身のみだけの存在になっていた。


私達砂の心には、心細さだけが残った。

地層の最下層には光も影も音も何も無かった。

「このまま私は終わるのか?」と私が思った時、

地底が熱を帯び動き出した。


地底から灼熱に燃えるマグマが噴出し、

私達砂を一気に地層を突き破り、空高くまで吹き上げた。


空を舞う私達砂は眼下に青い海が見た。
そして、そのまま海に落下した私達砂は、

南の島の海岸に打ち揚げらた。



「そして、砂達は、その島の若い芸術家に拾われ、

粘土と混ぜられて今の私が創られたの」
と少女は言った。

少女の前にいる少年は、ただ呆然と少女を見つめた。


今しがた少年は10万年分の勇気を振り絞って、

少女に愛の告白をしたばかりだ。


少年は少女が話した言葉の意味を、必死で探った。

少女は
「こんな私でもいいの?」
と少年に聞いた。


少年はすぐに頷いた。

少女は、一線を超えた時に出会ったその人が
「新生の始まりを祝福する。」
と耳元で囁いた気がした。
 
少し冷静さを取り戻した少年は、

島に伝わる『砂の少女』の話を思い出した。

異界からの訪問者

「まさか本当の話?」と少年は思ったが、

目の前の少女の笑顔を見ると、どうでも良くなった。
 

そして、愛の証として、

昨日見つけた少年だけが知る秘密基地に、

少女を案内することにした。


おしまい
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