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第十五篇第四章 政府軍〜威光再臨譚〜
パンドラの筐
しおりを挟む帝国軍本部内、中庭。
隊士達の休憩場所ともなっている爽やかな風
が吹き抜ける中庭の大きな大樹の太い枝の上
に寝転び瞳を閉じる者有り。
其処に一人の女性が近寄って来ると真下付近
に在る噴水の縁に座り込む。
「あの時以来ね……大丈夫なの?U・J、貴方は……」
噴水の縁に座った其の女性から大樹の枝の上
に寝転ぶ少将U・J・ブラッドへと弱々しい
声が掛けられた。
「………マリア…オメェの方が大丈夫かって聞きてぇよ俺は…」
瞳は開かぬまま、自身の腕を枕に密集した葉
に隠され見えぬ空を見上げる体勢で口を開く
U・Jの言葉に中将マリア・シリウスは俯き
力無い笑みを浮かべた。
其の理由は、U・Jは知っている。
其れは、今しがた飛び込んで来た突然の急報
革命軍と反乱軍が同盟を結んだ事に由来して
いる事であった。
「ロイの奴が此処へ来るぜ?オメェこそ心の中…ぐちゃぐちゃだろ」
「………ええ、そうね。まさかロイと完全に敵対するとは思わなかった…」
実は革命軍幹部ロイ・バーナードと此の中将
マリア・シリウスは幼馴染であり、かつては
恋仲の関係に在った。
だが、ひょんな事からロイは帝国軍を脱退。
革命軍幹部として成り上がり、今や同盟軍の
人間として此の戦に乗り込んで来る。
「………サーガの事でオメェは俺を心配して来てくれた……だが俺から見りゃあロイの事でオメェの方が心配だ……」
「………前後を入れ替えて見たら気持ちは同じよ。サーガの意志を継いで貴方が政府に牙を剥かないかってね…」
「お互いアレだな……気持ちの整理は付いちゃあいねぇって事だ」
噴水の縁で座るマリアは朧げな表情を浮かべ
膝を抱いて顔を其処に埋める。
「同じ組織に所属してようが其々の正義って奴にゃあ…おんなじ色はねぇ。ロイもサーガも自分の正義を貫いた結果って事だ…」
「……なら其れが彼等の自由であり正義って事だったのかな?」
「かもしれねぇな。だからよマリア……俺達は今…其の場に直面して見なきゃ解らない正に…パンドラの筐ってトコだ……どんな答えが出されるか俺達にもわからねぇ……」
「………パンドラの筐…」
パンドラの筐。
其の中身は開ける事でしか知り得ない絶望を
宿すと言われる禁忌の筐。
二人は今、其の鍵を手にしている。
決行日、二人は其の箱の前に立たされる。
開けるか否か、其の判断すらも他人では無く
自身に預けられているのが其の筐の現状。
開けるが吉か、開けぬが吉か、はたまた何方
にも吉すら在せぬパターンも有り得る。
だからこそ、U・Jは此の言葉だけはマリア
に言って置かなければならなかった。
「……腹だけは括っておけよ?」
其の言葉だけでマリアはU・Jの心情を総て
理解出来てしまっていた。
恐らく、同じ心情だったからなのであろう。
筐の前に立たされる日は刻一刻と迫り来る。
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