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第十五篇第三章 同盟軍〜維新誓心譚〜
回り道と呼べる日まで
しおりを挟む旅籠“ヒノマル”の庭園部。
縁側に座布団を敷き急須から茶飲みに注いだ
茶を正座の姿勢で飲む男の元に木製板を踏み
鳴らす音を奏でながら一人の男が近寄る。
「随分と雰囲気があるな……隣いいか?」
「我等は既に同じ旗の下。茶を酌み交わすのは是であろう」
「へっ……おかてぇな……邪魔するよ」
近くに置かれた座布団に手を伸ばした革命軍
ロイ・バーナードは同盟軍として同じ志の下
協力関係となった反乱軍ゼロの隣に座る。
すると、ゼロは茶飲みに手を伸ばし急須から
茶を淹れるとロイに手渡した。
「ありがとよ……ぁっつ……」
ロイは茶の熱さに苦戦しながらもゼロの手に
よって渡された茶飲みに口を差し向ける。
「アンタの事はずっと噂で聞いてた……誰よりも平和を愛していた僧侶が破戒僧へと変貌し反乱軍に加入したって……何でだ?」
「直球だな。だが、我にとっては其れ程の出来事……あの寺の焼き討ち……二度と我の頭からは離れぬ記憶だ」
此れは第十篇レアドキルナの戦いの中でノア
を目の前に明かされたゼロの過去。
静かに其れを語るゼロの言葉にロイは表情を
歪めながらも最後まで聞き終える。
「此れも……政府の仕業かよ……」
元々、帝国軍に所属していたロイは此の話に
拭い去れない憤りを感じていた。
「我は平和を愛する。其れは違いない物だ。だが此の時代に於いて安らかなる平和を手にする為には祈りだけでは遠いと悟った。だからこそ戦うのだ。其の点、貴公はどうなのだ?」
「俺は……政府に所属してたからこそ現政府のやり方では国を腐らせるだけだと理解した……だから、政府を出て革命軍に来たんだ……」
「では、かつての仲間との戦いと成る訳だな……ああ、運命よ…何と恐ろしい事だ」
「……仲間ともだけど…実はよ、此の件で俺は……最愛の人を裏切った……ヤツは必ず俺を止めに来る……運命に抗うって決めたハズなのに其れだけはどうしても……抗いきれる自信が生まれねぇ……ッ」
唇を噛むロイへとゼロは一瞥をくれると闇に
呑まれた空に燦然と輝く星を見上げ語る。
「我はエルヴィスという男を信じた…貴公はノアという男を信じた様に。あの二人も同じ様な運命の中で戦い、抗い、生きて来た…其の末に解り合う未来があった事もまた事実だ」
「………アンタ…へへ、そうだな。ほんの少しでもまた解り合える未来があったりしてな」
「だからこそ、我々は己の信念を貫き通さねばならぬ…眼前の事柄に本気を出せぬ人間に神は贈り物を与してはくれぬだろう」
「アンタの言う通りだな……なんかよ、元気出たぜ」
ゼロの言葉に元気を回復させたロイもまた空
に光る星の輝きを瞳に映す。
ゼロもまた自身に其の言葉を改めて染み込み
尽くす様に言い聞かせていたのだろう。
子供達が空から見守ってくれている事を切に
願い、信じながら。
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