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第十五篇第二章 夜明けを導く者達
銀狼の鼓動 “死神”
しおりを挟む書斎の扉が慌ただしく開かれる。
其の大きな音に驚いた両親は突如として其処
へ現れたアークの姿に慌てふためく。
アークは落ち着かない鼓動を抑える様に自身
の胸に手を当てていたが其の不安定な鼓動を
抑える事は不可能で息を荒げる。
「…………ノアを…どうするつもりだ!?」
漸く絞り出した其の言葉に両親は揃って会話
を聞かれてしまったと絶句してしまう。
「………待て。アーク……此れには訳があるんだ……落ち着いて聞いてくれ……」
「子を捨てる理由を俺に訊けと!?テメェ等は……ずっとノアに寂しい思いをさせて来た……其の上で出て来た弟を手離す話をどうやって落ち着いて理解してろってんだァ!」
アークの震えた声に両親達は動揺を隠す事が
出来ず目を合わせて不安な表情を浮かべた。
「………ほらな…。どうせ出て来んのは言い訳だ……もうテメェ等の言葉は訊きたくねェ……消えるのはテメェ等でいいだろうがッ!!」
アークは日頃から兄弟を置いて家を開ける事
の多かった両親に長い間溜め込んで来ていた
怒りが此処で爆発した。
総ては最愛の弟、ノアに寂しい思い等をして
欲しくなかったという理由だ。
自身もまた孤独な幼少期を送っては来ていた
のだが其の思いは完全に消え失せている。
ノアの為に、アークは両親に向かって駆けて
向かう最中に勢いの余り視界に入ったナイフ
に手を掛けてしまう。
書斎に、鮮血が舞う。
其れは哀しき兄弟の物語の始まりである。
アークは手にしたナイフで激昂し怒る自身の
思いと勢いのままに両親を殺めた。
総ては、ノアの為。
しかし、自身の足元に倒れ声にならない声を
上げながら血塗れの姿でアークに手を伸ばす
父と母は、最後まで声を上げる事すら出来ず
冷たくなって行く二人を其の目に宿す。
「………や、やっちまった……俺が…俺が親を殺した………ッ……」
何故か脳裏に焼き付いて離れない屍となった
両親の最後の表情を想起しアークは頭に手を
当てブルブルと震え始める。
止められなかった衝動と鼓動。
湧き上がり其れを理解せぬままに暴れた殺意
がアークの正常な意識を奪い去る。
「なんだ……なんだ此れは……俺は……ノアを護りたい……其の一心で……」
儘ならぬ状態で溢れる言葉。
其れは全て本心なのだが、アークにとっては
目の前の現実が心臓を痛め付ける。
取り返しの付かない事をしてしまった。
もし、両親が言い掛けた言葉の中に此の惨状
を回避する何かがあったのでは、と。
アークは不必要な願望に縋るが其れは総てが
後の祭りで在る事を脳で理解した。
そんなアークの元へ、眠りに着いていたノア
が眠気まなこを擦りながら訪れる。
「……どうしたのお……?すごい音がしたよ。大丈夫……?」
まだ何も理解に達していないノアへとアーク
慌てて振り返り動きを止めた。
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