RISING 〜夜明けの唄〜

Takaya

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第十五篇第一章 篩分の門番

“鎮座し笑う者に成る事勿れ”

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唐紅色の流水を刀に宿してシグマへと迫った
ディルの攻撃をシグマは何とか槍でいなす。

しかし、何度か弾いた其の攻撃の周りに付加
された流水のギフトの特性“連撃”に因り身体
に無数の傷が生まれ出でる。

シグマの身体はディルの唐紅の流水の色とも
同じ血飛沫を舞わせながらよろめいた。

だが、ディルの攻撃は止まずシグマは痛みを
押して戦う事しか術を得られない。

我慢の時間が続く。



「(あかん……コイツ…覚醒見せたところでまだまだ手ェ抜いとるやんか……舐め腐りおってからにッッ!!)」



感情の揺れが生じた其の瞬間。

ディルが逆巻いた流水を斬り上げと共に放ち
シグマを其の流水の渦に呑み込んだ。

そして、次の瞬間に血で染まったシグマの身
が渦の中から姿を現すとうつ伏せで鍛錬場の
地に臥せて倒れ込んでしまった。



「フフフ……終わりか?」



其の言葉に返答は無い。

シグマは薄れる意識の中で過去へと遡る。

彼が幼少期から無性に憧れたとある人間との
記憶の奔流にシグマは呑まれていた。



『ワイは強いんやッ!!親父に代わってアンタを超えに来たでェ!!レザノフ・スタールマンッッ!!』



此れはシグマがバルモア国軍に入隊した頃の
記憶で在り、当時のレザノフは一度、引退を
した身で在りながら後進育成の為にバルモア
の軍の中に身を置いていた。

そして、シグマの父はレザノフの同期で在り
ライバル関係に在った事を知っていた。

だが、其の実態は不動のナンバーワンと永遠
の二番手という構図だった事も確か。

だからこそシグマは自らがレザノフを超えて
父の無念を果たそうと軍隊に入隊を決める。

其処からシグマの試練が始まっていた。

来る日も来る日もレザノフへと挑むが簡単に
いなされ勝負にすらならない日が続く。

此の日々は、シグマに嘲笑の雨が降り注いだ
キッカケとなってしまったのだ。

自らのチカラを過信し馬鹿みたいにレザノフ
へと挑む愚か者、其れがシグマへの周りから
与えられた評価で在り陰口を叩かれた。

だが、何度敗れようとも立ち上がり何度周り
から笑われようとも気にする素振りすらせず
シグマは目標の為に努力していた。



『………シグマ。心というのは自らが感じて居なくても傷付き乱れて行くモノです。だから此れだけは覚えて置きなさい』



心の中でレザノフがこう、続ける。



『挑み続ける者を、坐しただけの小市民は笑うでしょう。彼等は戦う熱を持たないのだから……ですが私は何度敗れようとも立ち上がる貴方の強さを知っている……大人の階段を登りながら其の気持ちだけは忘れる事の無き様に鍛錬しなさい。必ずシグマ、貴方は私を超えて行くのだから』



シグマの身体に再び、チカラが灯る。

レザノフは超えるという事はバルモアの歴史
の中に記された英雄を超えるという事。

彼は、こんな所で終われないのだ。


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