RISING 〜夜明けの唄〜

Takaya

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第十三篇第四章 暁光の聖天使

“孤影悄然の打ち消し”

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お互いの意地と意地のぶつかり合いは両者の
額と額が強く触れ合うとほんの少しの静寂を
迎える事となった。

互いの額から血が滲み、ロードとグレイ。

此の二人の身体に刻まれた幾つもの傷跡が
此の戦いの烈しさを形容していた。

フラついて今にも倒れそうな足で何とか痛む
身体を支えていたロードの眼前で表情に笑み
を浮かべたグレイがロードの顔を一瞥した後
フワリと其の瞳を閉じた。

そして、背中から大の字の形で光の草むらの
中に倒れ込んで行くのだった。



「……ハッ…認めてやる。テメェの勝ちだ、ロード……」


「……俺の…勝ち……」


「オラ、さっさとトドメ差しやがれ。テメェにやられんなら…本望だ…!」



ロードは其の言葉を訊いて頭の中で何かの糸
がプツンと切れる音を耳にした。

そして、ロードはフラつきながらも大の字に
背中から倒れ込んだグレイの身体に馬乗りに
なるとジャケットの襟を掴んでグレイを其の
目で睨み付けた。



「何でテメェは……そうなんだ……ッ……」



ジャケットの襟を掴む其の手と肩を中心に
ロードの身体と声は震えていた。

グレイはロードの行動に唖然と固まり言葉を
失っていると頬に冷たい雫が零れ落ちる。

其の雫の出所はロードの瞳からだった。

声を震わせ瞳が潤んだロードの行動にグレイ
はひたすら目を逸らさず見詰める事だけしか
出来ずにいたのだった。



「テメェ…言ったよな…?」



ロードは火の街メルフレアでのグレイと邂逅
時に言われた言葉を思い返す。



『弱ェヤツは死に方も選べねぇのが此の時代だ…誰も助けちゃくれねェ……』



グレイの言葉をそのまま眼下のグレイに対し
なぞったロードはこう続ける。



「テメェが生き抜いてきた、これまでの全てを……否定する気なんざねぇし、そんな資格は俺にはねぇ…ッ…!だがな……誰も助けちゃくれねぇなんて…死んでも言うんじゃねェよッッ!!」


「……ロード……」


「俺の背中にも護りたいヤツらがいた…テメェもそうだろッ!?なあッ!?テメェがアイツらを背にして戦ったのは……アイツらがテメェを想ってくれてたからだろうがッ!!」



ロードの叫びが光の泉に木霊する。



「俺にもテメェにも…そんな仲間がいんのによ……テメェだけッ……悲しすぎるコト…口走ってんじゃねぇぞッ!!逃げんなッ!!仲間の想いから逃げんじゃねぇッ!!」



ロードの瞳からボロボロと零れ落ちる涙の雫
の冷たさが痛みと疲労で熱くなったグレイの
身体にひんやりと染み渡って行く。



「……俺だって、ちょっと前は…一人でも生きていけるって思ってたんだ……だけど今は違う。俺は……一人じゃ生きられねぇってわかったんだよ……仲間がいてこその自分だ。テメェだって……ずっと一人で生きて来たんじゃねぇだろッ!!」



ロードの言葉がグレイの心の中のモヤを清く
打ち消して行った様な気がした。


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