RISING 〜夜明けの唄〜

第十三篇第三章 血の氾濫

血の氾濫 “逼迫”

裏帝軍所属フォスター・アルペジオ。

グレイの裏帝軍での奮闘劇は此の男と出逢い
大きく色を変えて行く事となった。

現実的な意味で裏帝軍という組織の残酷さや
冷淡さは年を追う事に増して行くのは止まる
事は無かったが其れでも其の現状にグレイは
生きる事の意味を見出せていた。

落人群への支援を続けながら裕福では無いが
心には満たされたモノを感じながらグレイは
其の一生を喰らい続ける。

そして、幾年もの歳月が経過。

気付けばグレイも三十一を迎えていた。

裏帝軍所属グレイ・ギルノーブルの実力は
日々積み重ねた鍛錬に依って裏帝軍の中でも
誰もが手を出せぬ程の領域へと至る。

其れでも、グレイという男はフォスター以外
との馴れ合いを好まず組織として幹部以上の
役得を与えられる事は無かった。

だからこそ、一般兵に甘んじて居たがグレイ
からすればそんなモノはどうでも良かった。

腐り切ったプレジア政府、そして裏帝軍の
内側を知れば知る程に其の組織への期待等は
掠れて興味は沸いて来ない。

そんな、日常が当たり前だったのだ。




そして、そんな折にグレイとは別々の任務が
兄貴分フォスターへと降されていた。

此の任務とはプレジアの歴史に於いて非常に
大きかったバルモアと冷戦となる直前。

七年間の空白を両国に堕とす程の大戦争。

通称“トルフェルローの海戦”である。

互いに敵国への侵攻を始めた両国の武装船団
が探索の為に海に建てられたトルフェルロー
という離島の近海で交わった海戦である。

グレイには知らされて居なかったが兄貴分の
フォスターに此の海戦に於いて与えられた役
は何と、“神風特攻隊”であった。

結果から告げるとフォスター達の属す部隊は
爆弾を身に付けたままバルモアの船団に対し
特攻を仕掛け、死を以てしてバルモアの船団
に攻撃を仕掛けろという事。

フォスターは己の運命を其の手に握る。

此れもまた運命、変えられぬ事実である事を
悟り正面から受け入れる事となった。

グレイには其れは出発の朝になっても告げる
事は無く何一つ変わらない言葉を交わし戦場
となるトルフェルローの離島へ向かい政府の
船へと乗船するのだった。

だが、此のトルフェルローの海戦には大きな
落とし穴が待っていた。

史書では両国船団に大きな傷跡を残して結果
とすれば痛み分けに依り撤退と記された。

其の原因は、互いの軍のチカラでは無い。

ましてや神風特攻作戦等を用意してバルモア
を降そうと考えた軍の策略でも無かった。

其れは、荒れ狂う天候であった。

視界すら保てぬ程の豪雨に強風、腹を立てた
様に踊り狂う高波、そして降雷。

両国の船団は攻め入る事すら敵わず大自然の
脅威に恐れをなして撤退を決めたというのが
真実であった。

神風特攻作戦は行われずフォスターは生きた
まま戻る事となり、グレイとの別れは無しと
なった筈であったのだー。