RISING 〜夜明けの唄〜

第十三篇第三章 血の氾濫

血の氾濫 “更迭”

そして、物語は軍団長グレイの過去へと静か
に遡り景色全てが奔流に呑まれて行く。

グレイ・ギルノーブルの生い立ちは壮絶な物
であり、彼は産まれて直ぐにとある事情から
親から捨てられている。

物心等、零歳児であったグレイにとって在る
筈も無く、そんな記憶は無い。

親の顔等、知らないグレイにとって時の運と
言うべきか捨てられた赤児を拾った心優しき
老夫婦が親となっていた。

だが、其の平和も運命が断ち切って来る。

グレイが三歳のとある夏の夜に其の老夫婦の
家が謎の火災で全焼してしまった。

そして、其の火災に因ってグレイ以外が命を
落とし、またしても彼は孤独となる。

ジリジリと照りつける太陽の熱が水や食料を
求めて彷徨う幼少期の彼を痛め付けた。

命からがらグレイが辿り着いたのは何とあの
闇の街ヘルカイウンに存在する落人群。

彼は其処に生きる者達に救われた。

本来であれば吐き気を催す程の過酷な環境下
で貧困の生活を送るグレイだったが心が豊か
な落人群の人間達に無償の愛を受けて大きく
育って行く。

そして、グレイは一念発起する。

此の人間達への恩を返す為、入隊試験だけは
生まれも血筋も問わないという帝国軍からの
触れ込みを聞いて其処へと向かう。

結果は、其の年の主席合格。

鍛え上げられた武芸で彼は帝国軍への入隊を
堂々と確定させるのであった。

グレイは帝国軍で名を上げ、落人群の人間達
への恩を返す為に奮闘を決意する。

しかし、またしても潮目が変わった。

入隊して数年が経った頃にグレイはプレジア
政府上層部から呼び出しを受ける。

其の内容とは、“裏帝軍への選抜”。

聞こえは良いが此れは単なる更迭である事を
悟ったグレイは其の内容を問い詰める。

十八歳当時、尉官への昇格を目前に研修期を
終える筈だった彼にとっての始まりにケチが
付けられてしまったからだ。

だが、内容は明かされなかった。

しかし、最後にボソッと呟いた政府上層部の
老人の声が耳へと残り続ける。



『育ちが落人群とは……此の先、帝国軍の上位を担わせるには…ちとばかり色合いが悪いじゃろう…。ましてや…ギルノーブル…彼奴等の息子と判明してはの………』



部屋から追い出されたグレイとの別れ際にて
聞かされた言葉の意味は彼ですら今になって
も知る由も無い事であった。

だが、グレイは数日で切り替えを図る。

何故なら彼を突き動かすのは落人群の人間達
への恩を返す事で在り、職は失っていない。

だからこそ、今ある環境下でグレイは更なる
奮闘を続けると新たに決意を固めた。

しかし、そんなグレイにも堕落した裏帝軍の
環境が追い打ちを掛けて来る。

今よりももっと裏帝軍の環境は腐敗した物で
あった事は確かだろう。

左遷、更迭に因って気概を失くした者達の
集まりである裏帝軍での生活が始まった。