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第十三篇第二章 鳳凰殿への来客
伝説の帰還
しおりを挟む舞う氷の龍と其れを従える氷帝が如きアビス
目掛けてランスとガスタが氷焦の中から其の
身を跳び出させチカラを発動しようとした。
「疾風覚醒……」
「迅雷覚醒…ッ……」
武器を構えて迫り来る二人が仕掛けようと
した覚醒の前触れを見てアビスが動く。
「何をしても結果は変わらん。なら、無駄な足掻きは止めておけ……」
刀を握っていない右の手のひらを前へと差し
出した途端に氷の龍が咆哮を始める。
「そ、そんな………此れ程なのですか……」
背後で凍結されたままのリアが感嘆の声を
漏らして其の光景に目を疑った。
ランスとガスタの身体が首元から上だけを
残して完全凍結させられてしまったからだ。
勿論、覚醒の発動さえも出来ていない。
「とんだ怪物、育てたモンだのう……」
「身動きすら取れない……総てが通じていないというのですか……」
「何故、話せる状態で凍結させたかぐらいは貴様等で解るだろう?御託は終いだ。さあ、奴の居場所を吐け。此の寺院に居る事は解っているんだ」
アビスの言葉に黙り込むランスとガスタ。
すると呆れた様にアビスは表情を曇らせると
二人に言葉を吐いて捨てる様に話す。
「寺院にしては広い此の敷地の中から探すのは面倒だったが…話す気が無いのなら致し方無い……緩りと追い詰めてやるさ」
アビスが静かに祈りの祭壇が在る此の部屋を
後にしようと歩き出した瞬間だった。
アビスは一つの足音を聞いて動きを止める。
其の足音は静まり返った祈りの祭壇へ確かに
届く程に、着実に此方へと向かっている。
そして、アビスは現れた其の男を見て其の瞳
を丸くさせて驚きの感情を浮かべた。
「アークの報告に依ってもしやとは…思っていた……未だに名残でもあるというのか…貴様ッ……!」
アビスの表情に初めて、焦りの感情が浮かび
首を回す事の出来ないランスとガスタは背後
に現れた人間を何とか知ろうとした。
だが、其れは叶わなかったがランスとガスタ
からも視界に映ったリアの表情からも予想外
の大物である事は確かだった。
アビスの瞳に映った白髪の老人は小紫色で
無地の羽織を纏い、黒と薄い橙色に近しい
着物を身に付けていた。
其の男が静かに両手を広げるのをキッカケに
アビスに依って氷漬けにされた祈りの祭壇の
在る部屋の氷が溶けて行く。
其れを受けて解放されたランスとガスタは
慌てて背後へと向き直ると大きく口を開けて
数秒間、声を失っていた。
「まさか………いや…本物だってぇのか?」
「此の衰えぬ波動こそ伝説たる所以……帰って来てくれたのですね…?」
ランスとガスタの声を聞いた白髪の老人は
優しそうな笑みを溢すと口を開いた。
「ホッホッホ……長旅で疲れたわい…じゃが、収穫のあった良き旅であったわ」
まるで仏かの様に笑顔を浮かべた其の老人を
見てアビスは力強く唇を噛んで見せた。
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