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第十二篇第一章 退路無き救出作戦
落人群の村長
しおりを挟む「生活は貧しくても…心は豊かなんですね…はわわっ…素敵なことですっ…!」
「ワハハ…べっぴんで身なりのいいお嬢ちゃんが…ワシらみたいな人間達を素敵と来たかあ…たはあっ!!生きてて良かったねぇ」
丸眼鏡の奥で笑顔を見せた老人の元へ別の
住人が慌てて手を振りながら駆け込む。
「おーいっ!ゲン爺ィ…アンタもさっさと取りに来いよっ!!なくなっちまうぞ?恵みの酒や食いモンがよっ!!」
身体中に包帯が巻かれた複数の怪我を持つ
男が丸眼鏡の老人に声を掛ける。
「ワハハ…そいつぁ困っちまうねぇ。あのクロスさんからの差し入れだしなあ…じゃが。あてて…腰が痛くてのう…」
「なーんっだ。なら取って来てやるよーっ。身体がいてぇってのはまだ生きてるって証だからなあっ!!良い事だっ!」
「ワハハ…間違いないのう」
ロード達は驚きを通り越して此処に生きる
人間達の強さに笑みを浮かべていた。
終わりに向かっていると言いながらも生きる
事を自身で止めようとはしない。
其の上で今を必死に楽しんでいる。
日々の喧騒に追われながら疲れ果てて行く
人間達とは違い生きる事の本当の意味を感じ
させてくれる様な豊かさが垣間見えた。
「ゲン爺っていうのか?名前」
「そうじゃよ?ゲン爺じゃ。もう本当の名なんざ何十年も名乗ってないからのう。ワハハ…忘れてしまいそうじゃよ」
「因みにですが…ゲン爺殿。先程差し入れをくれたというクロスという方は何方なのですか?」
座り込んでいたゲン爺にふと問い掛け始めた
レザノフの顔を見て老人は吹き出す。
「ブッ…ワハハ…。殿なんざいらないよ。ワシはただのゲン爺じゃよ」
「フフフ…とても明るい御方ですね、ゲン爺は」
「そうじゃろそうじゃろ?因みにじゃけどクロスさんというのは…今の帝国軍の中将さんじゃよ。アンタぐらいの歳なら知ってるんじゃなかろうかの?」
「……はい。良く知っています」
レザノフは笑みを浮かべてクロスという人間
の顔を懐かしみながら思い浮かべる。
「クロス中将は良く此方へ差し入れを持って来られるんですか?」
レザノフの問い掛けに続いて一番後方に立ち
尽くしていたザックが口を開く。
「クロスさんは此の街の支部長も兼ねてるからのう。時々こうしてワシらを気遣って来てくれるんじゃが……今回はどうも其処の監獄に用があるらしくての…ついでらしい」
ゲン爺の放った言葉にザックとレザノフは
今回の目的の達成には大きな障壁が現れた
事を悟ってしまう。
「ワハハ…にしても変な日じゃ。どういうワケか……今日は未来の希望が溢れる若者に良く会う日じゃて」
「そうなのか?ゲン爺」
「そうじゃよ……ん?おお、まだおった。ホレ、見てみ?あの屋根の上に立っておる金髪のお人じゃよ…黒い服の」
ゲン爺が指差した家屋の屋根に背中を向けて
立つ金髪の男を見てロード達は声を上げた。
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