RISING 〜夜明けの唄〜

Takaya

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第九編第一章 流浪人の帰郷

戦鬼と呼ばれた男

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自身の胸元に向けて勢い良く一撃を押し込む
様にトンファーを振るうアルマを受け流すか
の様に流麗に刀で捌き切ったガルフ。

最後に一歩後ろへ踏み出した直後に動作の中
に曇る部分等無いかの如く体重移動を決めた
ガルフはアルマの真横に立つ。

すると、素早く脇を抜く様に斜め上を目指し
振り上げられた刀の鋒がアルマが手に持って
いたトンファーへと触れて甲高い金属音を
奏でた其の直後に右腕から黝色の氷が相手の
身体を包み込む様に拡がって行く。

其の自身の姿を自覚したアルマは流れて行く
冷や汗すら凍結して行く中で真横に立ち背後
を真っ直ぐに見つめるガルフの表情を見遣る
と全身に畏怖の念を抱く事となる。



「(何度も見た…ガルフ殿のこの目付き…自国内だけに留まらず戦争を仕掛け合う敵国にすらその名を惜しむ事無く馳せた…正に戦場の鬼…!)」



冷たく凍り付く自身の身体が言う事を聞かず
に固まって行く中でアルマは心の中で呟く。

そして、緩りと流れた時間の中でガルフの姿
がアルマの背後に一歩到達し刀の鋒を静かに
鞘へと納刀したタイミングで凍結が完全に
終わりを迎えていたのだった。



「しゃらくせぇ…自信は過信へと繋がる。自身を甘やかす暇があんなら…鍛錬を怠るな…元上司と部下のよしみだ…此処らへんで勘弁してやらァ…!」



黝色と呼ばれる黒き氷に包まれて冷たい空気
を肌で感じる様にもなったロードの家の庭先
は表情を変えたかの様に変貌した。



「情けですか…殺していかねぇんならまだ追っかけますけどね…」


「しゃらくせぇ…何度来ても同じ結末だ。わからねぇか?アルマよ…」


「生憎…諦めるなんて選択肢…上司には教わんなかったんでね…」



前へと今にも倒れ込みそうな状態で黒き氷に
身体を包まれたアルマはギリギリで凍結の手
が届かなかった顔付近と左足を動かそうと
必死にもがくが其れには至らない。



「ロード…此処から離れるぞ…」


「あ、ああ…」



ロードは走り出したガルフの背中を追って
慌てて自身の家から駆け足で離れて行く。

そして、前方を走るガルフの背中を見ながら
本当の強者の姿を感じる事となった。

ガルフは元国王直下帝国軍大将。

其の名誉ある三席の一つに永らく腰を下ろし
バルモアとの戦争の中で名を馳せた伝説の
帝国兵であった。

彼に付けられた異名は名は体を表すとは良く
言った物であり、ガルフの全盛期を良く知る
同世代には知らない者はいない程である。

戦鬼せんき”ガルフ・ジャッククォーツ。

永らく其の異名と共に戦場に君臨し続けた彼
の姿に自国は平和と安寧を映し出した。

敵国から見れば其の姿は正に絶望。

プレジア国有数の防衛戦力として敵国を其の
姿と名だけでも封じ込める程の強者だった。

ロードはガルフの姿に息を呑み言葉を発する
という事を忘れ去っていた。
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