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第九編第一章 流浪人の帰郷
動乱の幕開け
しおりを挟む静かに動く時計の針がふとしたタイミングで
激しく揺れ動くかの様な錯覚を受ける。
其れをいち早く感じ取ったのは編笠の浪人姿
のガルフであり、木製の丸テーブルに置いて
いた刀を握り腰元へ納めながら緩りと足裏に
力を込めるかの様に立ち上がって見せる。
「なんだよ、突然…」
其の動きに違和感を覚えたロードはガルフへ
目を向けながら首を傾げて訝しむ。
「…囲まれてんぞ…此の家…はっ…本当にしゃらくせぇな…」
「……ッ!!…マジかよ…!」
ガルフはそう言うと静かに入り口に向けて
自身の足を進めて行くと木造の床がキシキシ
と軋んだ音を立てて行く。
ロードは息を呑んでガルフの背を追った。
ガルフは囲まれている事を自覚しながらも扉
を勢い良く押し開けて表へと出て行く。
ロードの実家を囲む様に円形状に天然の柴が
刈り取られた庭先があり其の更に奥は雑木林
に悠然と包まれているのだが三百六十度余す
事も無く帝国軍の隊士達が包囲の網を掛けて
おりライフルの銃口が向けられていた。
其の光景を目にしたロードは絶句の表情を
浮かべていると包囲網の更に奥から巨体を
揺らして一人の男性が前へと出る。
上げた短髪の黒い髪で風を受けながら胸を
張った様に前に進んだ其の巨体の男は手首
から肘迄を包んだリストバンドを見せつける
かの様に腰に手を当てて足を止める。
小紫色の羽織を上半身の素肌の上から纏った
巨体の男はニヤリと笑って口を開く。
「これはこれは…どうもお久しいですな。ガルフ殿…!」
「お前か…アルマ。いつ見てもしゃらくせぇ男だ…自信満々の其のツラ…変わらねぇな…」
「知り合いか…?」
アルマと呼ばれた帝国軍の巨体の男と静かに
言葉を交わしているガルフとの関係性に疑問
を浮かべるロードだったが、そんな事よりも
完全に包囲され無数のライフルの銃口が自分
達に向けられた此の状況に心拍が上がる。
「しゃらくせぇか…。癖というのもまたお変わりねぇ様で…。安心しましたわ」
「何だ?昔話しに来た様には周りの連中見たら思えねぇんだけどな…」
「そいつァ…ごもっともで。まあ…縁ある俺からしたら…少々心は痛むトコもあるんですがね…上からの命令なんで…ガルフ殿…おとなしく縄に付いちゃあ頂けませんかね…?」
「今おとなしく縄に付くんなら最初からこんな脱藩みてぇな真似はしねぇんだがな…」
「そいつも…ごもっともで。ガルフ殿…アンタが簡単に意見を曲げねぇ事も知ってるんで…手早く行きましょうや…腹が減っちまって機嫌が悪くなっちまう前に…!」
アルマは緩りと片手を上げると其れが控えて
いた隊士達が構えるライフルの発砲の合図で
あると悟ったロードとガルフ。
慌てた表情を見せたロードと対極にガルフは
静かに内に秘められていた底知れない何かを
感じさせて腰元の刀に手を伸ばした。
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