RISING 〜夜明けの唄〜

Takaya

文字の大きさ
上 下
342 / 849
第八篇第四章 許されざる疑念

恩師からの言葉

しおりを挟む



ポアラの心の中に流れてきた声は心から身体
へ緩りと染み込むかの様に流れ出でる。



『ポアラ…無茶をして泥だらけじゃないか…町の男の子とまた喧嘩をしたのか…?』



ふと流れて来た其の声はポアラの脳裏に呼び
起こされた幼き日の涙ぐむ少女時代のポアラ
へ向けられた言葉だった。

ポアラが思い起こしたのは両親が戦争に巻き
込まれて死んだ後の出来事。

其の頃は一人ぼっちになってしまったポアラ
に町の子供から辛辣な言葉が向けられていた
時期と重なっていた。

子供は時に残酷だ。

何の気無しに放った少女時代のポアラへの
「お前は親が居なくて一人だから」という
言葉に起因し初めて殴り合いの喧嘩をして
しまったポアラは其の一件から“凶暴な女”
として男の子グループから目を付けられた。

来る日も来る日も目を合わせれば罵詈雑言を
浴びせられ大勢には敵う事など無く暴力を
振るわれては泣きたくないという意地だけで
瞳を潤ませながら逃げ帰って行く日々。

両親を失った後のポアラが逃げ帰れる場所は
たった一つ、両親とも旧知の仲で世話を快く
引き受けてくれたマーシャルの元だった。



『だって…だって…アイツ等…ママとパパの悪口を言ってきたんだもんっ…!』



何とか涙を堪えながらも吐息を荒くして瞳を
潤ませるポアラの肩をマーシャルはそっと掌
を置いて優しく抱き寄せた。



『泣かなかったんだな。偉いぞ?ポアラ。だがもう我慢なんかしなくていい…。泣きたい時には泣け、苦しい時には助けを求めろ…。お前は一人じゃ無い。俺が居るだろう?』



泣きたい時には泣くー。

苦しい時には助けを求めていいー。

恩師であり親代わりのマーシャルが幾度も
ポアラに投げ掛けてくれていた言葉だった。

そして、其の言葉の結びはいつもいつでも
同じ言葉で綴じられていたのを意識が薄れる
ポアラの脳内で思い起こされて行く。





『そしていつか…ポアラが信頼する誰かが助けを求めて来た時には…お前自身が其の誰かの手助けとなれ…ポアラも俺も心から愛したお前の両親の様に…!』





槍の一撃がポアラへ迫り来る。

死を前にしてポアラは走馬灯の様に記憶の中
で生きる恩師マーシャルの言葉からある一つ
の決断に至っていた。

時の街ジュードオークスに来てから様々な事
がポアラ達の前に降り掛かって来た。

シェリーの生い立ちから覚悟。

ロードに突如として向けられた疑惑の視線。

言葉には言い表せないが今自分達はバラバラ
になってはいけないのだとポアラは感じた。


だからこそ、死ぬ訳には行かない。


皆、優しい人間だから、此の場でポアラの命
が絶たれる事になれば恐らく自分自身達の事
を責め続けるに決まっている。

何故、そう思ったかは簡単だった。

自分自身がきっとそうだから、仲間達の事を
心の底から好きで一緒に居たいと考えたから
に他ならず、ポアラの瞳にチカラが戻ると共
に全身からギフトのオーラが解き放たれた。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

処理中です...