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第八篇第二章 運命の会談
王女が継ぎし太陽“懐抱”
しおりを挟む物語は王女の言葉の中へと移り込む。
此処は美しき花々の匂いに囲まれて人も大地
も其の何もかもが華やぐ王国バルモアの首都
“アウス・リンドン”だ。
城の周りには幾重にも花壇が設置され何人も
の庭師を抱えて常に花々が色めき踊る。
そして、此の巨大な王宮に住まう者達こそが
王国バルモアの基盤である王家ノスタルジア
の一族達だった。
シェリーは現在のノスタルジア家に産まれた
次代を担う王女だが此の時は未だ五歳。
広々とした寝室の大きな薄桃色のベッドの上
で母親の膝の上で何かを読み聞かされながら
微笑みを浮かべている純真無垢な少女こそが
シェリーであり其の母親が現バルモアに存命
となる“ローラ・ノスタルジア王妃”だ。
「ねぇ、お母様っ?このおっきな白いのはなあにっ?」
「うふふっ、シェリーちゃん。此れはね雪山よ?真っ白なお雪がいっぱい降り積もってるの」
「すっごーいっ!!」
「其れにほら、此のお水が流れるのも綺麗でしょ?此れはね、滝って言うのよ」
「たき…?きれいだねぇ、お母様っ。ここお母様といっしょにみにいけるのっ?」
純真無垢なシェリーの言葉に母ローラは少し
心を痛ませて口籠もってしまう。
「ちょっと今は…難しいかな。此処はね、プレジアって言う海の向こうの国なのよ?」
「…ぷれじあ…?あっ、しってる…!わっるーい人たちがいっぱいいるお国なんでしょっ?」
「…シェリーちゃん?そんな事は無いのよ?プレジアにも心優しい人は一杯居るわ…」
恐らく城内にも出入りする軍隊の人間達の口
から吐いて出た妄言を耳にしたのだろう、と
母ローラは悲しい気持ちに苛まれる。
「プレジアはね?美しい景色、美しい土地、美しい人間達の過ごす豊かな島国なの。昔は此のバルモアとは兄弟国の関係だった。うふふ…わかりやすく言うと仲良しだったの」
「へぇ、わたしとお母様みたいになかよしだったってことぉ?」
「うふふっ…そうね。でも今はちょっとだけ喧嘩をしちゃってるのよ…」
「じゃあっ!“なかなおり”出来たらまたこんなきれいな所に遊びにいけるっ?」
「…ええ、そうね」
笑顔をぱあっと花咲かせたシェリーは母の手
に持たれた本の挿絵に興味津々な様に純粋な
其の瞳をキラキラと輝かせていた。
そんな姿を見た母ローラは早期の戦争の決着
を心より祈る事しか出来なかった。
どうか、自分の娘にはこんな呪われた時代の
中で針の筵の上を歩かせたくは無い。
平和へと向かう時代を歩かせてあげたい。
母としてバルモア王家ノスタルジアの王妃と
しても其の願いは祈り、叶える事が義務なの
だとローラは理解をしている。
シェリーはそんな想い迄は未だ理解を示して
は居ないが、いつか母と此の美しい国の上を
共に緩りと歩きたいと、そんな願いを胸の中
に抱える様になって行ったのだ。
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