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第二編第一章 辻斬り事件
想いを乗せた掌
しおりを挟む静寂に静まり返った屋敷の一室。
一歩前に出たポアラが見上げる様に
シャーレと目を合わせた次の瞬間。
ばちんっ、と良い音を立てたポアラの
平手打ちがシャーレの頬に当たる。
「…ポアラ…?」
静寂の中、驚いた表情を浮かべた全員が
視線をポアラに集める。
「それ、ダサくない?シャーレ」
ポアラの言葉に黙り込むシャーレ。
「確かに、シャーレの家族はバルモアの人間に殺されたのはわかったよ。…でもさ、その仇は目の前のシェリーちゃんやレザノフさんなの?」
「…そうではない…」
「うん。良かった、目の前の二人が仇だったらアタシがシャーレに謝って。みんなでここを出るよ、流石にね」
「…ポアラ…」
「シャーレにとっては拭えない辛い過去としかアタシには解らない。でもさ、戦争だよ?懲りずに何年も何年も…辛いのはシャーレだけじゃないよ絶対に」
ポアラは言葉を続ける内に、自分自身も
何か悔しさを押し殺す様に肩を震わせる。
「バルモアの人達だって戦争で家族を亡くしてる…勿論プレジアの人もそう。全てを許しあえなんてアタシにだって言えない。でも聞いてっ!?」
ポアラが浮かべた涙にシャーレの表情が
少しだけ緩んで行くように見える。
「アタシ達は仲間だよね!?其の仲間のロードを救ってくれたシェリーちゃん達への恩をこんな形で無下にする弱い男じゃないでしょ!アンタは!!!」
ポアラの悲痛な叫びと共に溢れた涙を
見てシャーレが頭を抱える。
「済まん、ポアラ…」
「こっちこそごめん!何も知らないのにズカズカ土足で踏み行って…でもこれがアタシの本音…」
「シャーレ様…」
ポアラの声が途切れた所で不安そうな
表情を浮かべてシェリーが口を開く。
「戦争によって生じた傷跡は治る事は無いのかもしれません…それでも私はこれから先の未来に新しい傷跡を一つでも減らす為にプレジアに来ています…毎日怖いです…でも今見て見ぬフリをしたらこの連鎖は止まらない…!」
シェリーの言葉に唇を噛むシャーレ。
「なあ、シャーレ。家族が殺されたのは解った、でもよ?シェリーがまだ本当に小さい頃だぜ、それは。らしくねぇよ?お前らしくねぇ」
続けたロードの言葉にシャーレがふうと
息を吐いて、シェリーとレザノフの元へ
歩み寄って深々と頭を下げる。
「本当に済みません…!どうしても頭の整理が追いつかず…」
「シャーレ殿…実は私の息子も三年前、此のプレジアで戦死しました…私にとっても若くこれからを生きる人間の死を一人でも減らしたい…其の思いで一杯です。姫様を含めた皆様の様な若き世代はこれから先を生きて欲しい」
「時間は掛けて当たり前だと思います。いつかシャーレ様ともご友人になれたら、きっと私、幸せです!」
シェリーから掛けられた想い。
レザノフも経験した家族の死。
ロードから伝えられたシャーレらしさ。
ポアラの悲痛な叫びと涙。
シャーレは深々と頭を下げたまま、涙を
流して感謝と謝罪を続けた。
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