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第一篇第二章 拳術道場の女
墓標の誓い
しおりを挟む昨晩の悲痛な出来事を浄化する様に
ポアラの小さな呟きを起点にしてロード達は
道場横の大木の下に小さな墓を建てた。
勿論、拳術道場の師範マーシャルが
安らかに眠る為の墓である。
墓の前にはマーシャルの好きな団子に
最近は控えていたが酒瓶。
そして、花が添えられていた。
其処に座り込むポアラを心配そうに
眺めて早数時間が経とうとしていた。
だが、ロードとシャーレは交わす言葉を
探しては行き詰まり、何も言葉を発する
事が無い沈黙の時だけが刻々と過ぎて行く。
風の音を敏感に聞き取るぐらいに
辺りは静かな空気に包まれる。
そして、また目の前でポアラがひっそりと
涙を浮かべて呟く。
「マーシャルさん…あたし本当に一人になっちゃった…でもマーシャルさんの言った通りにさ…笑って幸せにならなきゃ安心して成仏できないよね…」
「ポアラ…」
細々と呟いたポアラの声が耳に入った
二人は顔を上げてポアラに歩み寄る。
「幼い頃に一人きりになったあたしにとってマーシャルさんもかけがえの無い家族でした…ありがとう…一人は寂しいけど頑張るねっ!」
ポアラは、二人には背中越しだったが
涙を浮かべながらにっこりと微笑んだ。
不安を押し殺す様に。
そんな時にシャーレが何かを閃いた様に
ロードの歩みを止めて口を開く。
「ロード。君と旅をすると決めたが、やはり此の儘では、物足りぬ旅になりそうだ」
「…は?何だそりゃ。どっちにしたって今言う事じゃねーだろ」
「いや。今言うべき事だ。此の旅には明らかに不足している事がある」
突然に大きな声を発したシャーレにロードは
驚きの表情を浮かべるが、其れはポアラも
同じでほんの少し首を向ける。
「…訳わかんねぇぞ、シャーレ」
「不足しているのは“華”だ、男二人虚しいとは思わぬか?馬鹿者が」
シャーレの言葉の意図を察したロードは
呆れた様に笑みを浮かべた。
すると、長い時間踏み出せずに居た
ポアラの隣にそっと腰を下ろして
墓を見つめながらロードが口を開く。
「俺等も、一人ずつを見れば一人っきりだった…でもシャーレが俺の旅に同行してくれると決まって当たり前に人と話す有り難みを知った。もしポアラにその気があるなら俺等と一緒に旅に出ねぇか?」
「ロード…」
「此処で一人。墓標に手を合わせる毎日もきっと大事でしょう。でもあの人は言いました、ポアラさんには幸せになって欲しいと、其の幸せを見つける時間に当ててみてはいかがですか?私達との旅の中で」
ロードと同じように近くに寄り添った
シャーレも言葉を紡ぐ。
其の言葉にポアラは涙を流し始めた。
「……っ…ありがとう。マーシャルさん、今ここで一人でいたらあたし、ずっとうじうじしてると思う。いいかな?旅に出ても」
ポアラが墓標に向けて吐露した言葉を
聞いて、二人は笑顔を交わす。
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