RISING 〜夜明けの唄〜

Takaya

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第一篇第二章 拳術道場の女

町外れの拳術道場

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平原を抜けて行く二人は其の先が崖と知り
立ち止まると左を向いたロードが指を指す。



「まっさらな草原かと思ってたが此処丘の上だったのか。おお、下り坂の先に町が見えてきた」



町の方に歩き出そうとするロードは
返答が無いと気付き振り返る。

すると、シャーレは何やら腕組みをして
崖の下に目を凝らして居た。



「どうした?黙りこくって」


「ロード。見てみろ」



崖下は其処まで深くはなっておらず
覗き込んだ先には和風の屋敷が建っていた。

庭先では道着に身を包んで、掛け声と
共に型の練習に励む門下生達が居た。



「何だ、道場か。へぇ、こんな所に。で、それがどうした?」


「見て解らぬのか?このうつけ者」



呆れた様に溜息を吐くシャーレに多少
苛立ちを込めながら睨みつけるロードだが
シャーレの言葉の真意が読み切れず
また道場の方に目を向ける。

すると、ロードの視界には、門下生達に
指導するおそらく師範の男性の姿が映る。



「ああ、成る程。確かにいい身体してんな」


「そうであろう?うむ。特にあの尻がいい」


「…は?ま、まあ。良い感じだよな」


「まあ、では無いだろう。あの健康的な身体、道着で解りにくいが胸もそこそこ…うむ。素晴らしい」



食い違いが発生している。

そう感じたロードは黙り込み物思いに耽る。



「何だその表情は?」


「ん?何か食い違ってる気がして…よ」



そんな会話をしているとシャーレは道場に
指を指して見せると、其の先には翠色の
短い髪の女性が居た。



「胸だの尻だの女見てやがったのかテメェはッ!!」



思い切りツッコミを入れたロードを見て
シャーレは不思議そうに首を傾げる。



「其れ以外に何が?」



当たり前の様に言ってのけたシャーレを
見て、溜息を漏らすロード。


「アンタ、そういうキャラだったのか。確かに長屋町じゃあ若い女は居なかったけどよ」


膝を付き呆れて下を向いていたロードの
横で、何やらまだ、ブツブツ言っていた
シャーレだったが、ロードから見ると
段々と斜めに見えて来る。

道場で型の練習をする翠色の短い髪の女性に
言葉通り、のめり込む様に視線を送る
シャーレを見てとある事に気付く。

のめり込み過ぎて、身体がどんどん
崖下に向いており、危険な状態。

ロードが焦って手を伸ばす。



「このバカッ!!」



ロードが手を伸ばした時には既に手遅れ。

そして、当の本人もやっと気付く。

崖下へと既に身体は落下し始めて居たのだ。



「…あ…!」


「ってバカッ…伸ばしたけど今掴んだら…ッ」


「仲良く落ちていくな」



ニッコリ笑顔を見せたシャーレを見て
焦りの境地に達したロードは思わず叫ぶ。



「わかったから、手離せッ受け身取れねェだろうがーーーーーーーッッッッ!!!!」


「ああ。済まぬ」



ロードの叫び声に反応したシャーレは
咄嗟に手を離すが、此れまた手遅れ。

綺麗に着地したシャーレの横で腰から
道場の庭に落下したロード。

其の音で道場中の注目の的となってしまう。



「…ニャロウ…遅ェっての…」



土煙の中でロードが飛ばした小声の文句は
哀しいかな、かき消され届く事は無かった。


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