RISING 〜夜明けの唄〜

Takaya

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第一篇第一章 旅路の出逢い

盗みの代償

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眠れない夜が明け、二人はまた囲炉裏の
前に座り込み、焚べた火を眺めていた。

緩りと進む時を割く様にシャーレが
腰を上げて立ち上がる。


「そろそろ売り捌きに向かいますか。ロード、余り良く寝れていない様子。もう少し休んではいかがだろう?」


「いや。野宿じゃ無いだけ休まった」


そうか、と呟いたシャーレは風呂敷包みを
手に持ち、玄関口へ向かおうとする。

考え事の最中といった詰まった表情で
ロードはシャーレの背中を目で追う。

すると、時を同じくして慌ただしく
息を切らしながらシャーレの長屋の扉を
開けて、そのまま男の子が倒れ込んで来た。

12.13と言った見た目の少年はシャーレの
玄関口に這いつくばる様に倒れ込んだが
必死に顔を上げる。

額からは流血を起こし息を切らした
少年がシャーレの顔を見上げ口を開く。


「シャーレ兄ちゃん…た、大変だ…」


「…ケーシー…どうした?此の怪我…」


その異様な光景に、ロードも目を丸くし
立ち上がると息を呑みその光景を見つめる。


「…っ…伯盛一家の連中が…噴水のある広場…でっ、赤い髪の男をさ、がして暴れ、やがった…」


ケーシーと呼ばれた少年の血が茶髪の
髪に染み込む様に滴り、床に落ちる。

ロードとシャーレは唇を強く噛み
握った拳に力が自然と込もる。


「解った。私も向かう、ケーシー、君は…」


「僕は大丈夫っ!!お願い!行ってシャーレ兄ちゃん!」


ああ、と小さく呟くとシャーレは緩りと
ケーシーを抱え、畳に寝かせる。

その後は言葉を発する事はせず玄関口に
踵を返して駆け出して行く。

伯盛一家は赤髪の男を追っている。

声は掛けられずともロードがシャーレを
追って広場へと向かうのもごく自然の事。

背中に刀を差すと、ロードもまた
声を発さず長屋町を駆け抜ける。

足を止めず、声すら無く。
広場へと辿り着いた二人の目には何とも
酷い景色が広がっていた。

先程の少年、ケーシーの様に痛め付けられた
町民達が噴水の周りで転がっている。

とても、無雑作に。

其れを見たシャーレは周りに既に一家の
連中が居ないと悟り、ロードよりも
一足先に身体を震えを無理に抑え振り返る。

ロードの肩をポンと叩くと、歪んだ
笑みを浮かべて口を開く。


「己を責める事はしないで欲しい。暫し興じて欲しいと頼み、巻き込んだのは私だ。ロード、君は旅の者、此れ以上首を突っ込まなくていい」


「…無理だろ…こんなの」


拳を震わせながら、ロードは呟く。


「悪いがケジメの幕を引くのは私だ。短い付き合いだったが君と逢えたのは強運だった」


シャーレは怒りに満ちた表情を仮面の様な
引き攣った笑みで隠した。

一人にしてくれ、と言い残しシャーレは
町民達に一人ずつ声を掛け始める。

怪我はしているが、意識は有り。
死者は出ていない。

多少の安堵を抱えてシャーレは自分の
長屋の方へまた、緩りと歩を進める。

ロードとは視線を交えずに。
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