上 下
1 / 13

第1話:『閉まる扉に──』ご注意しながら

しおりを挟む
 階段を上る。歩道橋を渡る。階段を下る。駅に到着。改札口を通る。階段を上る。ホームに立つ。午前7時15分。スマホを確認。『通過列車にご注意──』
 いつも思う。通過列車って怖い。警笛鳴らすし。脅しかな。

 警笛ファーンは耳に残る。耳鳴りみたいに。ファーンはファンファーレとは全然違う。足りない華やかさ。代わりの花束はホームの片隅にある。色褪せた黄色い花びら。色褪せた日常を思う。

『黄色い線の内側まで──』

 下がれない。列に並んでるから。前から4番目。前の人はスマホに夢中。わたしもメモ帳アプリに「行ってきます」のご挨拶。呟いたら振り向かれた。変な目で見られる。変な目は慣れっこです。前の人はカツラでした。

 ここから本番。車両は2番目。開いた扉に飛び乗る。『車内中ほどまで──』と言われても、わたしの定位置は扉の近く。車窓に貼られた「優先席」のシール。その座席には座らない。扉と座席の中間くらい。手すりの掴めるところ。壁を見るように車内に背を向けて小さくなる。

 開けゴマの逆。閉まってゴマ。閉まってドア。午前7時20分発の電車は、押し競まんじゅうの満員電車。わたしは目を閉じる。『閉まる扉に──』ご注意しながら。

 通学時間は1時間。押し競まんじゅうも1時間。往復2時間の学校は「常和女学院高等部」。今日の6時間目は「英語」だったかな? 地球共通語は眠たくなる。午後9時に聞けば、わたしの生活も少しは楽になるかも。
 睡眠は大切。人類は人生の3分の1を眠って過ごす。冬眠するリスみたいに。過酷な現実には必要なこと。人生3分の2の先は長い。ガタンガタンと電車の音。そのうちの1時間。今日は何を空想しよう?

 と思ったところで目に入る優先席シール。簡略化された人のイラストは「橙色だいだいいろ」。「橙」は大体、人の形。「大」「大」「大」「大」「大」。こんな感じ。「☆」「☆」「☆」「☆」「☆」。こんな感じでもあるかも? 5人の人。5つの星。思いやり5つ希望。希望の星。星に願いを。「人は人に優しくありますように」。

 杖を持った人。松葉杖を持った人。心臓にペースメーカのある人。乳幼児をお連れの人。妊娠中の人。「優先席付近では、携帯電話の電源をお切り下さい」の文字も。
 それにしては、優先席で携帯電話いじってるお年寄りもいるけど。

 最近のペースメーカーは携帯の電波に影響されないように作られてるらしいけど、そんなの関係ないよ? 怖いものは怖いから。ペースメーカある人にとっては。

 心臓どきどきしちゃうよね。
 わたしも心臓どきどき。心臓どきどき。ドキドキ。これは勘違いかな?

 満員電車だし。押し競まんじゅうも仕方ないし。
 振り向けるほどスペースないし。
 やっぱり勘違い?

 わたしのお尻。
 触られてるような……?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

期待していた学生生活とは大違いでした。

kp.HT 61
青春
中学二年生の天野柚奈は2組の皆と思い出に残る少しづつ成長していきながら 青春を味わう短編型2年ストーリー。 甘酸っぱいことが多くてドキドキとキュンキュンが重なり合う話を青春時代を振り替えながら 読んでいってください。

星鬼夜空~僕の夏休み~

konntaminn
青春
ぼくの夏休みに起きた、不思議な物語。必然の物語 ただ抗うことができる運命でもあった。 だから僕は頑張る。 理想の物語のために。 そんな物語 出てくる登場人物の性格が変わることがあります。初心者なので、ご勘弁を

おかしな二人

とおなき
青春
心機一転、晴れて外資系コンサルティング会社に転職した保雄(やすお)。 しかし最初にアサインされたプロジェクトは炎上中でうまく行かないことばかり、一体どうなることやら... そんな時、ふとしたきっかけで独りぼっちの幼子、シュンスケと出会う。 平日の昼間、周囲の目線を尻目に団地の敷地内で遊びに耽るおかしな二人の運命やいかに!? あわただしい日常の中、ちょっと立ち止まって一息つきたい貴方に送ります!!

カップに届け!

北条丈太郎
青春
日本一、世界一を目指す女子ゴルファーたちの血と汗と涙の青春物語

視界を染める景色

hamapito
青春
高校初日。いつも通りの朝を迎えながら、千映(ちえ)はしまわれたままの椅子に寂しさを感じてしまう。 二年前、大学進学を機に家を出た兄とはそれ以来会っていない。 兄が家に帰って来ない原因をつくってしまった自分。 過去にも向き合えなければ、中学からの親友である美晴(みはる)の気持ちにも気づかないフリをしている。 眼鏡に映る世界だけを、フレームの中だけの狭い視界を「正しい」と思うことで自分を、自分だけを守ってきたけれど――。    * 眼鏡を新調した。 きゅっと目を凝らさなくても文字が読める。ぼやけていた輪郭が鮮明になる。初めてかけたときの新鮮な気持ちを思い出させてくれる。だけど、それが苦しくもあった。 まるで「あなたの正しい世界はこれですよ」と言われている気がして。眼鏡をかけて見える世界こそが正解で、それ以外は違うのだと。 どうしてこんなことを思うようになってしまったのか。 それはきっと――兄が家を出ていったからだ。    * フォロワー様にいただいたイラストから着想させていただきました。 素敵なイラストありがとうございます。 (イラストの掲載許可はいただいておりますが、ご希望によりお名前は掲載しておりません)

きみにふれたい

広茂実理
青春
高校の入学式の日に、イケメンの男子高校生から告白されたさくら。 まるで少女漫画のようなときめく出会いはしかし、さくらには当てはまらなくて――? 嘘から始まる学校生活は、夢のように煌いた青春と名付けるに相応しい日々の連続。 しかしさくらが失った記憶に隠された真実と、少年の心に潜む暗闇が、そんな日々を次第に壊していく。 最初から叶うはずのない恋とわかっているのに、止められない気持ち。 悩み抜いた二人が選んだ、結末とは―― 学園x青春xシリアスxラブストーリー

怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。 将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。 サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。 そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。 サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。

処理中です...