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Episode4. 勇者は逃げ出したい
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「あ、おれ、遠慮します。」
って言えたら良かったなあ、と真人は考えていた。
何が何だか理解するより先に、エニューオーと名乗った自称女神に良く分からない場所に落とされた。と言うのが最初に真人が認識した所である。取り敢えず、落とされた場所がメガロアルカと言う名前の帝国の皇都アルヒェにある神殿の祈りの間と言う所らしいというのは周りに群がって来た成人男性に口々に説明された。
ゲームとか漫画で良く見る聖職者っぽい衣装に身を包んだ屈強なおじさんたちに真人は辟易した。戦を司る女神の信徒と言うことで、使える聖職者は皆体を鍛えているのだそうだ。暑苦しい、と思うが必要以上に刺激しても良い事が無さそうなので真人は口を噤むことを選んだ。面倒なのは避けたい、と言うのが本音でもあった。
「勇者様!」
と口々に、嬉々として話しかけてくる屈強な男たちに、エネルギーを吸い取られそうだと思いながらも最低限の情報は必要だと判断した真人は我慢をして彼らの話に付き合うことを選択した。
突如現れた魔王に、世界が蹂躙されているという。それは可哀想になあ、というのが真人の感想だった。正直現実味が無くて感情移入が出来ないな、と周囲を見渡す。シンプルではあるが祭壇も神像も見事なものだと思う。目利きは出来ないからどれくらいの価値があるか真人には判断できなかったが、少なくとも粗末ではないし何なら豪華な方だと思う。この祈りの間と言うのも手入れは行き届いているし、おっさん達の着ている服も結構良い物なんじゃないだろうか。
…ホントに困ってんのか? と真人が考えている間に、話はどんどん進み、あれよあれよと旅立ちの準備が進められていた。不幸中の幸いは装備や荷物や所持金をケチられなかったことだろう。皇都の中で最も腕の良い鍛冶職人が誂えたという武具、次の町まではもつ程度の携帯食料、手持ちの金額は十日分の宿賃が目安とのことだが、各地の神殿で同程度の金額は補充できるという。
飢えて死ぬことは無さそうだな、とほっとしたところで真人は我に返る。いや、そもそも魔王討伐の旅に出るなんて了承した覚えないな、と。
「はあ…」
真人は大きく溜息を吐いた。神殿から出て、一人になって漸くまともに呼吸ができたような気もしている。
「暑苦しかった…」
と呟いて、いや、そうじゃないな? と思い直す。たくさんの屈強な聖職者に見送られて神殿を後にして、今は冒険者ギルドという所に向かっている。元々はこの世界には無かった組織らしい。魔王が現れてから、世界中に魔獣と言う生き物が現れ、自警団や騎士団等では対応しきれなくなって、それで各国で連携しつつ組織されたとかなんとか。と説明されたなあ、とを真人は思い出していた。
魔法があるか無いか、くらいの違いだったんだろうか。街並みを観察しながら真人は何となく冒険者ギルドまでの道のりを歩いていた。
「魔王の拠点は西の果てだったか…」
この大陸の先、海を渡ったその先の、西の果て。だからなのだろうか、この町も特に困っているようには見えない。
「はあ…」
もう一度、真人は溜息を吐いた。遠慮します、って言えたら何か変わっただろうか。正直、そんな気分になれないんだよなあ、未だに。真人は足元の自分の影を見詰めた。失恋して引き籠ることしかできない自分に魔王討伐まで漕ぎつけるだけの精神力が残っているんだろうか。
「何でおれが選ばれたんだ…」
女神の言葉を思い出してみても、全く心当たりも無く、真人は三度溜息を吐いた。
って言えたら良かったなあ、と真人は考えていた。
何が何だか理解するより先に、エニューオーと名乗った自称女神に良く分からない場所に落とされた。と言うのが最初に真人が認識した所である。取り敢えず、落とされた場所がメガロアルカと言う名前の帝国の皇都アルヒェにある神殿の祈りの間と言う所らしいというのは周りに群がって来た成人男性に口々に説明された。
ゲームとか漫画で良く見る聖職者っぽい衣装に身を包んだ屈強なおじさんたちに真人は辟易した。戦を司る女神の信徒と言うことで、使える聖職者は皆体を鍛えているのだそうだ。暑苦しい、と思うが必要以上に刺激しても良い事が無さそうなので真人は口を噤むことを選んだ。面倒なのは避けたい、と言うのが本音でもあった。
「勇者様!」
と口々に、嬉々として話しかけてくる屈強な男たちに、エネルギーを吸い取られそうだと思いながらも最低限の情報は必要だと判断した真人は我慢をして彼らの話に付き合うことを選択した。
突如現れた魔王に、世界が蹂躙されているという。それは可哀想になあ、というのが真人の感想だった。正直現実味が無くて感情移入が出来ないな、と周囲を見渡す。シンプルではあるが祭壇も神像も見事なものだと思う。目利きは出来ないからどれくらいの価値があるか真人には判断できなかったが、少なくとも粗末ではないし何なら豪華な方だと思う。この祈りの間と言うのも手入れは行き届いているし、おっさん達の着ている服も結構良い物なんじゃないだろうか。
…ホントに困ってんのか? と真人が考えている間に、話はどんどん進み、あれよあれよと旅立ちの準備が進められていた。不幸中の幸いは装備や荷物や所持金をケチられなかったことだろう。皇都の中で最も腕の良い鍛冶職人が誂えたという武具、次の町まではもつ程度の携帯食料、手持ちの金額は十日分の宿賃が目安とのことだが、各地の神殿で同程度の金額は補充できるという。
飢えて死ぬことは無さそうだな、とほっとしたところで真人は我に返る。いや、そもそも魔王討伐の旅に出るなんて了承した覚えないな、と。
「はあ…」
真人は大きく溜息を吐いた。神殿から出て、一人になって漸くまともに呼吸ができたような気もしている。
「暑苦しかった…」
と呟いて、いや、そうじゃないな? と思い直す。たくさんの屈強な聖職者に見送られて神殿を後にして、今は冒険者ギルドという所に向かっている。元々はこの世界には無かった組織らしい。魔王が現れてから、世界中に魔獣と言う生き物が現れ、自警団や騎士団等では対応しきれなくなって、それで各国で連携しつつ組織されたとかなんとか。と説明されたなあ、とを真人は思い出していた。
魔法があるか無いか、くらいの違いだったんだろうか。街並みを観察しながら真人は何となく冒険者ギルドまでの道のりを歩いていた。
「魔王の拠点は西の果てだったか…」
この大陸の先、海を渡ったその先の、西の果て。だからなのだろうか、この町も特に困っているようには見えない。
「はあ…」
もう一度、真人は溜息を吐いた。遠慮します、って言えたら何か変わっただろうか。正直、そんな気分になれないんだよなあ、未だに。真人は足元の自分の影を見詰めた。失恋して引き籠ることしかできない自分に魔王討伐まで漕ぎつけるだけの精神力が残っているんだろうか。
「何でおれが選ばれたんだ…」
女神の言葉を思い出してみても、全く心当たりも無く、真人は三度溜息を吐いた。
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