転移勇者と転生聖母と駄女神  ~フィクションだからこそ輝いているということもあるんですよ~

渡邉 幻月

文字の大きさ
上 下
3 / 6

Episode3. 魔王、思慮する

しおりを挟む
 魔王はまじめだった。今の仕事が世界の侵略と言うのなら、心は痛むが已む無し、というスタンスである。別にこの世界の住人に恨みがある訳でもないが、さりとて他に為すべきことも分からない。女神に与えられるがまま、その力を振るった。
 魔王の城は西の果てにあった。日の沈む西国はそのまま黄泉の象徴であったから、エニューオーは魔王に相応しかろうと考えたのだ。城と幹部と魔王軍を構成する魔物を十万、それが最初に魔王に与えられたものだった。繰り返すが、魔王はまじめだった。ついでに社会人経験者である。人員や財産を精査し、適材適所に割り振りそして増強し、初期に比べれば随分と強化され発展した。魔王領は単純に国として見ても立派な大国になってしまっていた。

 魔王軍の派遣も的確だった。戦略系のゲームを好んでいた魔王にとって、長期の休暇でゲームをしているような感覚があったのも否めない。否めないが、このドミニオンに住まう住人には災難以外の何物でもなかった。
 住居や砦、一部の城は破壊された。田畑は焼かれた。…当然、人々は容赦なく殺された。魔王領に近い国や集落からじわじわと攻められ、蹂躙された。幸か不幸か、魔王の侵攻は緩やかなものだった。もっと早く世界を蹂躙できるほど、魔王領の余力はあったがそれを良しとしなかったからだ。

「何か目的があるはずなんですよね…」
魔王軍を動かしながら、魔王は呟く。
「目的、ですか?」
「そう。目的。女神エニューオーは僕をこの世界に呼んだ訳だけど、理由は魔王にするため、だった。守護女神だって名乗ったのに、世界の平和を乱す存在をわざわざ呼ぶなんて理にかなってないよね。」
ラソンに答えるが、それは自身の考えをまとめる作業も兼ねていた。正直、意味がないなら辞めてしまいたい責務ではある。たとえ縁も所縁も無い異世界の住人とは言え、むやみやたらと屠るのは、気分がいいものでは無いのだ。

 あの日、この城に叩き落された日。補佐官と名乗ったラソンからこの世界について色々教わった。驚いたのはラソン自身、造られたばかりだということ。一応この世界の常識や慣習などを知っていたからよかったようなものの、危うく何も知らないまま魔王をやらされるところだったことに、深い溜息を吐いたものだった。その辺りを思い出して、魔王は遠い目で虚空を眺めた。
「とんでもないことだよ。」
そう呟く彼の声に生気は無い。ラソンの説明と、日本での経験やら知識やらでどうにか今日まで魔王業を務めている。どうもキナ臭いというよりはしょうもない気配がしてならないのだが、敢えて口にはしない。本当にしょうも無い理由だったら、目も当てられない。

「女神エニューオーは、戦争の神なんだったか。」
魔王はラソンに確認を求めた。
「はい、戦争と恐怖を司る女神です。」
「そうか。」
何度考えても、この辺りに原因がありそうだ、と思考は結局そこに落ち着く。平和を乱したかったんだろうか。一方的な戦力差になったことを考えると、勇者とか英雄のような存在がいずれ現れるのだろう。そこまで考えて、英雄ひでおという名の自分が魔王に成っていることに皮肉を感じる。まあ、いくら神とは言え異世界の言語まで気にしていなかったのかもしれない。理解できなかったのかもしれないが。あまりの皮肉に、当面名を名乗るのも、名を呼ばせるのも止めておこうと早々に思い至ったことも思い出した。
 今はもう、ただの魔王だ。魔王がただのと言うのも失笑ものではあるが…

 ともかくだ。争いと恐怖が目的と言うのなら、対抗勢力が育つ前に殲滅してしまうのは良くない。あの日あまりに一方的で取り付く島も無く、勝手に人の運命を捻じ曲げた女神にそこまで義理を貫く必要があるのかと思わなくも無い。
 あの日以降、女神エニューオーは接触してこない。ラソンも女神の声を聞いていないという。魔王は溜息を一つ吐いて、次の戦略を考えることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生しても山あり谷あり!

tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」 兎にも角にも今世は “おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!” を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

【完結】転生したらもふもふだった。クマ獣人の王子は前世の婚約者を見つけだし今度こそ幸せになりたい。

金峯蓮華
ファンタジー
デーニッツ王国の王太子リオネルは魅了の魔法にかけられ、婚約者カナリアを断罪し処刑した。 デーニッツ王国はジンメル王国に攻め込まれ滅ぼされ、リオネルも亡くなってしまう。 天に上る前に神様と出会い、魅了が解けたリオネルは神様のお情けで転生することになった。 そして転生した先はクマ獣人の国、アウラー王国の王子。どこから見ても立派なもふもふの黒いクマだった。 リオネルはリオンハルトとして仲間達と魔獣退治をしながら婚約者のカナリアを探す。 しかし、仲間のツェツィーの姉、アマーリアがカナリアかもしれないと気になっている。 さて、カナリアは見つかるのか? アマーリアはカナリアなのか? 緩い世界の緩いお話です。 独自の異世界の話です。 初めて次世代ファンタジーカップにエントリーします。 応援してもらえると嬉しいです。 よろしくお願いします。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ
ファンタジー
とある乙女ゲームの世界で目覚めたのは、原作を知らない一人の少女 産まれた時点で本来あるべき道筋を外れてしまっていた彼女は、知らない世界でどう生き抜くのか。 母の愛情、突然の別れ、事故からの死亡扱いで目覚めた場所はゴミ捨て場 捨てる神あれば拾う神あり? 人の温かさに触れて成長する少女に再び訪れる試練。 そして、本来のヒロインが現れない世界ではどんな未来が訪れるのか。 主人公が7歳になる頃までは平和、ホノボノが続きます。 ダークファンタジーになる予定でしたが、主人公ヴィオの天真爛漫キャラに ダーク要素は少なめとなっております。 同作品を『小説を読もう』『カクヨム』でも配信中。カクヨム先行となっております

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

過程をすっ飛ばすことにしました

こうやさい
ファンタジー
 ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。  どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?  そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。  深く考えないでください。

処理中です...