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Episode3. 魔王、思慮する
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魔王はまじめだった。今の仕事が世界の侵略と言うのなら、心は痛むが已む無し、というスタンスである。別にこの世界の住人に恨みがある訳でもないが、さりとて他に為すべきことも分からない。女神に与えられるがまま、その力を振るった。
魔王の城は西の果てにあった。日の沈む西国はそのまま黄泉の象徴であったから、エニューオーは魔王に相応しかろうと考えたのだ。城と幹部と魔王軍を構成する魔物を十万、それが最初に魔王に与えられたものだった。繰り返すが、魔王はまじめだった。ついでに社会人経験者である。人員や財産を精査し、適材適所に割り振りそして増強し、初期に比べれば随分と強化され発展した。魔王領は単純に国として見ても立派な大国になってしまっていた。
魔王軍の派遣も的確だった。戦略系のゲームを好んでいた魔王にとって、長期の休暇でゲームをしているような感覚があったのも否めない。否めないが、このドミニオンに住まう住人には災難以外の何物でもなかった。
住居や砦、一部の城は破壊された。田畑は焼かれた。…当然、人々は容赦なく殺された。魔王領に近い国や集落からじわじわと攻められ、蹂躙された。幸か不幸か、魔王の侵攻は緩やかなものだった。もっと早く世界を蹂躙できるほど、魔王領の余力はあったがそれを良しとしなかったからだ。
「何か目的があるはずなんですよね…」
魔王軍を動かしながら、魔王は呟く。
「目的、ですか?」
「そう。目的。女神エニューオーは僕をこの世界に呼んだ訳だけど、理由は魔王にするため、だった。守護女神だって名乗ったのに、世界の平和を乱す存在をわざわざ呼ぶなんて理にかなってないよね。」
ラソンに答えるが、それは自身の考えをまとめる作業も兼ねていた。正直、意味がないなら辞めてしまいたい責務ではある。たとえ縁も所縁も無い異世界の住人とは言え、むやみやたらと屠るのは、気分がいいものでは無いのだ。
あの日、この城に叩き落された日。補佐官と名乗ったラソンからこの世界について色々教わった。驚いたのはラソン自身、造られたばかりだということ。一応この世界の常識や慣習などを知っていたからよかったようなものの、危うく何も知らないまま魔王をやらされるところだったことに、深い溜息を吐いたものだった。その辺りを思い出して、魔王は遠い目で虚空を眺めた。
「とんでもないことだよ。」
そう呟く彼の声に生気は無い。ラソンの説明と、日本での経験やら知識やらでどうにか今日まで魔王業を務めている。どうもキナ臭いというよりはしょうもない気配がしてならないのだが、敢えて口にはしない。本当にしょうも無い理由だったら、目も当てられない。
「女神エニューオーは、戦争の神なんだったか。」
魔王はラソンに確認を求めた。
「はい、戦争と恐怖を司る女神です。」
「そうか。」
何度考えても、この辺りに原因がありそうだ、と思考は結局そこに落ち着く。平和を乱したかったんだろうか。一方的な戦力差になったことを考えると、勇者とか英雄のような存在がいずれ現れるのだろう。そこまで考えて、英雄という名の自分が魔王に成っていることに皮肉を感じる。まあ、いくら神とは言え異世界の言語まで気にしていなかったのかもしれない。理解できなかったのかもしれないが。あまりの皮肉に、当面名を名乗るのも、名を呼ばせるのも止めておこうと早々に思い至ったことも思い出した。
今はもう、ただの魔王だ。魔王がただのと言うのも失笑ものではあるが…
ともかくだ。争いと恐怖が目的と言うのなら、対抗勢力が育つ前に殲滅してしまうのは良くない。あの日あまりに一方的で取り付く島も無く、勝手に人の運命を捻じ曲げた女神にそこまで義理を貫く必要があるのかと思わなくも無い。
あの日以降、女神エニューオーは接触してこない。ラソンも女神の声を聞いていないという。魔王は溜息を一つ吐いて、次の戦略を考えることにした。
魔王の城は西の果てにあった。日の沈む西国はそのまま黄泉の象徴であったから、エニューオーは魔王に相応しかろうと考えたのだ。城と幹部と魔王軍を構成する魔物を十万、それが最初に魔王に与えられたものだった。繰り返すが、魔王はまじめだった。ついでに社会人経験者である。人員や財産を精査し、適材適所に割り振りそして増強し、初期に比べれば随分と強化され発展した。魔王領は単純に国として見ても立派な大国になってしまっていた。
魔王軍の派遣も的確だった。戦略系のゲームを好んでいた魔王にとって、長期の休暇でゲームをしているような感覚があったのも否めない。否めないが、このドミニオンに住まう住人には災難以外の何物でもなかった。
住居や砦、一部の城は破壊された。田畑は焼かれた。…当然、人々は容赦なく殺された。魔王領に近い国や集落からじわじわと攻められ、蹂躙された。幸か不幸か、魔王の侵攻は緩やかなものだった。もっと早く世界を蹂躙できるほど、魔王領の余力はあったがそれを良しとしなかったからだ。
「何か目的があるはずなんですよね…」
魔王軍を動かしながら、魔王は呟く。
「目的、ですか?」
「そう。目的。女神エニューオーは僕をこの世界に呼んだ訳だけど、理由は魔王にするため、だった。守護女神だって名乗ったのに、世界の平和を乱す存在をわざわざ呼ぶなんて理にかなってないよね。」
ラソンに答えるが、それは自身の考えをまとめる作業も兼ねていた。正直、意味がないなら辞めてしまいたい責務ではある。たとえ縁も所縁も無い異世界の住人とは言え、むやみやたらと屠るのは、気分がいいものでは無いのだ。
あの日、この城に叩き落された日。補佐官と名乗ったラソンからこの世界について色々教わった。驚いたのはラソン自身、造られたばかりだということ。一応この世界の常識や慣習などを知っていたからよかったようなものの、危うく何も知らないまま魔王をやらされるところだったことに、深い溜息を吐いたものだった。その辺りを思い出して、魔王は遠い目で虚空を眺めた。
「とんでもないことだよ。」
そう呟く彼の声に生気は無い。ラソンの説明と、日本での経験やら知識やらでどうにか今日まで魔王業を務めている。どうもキナ臭いというよりはしょうもない気配がしてならないのだが、敢えて口にはしない。本当にしょうも無い理由だったら、目も当てられない。
「女神エニューオーは、戦争の神なんだったか。」
魔王はラソンに確認を求めた。
「はい、戦争と恐怖を司る女神です。」
「そうか。」
何度考えても、この辺りに原因がありそうだ、と思考は結局そこに落ち着く。平和を乱したかったんだろうか。一方的な戦力差になったことを考えると、勇者とか英雄のような存在がいずれ現れるのだろう。そこまで考えて、英雄という名の自分が魔王に成っていることに皮肉を感じる。まあ、いくら神とは言え異世界の言語まで気にしていなかったのかもしれない。理解できなかったのかもしれないが。あまりの皮肉に、当面名を名乗るのも、名を呼ばせるのも止めておこうと早々に思い至ったことも思い出した。
今はもう、ただの魔王だ。魔王がただのと言うのも失笑ものではあるが…
ともかくだ。争いと恐怖が目的と言うのなら、対抗勢力が育つ前に殲滅してしまうのは良くない。あの日あまりに一方的で取り付く島も無く、勝手に人の運命を捻じ曲げた女神にそこまで義理を貫く必要があるのかと思わなくも無い。
あの日以降、女神エニューオーは接触してこない。ラソンも女神の声を聞いていないという。魔王は溜息を一つ吐いて、次の戦略を考えることにした。
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