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Episode2.双生神と聖女召喚(レトの憤慨)③
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「なーんて思い悩んだこともあったよなぁ。」
と伶人は鼻で笑いながら眼前に広がる光景を見ていた。
正直なところ、望んでいない展開に頭を抱えたいところで現実逃避していたら、つい愚痴っぽい思考に襲われそもそもの原因に思いをはせてしまったのだった。
望んでいない展開。そう。男だと言い出せないまま、あれよあれよと聖女と祭り上げられ、異世界から来た故に右も左も分からないだろうからと神殿の運営する学園に放り込まれた。あの時、この世界に召喚された時にフォローしてくれた王子と令嬢も通う、所謂ミッション系学園でこの国ではエリート達が多く通っているのだという。同時に、一般市民にも門戸は開かれているのだとか。
学園に通い始めてそろそろ一か月経つだろうか。双子からは特に接触はない。が、どこかで様子を見ているんだろう、と伶人は考える。考えて、
「まあ、そんなことはどうでもいいなだよな、この際。」
溜息交じりに呟いた。
「どうしたんだい? レト。」
屈託のない笑みで、王子のフィガロが伶人の顔を覗き込む。あの日、レイトと名乗ったはずが、聞き取り難かったのか言い難いのか、レトと言う名で定着してしまった。
「…なんでも。」
伶人は溜息を吐いて、ふい、と視線を逸らした。名前が間違っているとかは最早どうでもいいことだった。間違っていると言ったところで些細なレベルだし、と伶人は思っている。そんなことよりも、性別を偽る羽目になったことの方が問題だ。着替えの手伝いを拒否したのが不味かっただろうか。いや、そんなことよりも。
これって、アレか。逆ハーとかいうやつか。
そう結論付いたところで、伶人は頭が痛くなった。姉が乙女ゲームやらライトノベルやらが好きで、時々聞いてもいないのにマシンガントークをかましてくることがあった。覚えるつもりもなかったけれど、何度も話されているうちに記憶してしまっていたことが幾つかある。
男のオレが男相手にハーレムとか、それどんな罰ゲームだよ。…あの双子は原抱えて笑ってんのかな。そう考えると腹立たしいことこの上ない。
だけど、それ以上に。
「こいつら、頭大丈夫なのか?」
自分の周りを固める男どもにも苛立ちを覚えていた。
フィガロを始め、それなりに身分のある令息達で聞くところによると全員婚約者がいるという。にも拘らず、聖女に熱を上げているのだ。
バカなんじゃないのか。いや、オレのこと女だと思ってるからか。でも婚約者放置とか意味分からん。別に世話をやかなくてもいい、って何度言っても絡んでくるのはなんなんだ。“おもしれーやつ”ってなんだよ、うっせえな。
フィガロのやろうの婚約者のアリーチェの悲しそうな、困ったような顔が伶人の脳裏を過る度、能天気にまとわりついてくる王子達を殴り飛ばしたくなる。他の令嬢達だって同じだ。
本当だったら、自分が男だって公表したい。が、あの双子の思惑がイマイチ掴み切れていないし、この世界のことも理解できていないし、スキルのこともまだ良く分かっていない。どう立ち回ればいいか分からず、周囲に流されるまま時間だけが過ぎて今に至る。
はっきり言って、女子生徒からの評判は悪い。王子達を侍らす悪女だと、蛇蝎の如く嫌われている。ポンコツなのかなんなのか、そんな状況に王子達は気付いていない。
「…やっぱりバカなのか。」
伶人は呟いた。そんな状況だというのに、アリーチェだけは伶人のことを気遣ってくれている。出来た人間だと思う。
それだと言うのに、ポンコツ達は伶人への嫌がらせはアリーチェが先導していると考えているようだった。たまに彼女に辛辣な言葉を投げつけることもある。伶人が諫めても、アリーチェに何か言われたのか、アリーチェが怖いのか、などと言ってまともに話を聞こうとしない。いい加減、伶人の方がキレそうであった。そもそもそんなに気が長い方ではないのだ。
そうこうしている間に、事件は起こった。
と伶人は鼻で笑いながら眼前に広がる光景を見ていた。
正直なところ、望んでいない展開に頭を抱えたいところで現実逃避していたら、つい愚痴っぽい思考に襲われそもそもの原因に思いをはせてしまったのだった。
望んでいない展開。そう。男だと言い出せないまま、あれよあれよと聖女と祭り上げられ、異世界から来た故に右も左も分からないだろうからと神殿の運営する学園に放り込まれた。あの時、この世界に召喚された時にフォローしてくれた王子と令嬢も通う、所謂ミッション系学園でこの国ではエリート達が多く通っているのだという。同時に、一般市民にも門戸は開かれているのだとか。
学園に通い始めてそろそろ一か月経つだろうか。双子からは特に接触はない。が、どこかで様子を見ているんだろう、と伶人は考える。考えて、
「まあ、そんなことはどうでもいいなだよな、この際。」
溜息交じりに呟いた。
「どうしたんだい? レト。」
屈託のない笑みで、王子のフィガロが伶人の顔を覗き込む。あの日、レイトと名乗ったはずが、聞き取り難かったのか言い難いのか、レトと言う名で定着してしまった。
「…なんでも。」
伶人は溜息を吐いて、ふい、と視線を逸らした。名前が間違っているとかは最早どうでもいいことだった。間違っていると言ったところで些細なレベルだし、と伶人は思っている。そんなことよりも、性別を偽る羽目になったことの方が問題だ。着替えの手伝いを拒否したのが不味かっただろうか。いや、そんなことよりも。
これって、アレか。逆ハーとかいうやつか。
そう結論付いたところで、伶人は頭が痛くなった。姉が乙女ゲームやらライトノベルやらが好きで、時々聞いてもいないのにマシンガントークをかましてくることがあった。覚えるつもりもなかったけれど、何度も話されているうちに記憶してしまっていたことが幾つかある。
男のオレが男相手にハーレムとか、それどんな罰ゲームだよ。…あの双子は原抱えて笑ってんのかな。そう考えると腹立たしいことこの上ない。
だけど、それ以上に。
「こいつら、頭大丈夫なのか?」
自分の周りを固める男どもにも苛立ちを覚えていた。
フィガロを始め、それなりに身分のある令息達で聞くところによると全員婚約者がいるという。にも拘らず、聖女に熱を上げているのだ。
バカなんじゃないのか。いや、オレのこと女だと思ってるからか。でも婚約者放置とか意味分からん。別に世話をやかなくてもいい、って何度言っても絡んでくるのはなんなんだ。“おもしれーやつ”ってなんだよ、うっせえな。
フィガロのやろうの婚約者のアリーチェの悲しそうな、困ったような顔が伶人の脳裏を過る度、能天気にまとわりついてくる王子達を殴り飛ばしたくなる。他の令嬢達だって同じだ。
本当だったら、自分が男だって公表したい。が、あの双子の思惑がイマイチ掴み切れていないし、この世界のことも理解できていないし、スキルのこともまだ良く分かっていない。どう立ち回ればいいか分からず、周囲に流されるまま時間だけが過ぎて今に至る。
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「…やっぱりバカなのか。」
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それだと言うのに、ポンコツ達は伶人への嫌がらせはアリーチェが先導していると考えているようだった。たまに彼女に辛辣な言葉を投げつけることもある。伶人が諫めても、アリーチェに何か言われたのか、アリーチェが怖いのか、などと言ってまともに話を聞こうとしない。いい加減、伶人の方がキレそうであった。そもそもそんなに気が長い方ではないのだ。
そうこうしている間に、事件は起こった。
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