22 / 31
手合わせとか、また面倒な
しおりを挟む
スピネルが視線を向けるとそこにはブルネットの兵士がいた。あの時のやけに好戦的だった方か、と妙に納得したところで、
「ルーク、まだサプフィール様から明確な指示は出ていませんよ。」
とアイザックが制止する。二人の顔を見比べながら、酒場での出来事を思い出す。亜麻色の髪がブルネットのストッパーの役割でもしているんだろうか、とスピネルは考える。
「…今日付でここの所属になる。あとのことはレオの指示に従うと良い。」
サプフィールはそう言って踵を返した。
「お戻りですか?」
「ああ。見送りはいいぞ。」
「サプフィール様、お忙しいですか? もしお時間がありましたら、一戦ご覧になっていかれませんか?」
にこにこと悪気の無い笑顔でレオが提案する。
「…おいおい、その一戦てのはオレとそのブルネットの兄ちゃんとか?」
めんどくさそうな声でスピネルが横から割り込んだ。
「ああ、そうだ。みんな銀狼の実力が知りたくてうずうずしてるんだ、その筆頭がコイツなんだがな?」
と、ぽんとブルネットの頭に手を置いてレオが答える。
「義手が無いみたいだが、模擬戦程度なら余裕だろう?」
「…義手がねぇの気付いてて提案すんのか、てめぇは。」
実際問題、酒も抜けた状態で一対一の模擬戦なら片腕でもこなせる自信はスピネルにはあった。ただ、勝っても負けてもめんどくさそうな相手だと溜息を吐いた。
「…面白そうだな。すぐに対戦できるのか。」
一連のやり取りを黙って見ていたサプフィールが口を開いた。
「ルークは… 大丈夫そうだな。スピネルも平気だろ? 武器は好きなのを選んでくれ。サプフィール様、あまりお待たせする事無く開始できます。」
そうだった、こいつあんまり人の話を聞かないヤツだった、とスピネルはまた溜息を吐いて模擬刀から一振り選ぶ。対戦相手は望み通り一戦交えられるせいか細かい事は気にしていないらしい。
自分から言い出したこととは言え、面倒な毎日が始まりそうだと三度目の溜息を吐いた。
野外の訓練場の中央でスピネルはブルネットの兵士――ルークと向き合って立っていた。あの後、あれよあれよという間に模擬戦の準備は整えられこうしてこの場に居た。サプフィールも観戦するようで、いつの間にか設えられていた席にちゃっかりと納まってる。
「どうすっかな…」
左手で持った模擬刀に視線を落としスピネルは呟いた。
勝っても負けてもめんどくさいなら、勝っておいた方が執事を納得させやすいかもしれない。さっきまでのレオの話で、オレが銀狼だとは認識できたのだろうがまだ肚落ちはしていないような気配だった。ここで実力を見せておけば、少なくともここにいる理由にはなるだろう。そこまで考えてようやくスピネルは腹を決めた。
ルークの方は既に準備万端のようで、やる気に満ちている。審判役のレオがスピネルとルークに視線を送り二人の状態を確認したところで、
「始め!!」
模擬戦開始の合図を出した。
レオの掛け声と同時にルークが速攻で仕掛ける。好戦的な性格通りっつうか戦術も駆け引きもクソもねぇなあ、と半ば呆れ気味にスピネルは攻撃をいなす。
左手は利き手ではないが、師の許に居た時には右手を負傷した前提の修行が、傭兵時代に至っては実際右腕を損傷していた時期がありそれなりに武器が扱える。それなりと言っても、元が元なだけあって下手な兵士など目ではない。
何より、踏んだ場数が違う。ルークも手練れの一人なのだろうが、あの戦争での実戦経験があるスピネルに敵うべくもない。
「筋は悪くないのに… まあ、相手が悪かったよ、なっ、」
何度かの鍔迫り合いの後、スピネルはルークの武器を弾き飛ばしてそのまま流れるように切っ先をルークの喉元すれすれで止める。
「そこまで!」
レオが終了の合図を送る。
「納得できねぇってツラだな?」
スピネルはルークに声をかけた。
「だって手加減してたでしょ? 手加減されてそのうえ負けるとか…」
ルークは悔しそうに顔を歪めている。
「アンタ、動きが直線的過ぎだと思うぜぇ。ま、スピードはあるから、適当な相手には余裕で勝てるだろうけどな?」
白兵戦など経験もないのだろう。…いいことだ、とスピネルは思う。そのために自分たちは必死に戦ってきたのだから。
「暫く名前を聞かなかったからどうしていたかと思ったが、なかなかどうして衰えていないな! みんな集まれ! 今日付けで仲間になるスピネルだ。銀狼なら聞いたことあるヤツも多いだろう。こいつはホンモノだ。実力は見ての通りだ!」
レオが訓練場全体に響くような大声でそう叫んだ。
ホンモノ…
スピネルは呟いた。偽物が居たってことか。まあ、名前の影響力を考えれば偽物がいてもおかしくはないか。ミアハたちと違って、ずっと表舞台から離れていたのだ。そこまで考えて納得する。この模擬戦は必要だったのだ。ホンモノの“銀狼”であることを示すために。
「サプフィール様、お時間をいただきありがとうございました。彼は紛う方なき銀狼です。彼の身元も実力も私が補償いたしましょう。」
恭しく一礼してレオはサプフィールに言った。サプフィールは鷹揚に頷いて、
「後のことは任せる。」
そう言い残して執務室へ戻っていった。
多少のわだかまりはあったが、それを口にする訳にもいかなかった。彼が執務室に戻るなり人払いして不満をぶちまけるのはまた別の話しである。
「今後についてなんだが… ま、しばらくは他の兵士たちと同じ扱いになっちまうな。」
がっしりと肩を組んでレオがスピネルに言う。
「まあ、しょうがねえよ。ちょっとは聞いてんだろ? オレのこと。」
「酒場で酔っ払ってサプフィール様に絡んだんだろ?」
「要約するとそうだな。だから、お前もオレに気を遣って特別扱いとか、昇進させようとか考えなくていいぜ。」
そうか、とレオは呟いて組んでいた肩を外した。
「細かい説明はアイザックに任せる。訓練や業務の割り振りは明日からでいいぞ。」
そうスピネルに言うと、その案内役になるアイザックに指示を出す。
この日は、宿舎や食堂などの施設の案内・訓練と兵士の業務のスケジュールの説明などをアイザックから説明されて終わった。
「ルーク、まだサプフィール様から明確な指示は出ていませんよ。」
とアイザックが制止する。二人の顔を見比べながら、酒場での出来事を思い出す。亜麻色の髪がブルネットのストッパーの役割でもしているんだろうか、とスピネルは考える。
「…今日付でここの所属になる。あとのことはレオの指示に従うと良い。」
サプフィールはそう言って踵を返した。
「お戻りですか?」
「ああ。見送りはいいぞ。」
「サプフィール様、お忙しいですか? もしお時間がありましたら、一戦ご覧になっていかれませんか?」
にこにこと悪気の無い笑顔でレオが提案する。
「…おいおい、その一戦てのはオレとそのブルネットの兄ちゃんとか?」
めんどくさそうな声でスピネルが横から割り込んだ。
「ああ、そうだ。みんな銀狼の実力が知りたくてうずうずしてるんだ、その筆頭がコイツなんだがな?」
と、ぽんとブルネットの頭に手を置いてレオが答える。
「義手が無いみたいだが、模擬戦程度なら余裕だろう?」
「…義手がねぇの気付いてて提案すんのか、てめぇは。」
実際問題、酒も抜けた状態で一対一の模擬戦なら片腕でもこなせる自信はスピネルにはあった。ただ、勝っても負けてもめんどくさそうな相手だと溜息を吐いた。
「…面白そうだな。すぐに対戦できるのか。」
一連のやり取りを黙って見ていたサプフィールが口を開いた。
「ルークは… 大丈夫そうだな。スピネルも平気だろ? 武器は好きなのを選んでくれ。サプフィール様、あまりお待たせする事無く開始できます。」
そうだった、こいつあんまり人の話を聞かないヤツだった、とスピネルはまた溜息を吐いて模擬刀から一振り選ぶ。対戦相手は望み通り一戦交えられるせいか細かい事は気にしていないらしい。
自分から言い出したこととは言え、面倒な毎日が始まりそうだと三度目の溜息を吐いた。
野外の訓練場の中央でスピネルはブルネットの兵士――ルークと向き合って立っていた。あの後、あれよあれよという間に模擬戦の準備は整えられこうしてこの場に居た。サプフィールも観戦するようで、いつの間にか設えられていた席にちゃっかりと納まってる。
「どうすっかな…」
左手で持った模擬刀に視線を落としスピネルは呟いた。
勝っても負けてもめんどくさいなら、勝っておいた方が執事を納得させやすいかもしれない。さっきまでのレオの話で、オレが銀狼だとは認識できたのだろうがまだ肚落ちはしていないような気配だった。ここで実力を見せておけば、少なくともここにいる理由にはなるだろう。そこまで考えてようやくスピネルは腹を決めた。
ルークの方は既に準備万端のようで、やる気に満ちている。審判役のレオがスピネルとルークに視線を送り二人の状態を確認したところで、
「始め!!」
模擬戦開始の合図を出した。
レオの掛け声と同時にルークが速攻で仕掛ける。好戦的な性格通りっつうか戦術も駆け引きもクソもねぇなあ、と半ば呆れ気味にスピネルは攻撃をいなす。
左手は利き手ではないが、師の許に居た時には右手を負傷した前提の修行が、傭兵時代に至っては実際右腕を損傷していた時期がありそれなりに武器が扱える。それなりと言っても、元が元なだけあって下手な兵士など目ではない。
何より、踏んだ場数が違う。ルークも手練れの一人なのだろうが、あの戦争での実戦経験があるスピネルに敵うべくもない。
「筋は悪くないのに… まあ、相手が悪かったよ、なっ、」
何度かの鍔迫り合いの後、スピネルはルークの武器を弾き飛ばしてそのまま流れるように切っ先をルークの喉元すれすれで止める。
「そこまで!」
レオが終了の合図を送る。
「納得できねぇってツラだな?」
スピネルはルークに声をかけた。
「だって手加減してたでしょ? 手加減されてそのうえ負けるとか…」
ルークは悔しそうに顔を歪めている。
「アンタ、動きが直線的過ぎだと思うぜぇ。ま、スピードはあるから、適当な相手には余裕で勝てるだろうけどな?」
白兵戦など経験もないのだろう。…いいことだ、とスピネルは思う。そのために自分たちは必死に戦ってきたのだから。
「暫く名前を聞かなかったからどうしていたかと思ったが、なかなかどうして衰えていないな! みんな集まれ! 今日付けで仲間になるスピネルだ。銀狼なら聞いたことあるヤツも多いだろう。こいつはホンモノだ。実力は見ての通りだ!」
レオが訓練場全体に響くような大声でそう叫んだ。
ホンモノ…
スピネルは呟いた。偽物が居たってことか。まあ、名前の影響力を考えれば偽物がいてもおかしくはないか。ミアハたちと違って、ずっと表舞台から離れていたのだ。そこまで考えて納得する。この模擬戦は必要だったのだ。ホンモノの“銀狼”であることを示すために。
「サプフィール様、お時間をいただきありがとうございました。彼は紛う方なき銀狼です。彼の身元も実力も私が補償いたしましょう。」
恭しく一礼してレオはサプフィールに言った。サプフィールは鷹揚に頷いて、
「後のことは任せる。」
そう言い残して執務室へ戻っていった。
多少のわだかまりはあったが、それを口にする訳にもいかなかった。彼が執務室に戻るなり人払いして不満をぶちまけるのはまた別の話しである。
「今後についてなんだが… ま、しばらくは他の兵士たちと同じ扱いになっちまうな。」
がっしりと肩を組んでレオがスピネルに言う。
「まあ、しょうがねえよ。ちょっとは聞いてんだろ? オレのこと。」
「酒場で酔っ払ってサプフィール様に絡んだんだろ?」
「要約するとそうだな。だから、お前もオレに気を遣って特別扱いとか、昇進させようとか考えなくていいぜ。」
そうか、とレオは呟いて組んでいた肩を外した。
「細かい説明はアイザックに任せる。訓練や業務の割り振りは明日からでいいぞ。」
そうスピネルに言うと、その案内役になるアイザックに指示を出す。
この日は、宿舎や食堂などの施設の案内・訓練と兵士の業務のスケジュールの説明などをアイザックから説明されて終わった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
琥珀いろの夏 〜偽装レンアイはじめました〜
桐山アリヲ
BL
大学2年生の玉根千年は、同じ高校出身の葛西麟太郎に3年越しの片想いをしている。麟太郎は筋金入りの女好き。同性の自分に望みはないと、千年は、半ばあきらめの境地で小説家の深山悟との関係を深めていく。そんなある日、麟太郎から「女よけのために恋人のふりをしてほしい」と頼まれた千年は、断りきれず、周囲をあざむく日々を送る羽目に。不満を募らせた千年は、初めて麟太郎と大喧嘩してしまい、それをきっかけに、2人の関係は思わぬ方向へ転がりはじめる。
ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜
古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。
かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。
その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。
ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。
BLoveさんに先行書き溜め。
なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します
バナナ男さん
BL
享年59歳、ハッピーエンドで人生の幕を閉じた大樹は、生前の善行から神様の幹部候補に選ばれたがそれを断りあの世に行く事を望んだ。
しかし自分の人生を変えてくれた「アルバード英雄記」がこれから起こる未来を綴った予言書であった事を知り、その本の主人公である呪われた英雄<レオンハルト>を助けたいと望むも、運命を変えることはできないときっぱり告げられてしまう。
しかしそれでも自分なりのハッピーエンドを目指すと誓い転生───しかし平凡の代名詞である大樹が転生したのは平凡な平民ではなく……?
少年マンガとBLの半々の作品が読みたくてコツコツ書いていたら物凄い量になってしまったため投稿してみることにしました。
(後に)美形の英雄 ✕ (中身おじいちゃん)平凡、攻ヤンデレ注意です。
文章を書くことに関して素人ですので、変な言い回しや文章はソッと目を滑らして頂けると幸いです。
また歴史的な知識や出てくる施設などの設定も作者の無知ゆえの全てファンタジーのものだと思って下さい。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる