ルナーリア大陸の五英雄 Ⅰ 十年越しの初恋〜荒み切った英雄が最愛に再び巡り合うまで〜 ※旧タイトル:Primo amore

渡邉 幻月

文字の大きさ
上 下
13 / 31

十年もあれば人は変わるなら

しおりを挟む
「マカロフ卿こっちは終わったわよ。お蔭さまで私のMPは残り僅かね」

「そのスキルがあれば対個人戦は無敵なんじゃないか? ナリユキ・タテワキにも勝てそうだ」

「そうなの? まあいいわ。残りのあの日本人は任せたわ」

「何だ知っていたのか。それにしても仕事が早いな」

「そうかしら? 長期戦になりそうな相手は先手必勝するほうが手っ取り早いのよ」

 ちょっと待って? どういう事? 何でアマミヤさんがあんな隙だらけで、マカロフ卿と話しているの?

 私は身体向上アップ・バーストを使ってジャンプした。こんなところを抜け出すのはいとも簡単。

 クレーターから抜けだして私は絶望した。

 アリスちゃんが凍っている……。

 全身の力が抜けて私の活力という活力は抜けきってしまった。なんで――。

「メンタルブレイクってやつだな」

「2人もやられてしまったら当然の事ね」

「2人? 他にもいるのか?」

「ええ。お蔭で本当にへとへとなの。他の人間が絶対零度アブソリュート・アイスを2度も使ったらMPが0になる可能性多いわね」

「確かにそうだな。まあそこは転生者補正ってやつだろうさ」

 ここで戦わないといけないのに、私は全身の力が入らなかった――。手と足、そして先程のダメージで一旦自動消滅した天使の翼エンジェル・ウイングは出すことすらできない感覚に陥っている。

「ほら、見ろ。完全に戦意喪失しているようだ。お嬢様よ良く聞け。大人しく捕まれ」

「大人しく言うことを聞けば酷い仕打ちをするような部屋には連れて行かないわ」

 そうか。ここで私が捕まればアードルハイム帝国の拷問部屋に連れていかれることになるのか――。でも――。どう考えてもこの2人を相手にして勝つ方法が見当たらない。ここで、アリスちゃんの氷を持って、天使の翼エンジェル・ウイングで空を飛びながら逃げた方がよいのだろうか?

「大人しく言う事を聞けば、アリスちゃんとノア君を元通りにしてくれるの?」

「そんな訳ないでしょ。特にあの少年を元に戻したら脅威になるじゃない」

「あの少年ってあれか? 緑色の髪をした奴か?」

「そうよ。マーズベルに行った時にいたの?」

「ああ。念波動の数値は5,200だ」

「――。冗談キツイわ」

「ナリユキ・タテワキも同じ数字だったな」

帯刀タテワキさんも同じ数値なのね。まあ流石といったところね」

「知っているのか?」

「ええ。地球にいたときの知り合いというか――。先輩だったから」

 先輩? 本当にナリユキさんとこの女性はどういう関係なのだろうか?

「成程な。さてお嬢様。ラストチャンスだ。大人しく捕まれ」

 私が捕まれば計画は大狂いのなるのではないか? それだけが心配だった。

 ふと、見上げて視界に入ったマカロフ卿の顔――。彼の瞳はどこか悲しさを持ち合わせていた。

 そして思う。彼は悪い人じゃないのかもしれない。

 私は不思議と両手を差し出していた。これは意識してではない。無意識のうちだった。

「あら。案外素直なのね。どういう風の吹きまわしかしら」

 アマミヤさんはそう言いながら私に手枷と足枷をした。これで私はもう何も抵抗することはできない。この手枷と足枷を外す方法は、自力で何とかするか、無難に鍵を探すかの二択になる。

「そんなことはいいだろう。お嬢様も馬鹿ではない。なにせナリユキ・タテワキの側近だからな。とは言っても俺からすればまだまだ甘ちゃんだがな」

「元軍人が言うと皆がひよっ子に見えてしまうわ。いずれにしても連れて行きましょう。裏ルートからでいいはね?」

「そうだな」

 そう言って私とアリスちゃんは馬車に乗せられて運ばれることになった。

 そして気になったのは裏ルートという言葉。一体何を考えているのだろう。じゃない! 1つ肝心な事を聞いていなかった!

「少し聞きたいんだけど、ティラトンのbarを襲ったのは?」

「貴女が気にする必要はないわ。と言っても貴女にはもうスキルを発動することができないから、何もすることができないんだけど」

 まあそうだよね。教えてくれないよね。

「ラングドールさんはどうなるの?」

「彼は大方死刑ね。貴女はあくまで転生者。彼はこっちの世界の人間。元々干渉することが無い次元から来た私達が、彼の命を気にかける意味なんてないのよ。所詮他人の命なのだから、今は自分の命を大切にしなさい」

 言っていることが意味が分かるようで分からない。自分の命を大切にしなさいなんて、どういう意図があってそんな事を言うのだろう。マカロフ卿もアマミヤさんも一体何を企んでいるのだろう。考えれば考えるほど沼になりそうだ。

「ラングドールが死刑って聞いて驚かないんだな」

「予測はできていたからね。それに私の印象では彼は死を恐れていない。やれること全力でやった。例え死んでも誰か繋いでくれる。そう考えているような気がするから」

「凄いわね。貴方今いくつ?」

「22だよ」

「よく見ているわね。肝心なところで鈍感な帯刀タテワキさんとは大違い」

 その言葉にふと疑問を抱く。私の印象だとなりゆき君は凄く優しくて気配りができて、尚且つ腰が適度に低い謙虚な男性だ。私とアマミヤさんの印象に大きなズレが生じているだけだろうか。

 いや……。この人は私が知らないなりゆき君を知っている。そう考えただけで知りたいという欲と、嫉妬が半々ほどの割合で沸々と込み上げてきた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【完結】うたかたの夢

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
 ホストとして生計を立てるサリエルは、女を手玉に取る高嶺の花。どれだけ金を積まれても、美女として名高い女性相手であろうと落ちないことで有名だった。冷たく残酷な男は、ある夜1人の青年と再会を果たす。運命の歯車が軋んだ音で回り始めた。  ホスト×拾われた青年、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血あり  ※印は性的表現あり 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 全33話、2019/11/27完

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

愛おしいほど狂う愛

ゆうな
BL
ある二人が愛し合うお話。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...