メサイア

渡邉 幻月

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ヨナタン

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「兄ちゃん!」
二人は、帰りついたばかりの兄に駆け寄って、飛び付く。
「おいおい、家の中じゃ危ないだろ?」
ヨナタンは二人を余裕で受け止めて、笑いかける。

「さあさ、ヨナタンは疲れているんだよ。少しゆっくりさせてあげなさいな。」
そう言われて、二人はほんの少しヨナタンにしがみつく力を緩める。寂しそうな二人の表情に気付いたヨナタンが、気にしなくていいよ、と二人に耳打ちした。途端に二人の表情が明るくなる。

「なあなあ、兄ちゃん、どんな事してたんだ?」
興味津々でアベルが尋ねる。
「メサイア任務の話か?」
そうそう!と、目を輝かせてアベルが答える。ヨナタンが片方のカインに目を向ければ、彼もまた熱い視線で見上げていた。
「取り敢えず、座るか。」
そう言って、双子を久しぶりの自分の部屋に連れていく。

「綺麗だな!」
ドアの向こうの室内が視界に入ると、ヨナタンが言った。それを聞いて、二人は自慢気に自分達が掃除したんだとアピールする。
笑いながら、ヨナタンは感謝の言葉を。そうして二人と一緒にベッドに座る。

「さあ、どこから話そうか?」
「前の時の続き!」
カインとアベルが一層顔を輝かせヨナタンに答える。
「続きか、そうだな…」
そう言って、少し考えてからヨナタンは話し始めた。

ヨナタン達メサイアにとっては、日常の出来事でしかない討伐のための遠征でさえ、町の中に閉じ込められた少年には心踊る冒険譚だ。

石になってしまう毒ガスを吐く怪物、綺麗な女の人かと思えば本体は大蛇、巨大な鳥から群れをなして襲ってくる昆虫型のもの。
水底に住み、近付いたものを引きずり込んで食い尽くすものまで。
厄介な怪物をどうやって倒したのか。
仲間と力を合わせてピンチを切り抜ける瞬間には、カインとアベルが最も興奮するところだった。

「いいなー、おれもメサイアになりたい!」
アベルがヨナタンにせがむように言う。
あっ、カインが声をあげた。

「どうした?」
アベルの頭を撫でながら、ヨナタンはカインに問う。

「アニキがメサイアになった時に見た、夢ってどんな?」
カインは昨夜の、あの不思議な出来事を思い出したのだった。
「? その話は、もう何回もしたような?」
それこそ何度も、よく飽きないなと感心するくらいに。だからこそか、ここ暫くは任務の事を聞きたがっていたとヨナタンは解釈していた。
それが、今さら思い出したように夢の話をせがむとは。

「あ、えっと、どっちかって言うと、夢の中に出てきた、男? の話が知りたいなって。」
ずっと憧れていて、何度も聞いた夢の話だ。どんな内容かなんて、今さら聞かなくったって自分のことのように話せる自信がある。あるけど。
だけど、そう言えばあんまり夢の中の男の話まで聞いてなかったような気がする。と、改めてカインは考えていた。

あれは、そもそも同一の存在なのか。

「ああ… 実はあんまりはっきりしないんだよな。」
ヨナタンの視線が、記憶を探るように宙をさ迷う。
「はっきりしないの?」
「そう。あの夢そのものは、三年経った今も覚えているのに。」
首を傾げてヨナタンは言った。
そして、夢を辿りながら話し始めた。

暗闇の中に、沈んでいるみたいで…
胸より下はよく分からない。暗闇に溶けてるみたいに見えた。
髪が綺麗な、見たこともないほど綺麗な銀髪で、もしかしたら、だから顔が見えたのかもしれない。
きらきら銀色の髪に照らされて。
…うん。なんか変だな。
でも、まあ夢だしな。
顔? きれいな顔をしてたと思うよ。最初、男か女か分からなかった。
声を聞いて、あ、男なのかなって思ったんだ。
そうして、俺に真っ赤なリンゴを差し出してきた。

「あとは、もう何回も話してる通りだよ。」
どうして急にこんな事を? ヨナタンは不思議そうにカインを見つめた。
「あーうん、昨日の夜、アベルと一緒に冒険しようって家を抜け出したんだ。」
そう言って、カインは昨日の夜の出来事をヨナタンに説明した。
音の無い町の中で、出会った得体の知れない男の話。ただ、後からメサイアが見る夢の中の男みたいだと思った事を。

ヨナタンの顔が引きつったのは、カインもアベルも気付かなかった。

「…その話、誰かにした?」
「ううん、まだ。ホントはメサイアの誰かに聞こうって思ったんだけど、アニキが帰ってくるって聞いて、それで、それならアニキに聞くのが一番良いかと思って。」
でも、アニキに会ったら嬉しくて忘れちゃったけどな、へらっとカインは笑う。
「そうか。うん… 聞く限り俺達が夢で見た男みたいだ。」
「そうなかー? でも、おれたち果物貰わなかった!」
アベルが不満そうに口を尖らせる。
「なんでだろうな? 夢で会った訳じゃ無いからかな? 俺が調べるから、この話はみんなには内緒な。」
唇に指を当てて、ヨナタンが二人に言った。

「え? うん、良いけど、なんで内緒?」
「これも内緒な。…クーデター騒ぎがあったんだ、メサイアの中で。変に疑われたらイヤだろ?」
え? 二人は顔を見合せて、そうしてヨナタンを見る。
「クーデターって…?」
「組織に反抗する奴らがいるらしいって、話があってな。実際クーデターは起こったとか、未遂だったとか言われている。まだ詳しい調査結果が出ていないんだ。…噂だけかもしれないけど、でも、な。」
ヨナタンは肩を竦めてそう言った。そして続ける。
「取り敢えず、内緒だ。何か分かったら、すぐに知らせるよ。遠くにいたら、手紙で。」
大好きな兄の言うことだ、二人は頷く。分からないことが増えたけど、昨日のことが分かったら、きっと教えてくれる。そう、無条件で信じていた。

「ご飯にするわよ!」
母親の声が聞こえた。
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