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16.殿下の様子がおかしいのですが……。

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「飯を持ってきてやったぞ。」
部屋にいらっしゃった殿下は、食事の乗ったトレーをお持ちだ。ゼラはベッドに横たえていた身体を起こす。
「ありがとうございます。」
食事をいただく。あれから三日が経ち、今は四日目の朝だ。ゼラは足が腫れて熱も出てしまい、三日も意識朦朧とした状態でいたのだ。殿下はその間甲斐甲斐しく世話をしてくださったらしい。熱がひいた今でさえ、どことなく優しい。
「殿下、お仕事はどうなさっているのですか。私の世話をするほど、お暇ではなかった気が……。」
ゼラが遠慮がちに問うと、殿下は言った。
「仕事はレンゾに任せている。もともと大したことのない仕事内容だった。」
ゼラは驚いて目を見開いた。今まで殿下が仕事を休まれたことはなかった。殿下は何よりも仕事を大事になさっていたからだ。
「ダム建設予定地の視察は?」
「……お前は気にしなくていい。」
「行かれてないんですね !?」
ゼラは驚きを隠すことが出来ない。一体殿下に何があったというのだろう。
ゼラは食事を終えて、そばにあったテーブルにトレーを置く。それを見た殿下は、顔をしかめた。
「まだ残っている。お前は食が細すぎるんだ、もっと食べろ。」
ゼラはムッとした表情で言う。
「一般女性はこれぐらいしか食べないんです!」
「そうなのか?」
殿下は少し考え込んだ後、渋々といった様子で頷いた。
「わかった。シェフに言って量を減らしてもらい、その代わり栄養価の高い食事にしよう。」
ゼラはまたもや意外に思わされた。殿下が自分の栄養面まで考えてくださっている。今日は雪でも降るというのか。
「殿下は様子がおかしいように思われますが。」
「俺だって怪我人の面倒ぐらいみる。何せ俺とお前は...…。」
殿下は口ごもった。そんな殿下の代わりに、ゼラが続きを話した。
「私と殿下は、近衛兵とその主人ですからね。」
四日前のことが蘇り、ゼラは不思議に思った。自分の殿下の関係が近衛兵と主人なら、何故あの時殿下はーー。
殿下のお声で、思考が中断された。
「言いづらかったらいいんだ。ゼラ、四日前のことを教えてくれないか...…?」
殿下の真紅の瞳に見つめられ、ゼラは俯いた。そう、自分は友達で、よき先輩だと思っていた人物に裏切られたのだ。
「私、あの日……。」
言おうとした。しかし、言えなかった。口にしてしまったら最後、殿下は激しく怒りミレニアさんを罰しに行くだろう。
いや、考えてもみればミレニアさんがゼラを売ったのだって、自分が殿下と必要以上に馴れ合っていたせいだ。原因を作っておいてミレニアさんのことを守りたいなどと願うのは、自分のエゴでしかないのだ。
「...…すみません、やっぱりまた今度でもいいですか?」
「ああ、構わない。」
ゼラは気持ちを切り替えるために、立ち上がって伸びをした。まだ足の痛みは残っているけれど、杖があれば歩けなくもない。
「それでは、着替えて散歩でも行きますかね。」
「...…駄目だ。」
殿下に行く手を塞がれる。
「え?」
「あと二週間は城から出るんじゃない。これは、主人からの命令だ。何かあれば、すぐに俺を呼べ。」
ゼラは開いた口が塞がらなかった。
殿下がとんでもなく過保護に、パワーアップなさっている……???
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