最強少女は雑用が嫌なのでパーティーを抜けてスローライフを。

ALICE

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Ⅵ ルルイエと放蕩者

37話 久方ぶりの共闘

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内部へと入るとそこは悲惨な物だった。
沢山の人が倒れており、立っているのは体躯10メートルはあろうかと言う8本足の真っ黒い蜘蛛とそれと対峙する様に刀を構える見知った顔・・・ソウジだ。
彼以外は皆倒れている。
それ程の激戦なのだろう。

「ソウジ!」

私がそう叫んでソウジの横に立つ。
勿論、臨戦態勢でだ。

「センパイっ!?来てくれたんですか。いや、嬉しいですね。
ギルドは?」

「お母様が。私はこっちの方が向いてるしね。」

そう言って武器である杖を取り出す。
ノエル、ノワールも手には武器を持っている。

「ソウジっち、敵の情報を。」

ノワールが言った。

「はい。名前は《全ヲ消シ去ル者》。
魔法は一切通じません。
それどころかスキルもかき消されます。見てて下さい。
《一騎討!》」

そう言ってソウジが刀の柄の先を左手の平に当てる。
普段ならキンっと音がなりモンスターがソウジを狙うようになる。
しかし、音はならなかった。

「この様に、スキルまで無効化されるので完全な実力勝負になっています。」

ソウジが言った。
それは確かに苦戦するはずだ。
だが、少し違う。
恐らくだが全てをかき消す訳では無さそうだ。

「ソウジ、こいつは全てをかき消す訳じゃないよ。
かき消すのは敵意を向けてきた相手に対してだけ。
だって、リュガの私が人の姿のままでいれてるしアリアも焔のまま。
これが何よりの証拠だよ。」

私の姿は普通の人そのもの。
しかし、リュガ本来の姿は角と翼と尻尾のある半人半龍の姿だ。
その為、打ち消し系の魔法なんか使われると本来の姿である半人半龍の姿へと戻ってしまう。
それが戻らない時点で全てを打ち消すわけでは無さそうだ。

「それなら、戦いやすいかもしれないにゃあ。
それなら単純な実力勝負ではなさそうだにゃあ。」

ノワールはそう言ってソウジの頭上に緑色の液体の入ったフラスコを投げるとそれを拳銃で撃った。
すると、緑色の液体はソウジの頭上で輝く光の粒子になってソウジに降りかかる。

「ヒールミストにゃ。本来なら魔法だけどワタシの力で科学的液体に変化させてるから魔法判定ではないみたいだにゃあ。
そうなれば、ワタシの攻撃も通じると思うにゃあ。」

「《ファイアアロー》」

ノワールのそれを見てノエルが炎の矢を作り出す。
しかし、炎の矢は生成された瞬間に消え去った。

「うん、攻撃魔法は完全にかき消されるね。これじゃあ私はお荷物かも。」

ノエルは魔女。
魔女から魔法をとってはかなり戦闘能力も落ちてしまう。
だが、ノエルならそれでも余裕だと思ったのだが。

「ノエル、本気、出さないの?」

「あら?私は何時でも本気だよ?」

ノエルがとぼけた。
違う。
ノエルは魔法が使えないからとお荷物になるような人じゃない。
なんせ、デボーチェリーメンバーだ。
デボーチェリーメンバーがそこらの魔女と同じはずが無い。 

「はぁ、取り敢えず宣戦布告として奴の足を一本位頂こうかしら?」

ノエルは不敵に微笑むと箒をだして箒に横向きに座り空へと浮かぶ。

「ソウ君、アリスちゃん準備は?」

「お任せを!」

「私も何時でも。」

ノエルが私達2人に聞いた。

「それじゃあ。宣戦布告と行きますか。」

ノエルがそう言って杖を取り出す。
いつもの大きな杖では無い。
魔女のみが扱う小さな杖だ。
指揮棒に近いその杖は魔女杖ウィッチワンドと呼ばれる杖で通常の杖よりもより正確な魔法が使える物だ。
持っているだけで魔女の証にもなる為か、魔女は普段普通の杖を使うことも多い。
少なくともノエルは普段普通の杖を使っている。

「《ALL.EAT.GLUT.MONS.SMN.MY.LEFT.HND》」

ノエルが呪文を唱える。
その言葉は月文字に近いが発音が少し不思議な・・・
魔女文字と呼ばれる魔女固有の文字らしい。
私からしたら意味も解らない物だがノエル曰く語りたくはない恐ろしい意味なんだとか。
魔女の詠唱は残酷な物が多く、意味を理解して発動する為精神に多大なダメージを与える事も多いらしい。
この言葉もその1つだとか。

ノエルの詠唱が終わるとノエルの左腕が黒く染まっていく。
ついにはノエルの左腕が真っ黒になると、腕は段々と姿を変え、大きな口のある蛇の様な化け物の様な姿へと変化した。

「いって、グラトニー。」

ノエルが呟くとグラトニーと呼ばれた“左腕だった物”が蜘蛛に襲い掛かる。
蜘蛛は目の前まで来たグラトニーに驚いた様子で左腕を出し、防ごうとした。
しかし、その瞬間だった。
グラトニーは腕に喰らい付き、そのまま蜘蛛の腕を力任せに引き千切るとあろうことかその腕を食べてしまった。

それには流石の蜘蛛も驚いたのか大きく叫び声をあげると数歩後ろへと後ずさる。

「ソウジ!」

「はい!センパイ!」

私の掛け声でソウジが飛び出す。
手には二振りの刀。

「センパイ!こいつの足はかなり堅いですよ!センパイの得物じゃ無理かもです!」

そう言いながらソウジは大回りをしながら右腕へと狙いを定める。

「なら、ソウジ!あれ、持ってる?」

私が訪ねるとソウジは私に見えるように左手を上げた。

「貸して!」

「了解です!こいつを扱えるのは僕を抜けばセンパイ位ですよ!」

そう言ってソウジが一振の太刀を私に投げた。
長さ180cm程のその太刀を受け取って鞘から抜くと綺麗な桜色の刃がギラリと妖しく輝く。
妖刀ようとう村正』。
ソウジが受け継いだ刀らしいが代々『抜かずの刀』として受け継いだらしい。
一度抜けば自我を蝕み、刀に体を取られて仕舞う。
故に、抜くことが出来るのは自我を蝕まれても耐えられる強い精神力の持ち主。
ソウジの家でもこれを抜けるのはソウジだけらしい。
それを、私も抜ける。
正確には私の場合は無理矢理抜いている。
精神汚染とも言えるこの刀の自我を蝕む行為を無理矢理に抑え付け、自分の物にしているのだ。
荒療治の様なやり方だがこうでもしないと私は自我を失い、人を斬るだけの化け物に成り下がる。
そうならない為だ。

「すぅ・・・はぁ・・・モード:刀龍」

私が呟くと鱗が桜色に変わる。

「桜花一ノ型枝垂桜!」

私がそう言いながら飛び上がり体重を掛けて叩き斬る。
蜘蛛の左手が胴体から落ちた。

「桜花二ノ型葉桜!」

そこから着地と同時に回転斬りを後ろ足目掛けて発動する。
後ろ足が一本胴体から落ちた。

「桜花三ノ型桜流し!」

そう言いながら走りながら刀を蜘蛛の足に当てる。
更に足が一本胴体から落ちた。

「桜花四ノ型朝桜!」

今度は飛び上がって蜘蛛の足に刀を突き刺す。
左側最後の足が胴体から落ちた。

「ソウジ!」

「もうやってます!沖田流抜刀術燕返し!」

反対側の脚を斬るようにソウジが動いてくれる。
蜘蛛は完全に怯えきっているのか、動かず周りに糸を吐くだけだった。

「桜花五ノ型八重桜!」

そう言って八連撃の斬撃で右足2本を落とす。
これで蜘蛛の四肢は完全に体から離れた。

「桜花六ノ型桜吹雪!」

そう言って回転しながら胴体を斬り付ける。
これだけでは足りない。
まだ、まだ必要だ。

「これで・・・桜花七ノ型乱れ花吹雪!!」

私が縦横無尽に走りながら斬りまくる。
それこそ、目にも止まらぬ早さで。
蜘蛛の体から次々と血飛沫が上がる。

「手伝うにゃ!アシッドレイン!」

そう言ってノワールが黄色い液体のフラスコを蜘蛛の頭上に投げる。
それを見て私は咄嗟に蜘蛛のそばから離れる。
ソウジも同じ様に離れた。

「喰らえ!」

それを見計らった様にノエルが叫ぶとノエルの左手のグラトニーが蜘蛛の頭に喰らい付いた。
そして、目玉を抉るように噛み千切るとノエルの腕はゆっくりと元の姿へと戻っていった。

ボロボロの蜘蛛に酸の雨が降り注ぎ蜘蛛は呻き声を上げながら糸を周りに吐く。
私とソウジで斬りながら蜘蛛に近付く。

「ソウジ!合わせて!」

「はい!」

「桜花八ノ型夜桜!」

「沖田流抜刀術天翔龍覇斬てんしょうりゅうはざん!」

私とソウジが左右から蜘蛛の太い胴体を一刀両断する。
蜘蛛の体は3つに別れ、黒い霧となって霧散した。

「ぐはっ・・・」

私がその場で膝を付いて口から血を吐く。
自らを蝕む村正を無理矢理抑えた反動だ。

「センパイ!」

「大丈夫。村正は返すよ。」

私は鞘に納めた村正をソウジに返した。

「少し休んでから先に行きませんか?」

「うん。そうしようか。」

私達は少し休んでから3層攻略に向かうことにした。
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