86 / 87
第三章 天空のカルラ
天空のカルラ
しおりを挟む【忠臣カルラ、十年の喪に服す!】
特別法要の日の出来事は翌日の新聞記事になり、深州一帯に一気に広まった。
記事にはカルラの素性や飼い主を慕う心情が丁寧に書かれていて、まるで忠犬ハチ公のような扱い。今後はアティーシャ僧正の墓がある瑞雲寺周辺で暮らす事になるだろう、と締めくくっている。
これで飛行中のカルラを見かけて怖がる人が減るに違いない。全ての問題が無くなるわけじゃないけど、今のようなパニックは減るだろう。
「長らく行方不明になっていた聖獣・迦楼羅は、安賀佐村在住の魔物使いにより所在が確認され……って、コレ、ミーナの事だろ?」
取っておいた古新聞を見ながらエレナが言う。
あの翌日の早朝からまたダンジョンに潜っていたので、ウワサは聞いていても新聞記事を読むのは初めてだそうだ。
「未成年だから名前は伏せてもらったのさ。騒ぎになっても困るしね。こっちの続報にも出てるから、ご覧よ」
おばあちゃんがエレナに別の新聞を手渡す。
「お茶も置いとくよ」
ダンジョンで採れた素材を持ってパーティで訪ねて来てくれたのがうれしいらしく、いそいそと三人をもてなしている。お姉ちゃん達の方も素材と物々交換でおばあちゃんの魔法薬を入手できて、お互いに満足する取引だったみたい。
縁側に座ってエレナが広げた新聞を、ゴッツさんが横からのぞきこむ。
「ああ。野良の魔獣と区別するための足輪をつけたのか。それをミーナちゃんが?」
「瑞雲寺で授与式をやったの。人がたくさん来てビックリした」
「飼育許可も出たし、これでカルラは瑞雲寺に戻ったわけだ。……名目上は」
腕組みをしたケイさんが庭の方に目をやる。そこではカルラとラルが追いかけっこをして遊んでいる。
あの日、特別法要に合わせてカルラが現れたのは偶然ではなく、ケイさんが計画した事だった。
強制するまでもなく、アティーシャ様のための特別法要があると教えてあげたらカルラは喜んで参加した。お坊さん達に対する誤解も解けたので、このまま瑞雲寺に在籍してはどうか?とたずねたら快くOK。カルラは十年ぶりに「帰宅」することになった。
こうして、私の初クエストは大成功に終わった。
けれども瑞雲寺にはカルラのお世話をする人がいなかったため、またもやギルド経由で私に仕事が回って来た。飼育許可のために魔獣を管理するテイマーが必要なんだって。ラルの時と同じだね。
もちろん引き受けた。だってカルラと会えるから。
それでカルラは以前の様に寺で飼われる事になったんだけど、自由な飛行散歩が許されてるせいか、どうも瑞雲寺よりうちにいる方が多いんだよねー。夜は山の上の巣に帰ってるし。いいのかな?
ケイさんが苦笑いしながら続ける。
「……今日と明日、団体客が来るから寺の方に多めに顔出して欲しいって、親父からの伝言だ」
「分かった。頼んでみるね」
「俺が言っても伝わるんだろうが、返事が分からないからな。悪いな」
「全然! だって管理担当者としてお給料まで頂いてるし!」
前回のクエスト結果に満足した瑞雲寺からは成功報酬と特別手当をもらい、さらに今回のクエストも報酬が割り増しの単独指名依頼だ。しかも継続契約。毎月、破格のお給料が入ってくる。その分はしっかり働きますとも!
「カルラとお話してるだけでお給料をもらえるなんて、なんだか悪いなぁ。いつもうちでご飯食べてくって話したら、食費までくれたんだよ?」
「もらっとけ、もらっとけ。寺の方じゃ冠皇帝鷲は手に余る。今みたいに出勤だけしてくれる方が助かるんだ。黄金の実を売った金で作った【カルラ基金】も十年分の利子が付いてる。必要経費はしっかり取れ。ガッポリ巻き上げろ」
お坊さんらしくないケイさんのアドバイスに笑いながら、カルラにスケジュールを伝える。
そう、絶妙なタイミングで瑞雲寺に現れるようにカルラにお願いするのも私の仕事なの。何だかアイドルのマネージャーみたい。
「知ってるか? 瑞雲寺の周りじゃ、カルラ饅頭やカルラ煎餅を売り始めたぞ」
「え、何それ食べたい」
「今度買って来るよ、ミーナ」
「寺でもカルラ守りと名付けた御守りの販売…いや、授与を始めた。迷子になっても戻って来られる御利益があるらしい。人によっちゃ、空き巣避けにと求めるのもいる。坊主じゃなくて商人になりゃ良かったんだよ、親父は」
確かに、玄信和尚は気持ち良くお金を使ったり使わせたりが上手い。変にケチケチしないので、こちらもできる限り協力してあげようと思えるのだ。
「ま、そういう商売もカルラが戻って来たからだ。カルラと話すだけと言うが、それは充分に報酬に値する。誇ってよいぞ」
大げさだなぁ、ケイさんは。でもほめられるのはうれしい。
「カルラが本物だって証明できたのはケイさんのおかげだよ。カルラの特技なんて知らないから、あんな方法、私じゃ思いつかなかった。ありがとう」
ニコリと笑うケイさんは、かなりカッコイイ。髪の毛ないけど。
『ミーナ殿、ミーナ殿。思い出しましたぞ!』
急に鬼ごっこを止め、カルラとラルが走って来る。
『コイツ、ようやく、思い出したってさ』
『今度こそ、忘れないうちに!』
何事かと思ったら、「聞きたかった事」を思い出したのだそうだ。
って、空き巣を捕獲した時のアレか!
もう一週間以上前だよ!
カルラが真剣な目で質問する。
『我が飲み込んだ黄金の実の種は、いつ頃、芽を出すのかのう?』
…………それってお腹の中だよね?
て言うか、もう外に出てるよきっと。じゃなきゃ消化されてるような。
無理じゃないかなぁ……
念のためにケイさんが【魔力感知】で調べてくれたけど、体内に生命力のある粒状のモノは残ってないそうだ。
ションボリするカルラにおばあちゃんが声をかける。
「揷し木の方は順調だからね。もう少し育ったら一番大きいのを持ってお帰り」
それを聞いて大喜びしてるけど、根付いた枝は全部で三本。上手いこと半分以上おばあちゃんに持ってかれてるよ?
まあ、カルラがイイならイイけど。
なんかカルラって真面目なのに抜けてて、でも一所懸命で、放っておけないなぁ。
小生意気なラルとは違う可愛さがあるよ。
『それでは、さっそく瑞雲寺に向かいますわい』
翼を広げ、天高く飛び立つカルラ。あっという間に小さな点になる。
種族の特徴なのか、カルラのクセなのか、まず高く飛び上がってから滑空して移動するのがいつもの飛び方だ。
「……美しいな」
青空に吸い込まれる様に飛んでゆくカルラから目を離さずにケイさんがつぶやく。
「俺は得度して坊主になる時、本名の慶信の読み方を変えて慶信と名乗る予定だった。だがあの時、アティーシャ殿の死を知らされたカルラが失意で飛び去るのを見た時、俺もあんな風に空を飛んで行きたいと強く思ったのだ。広い世界へ。遠い空へ。だから、【空】の字を入れた。慶空という俺の名には、カルラが飛ぶ青い空が入ってるんだ」
そう言ってケイさんは、青い青い空をいつまでも見つめていた。
~ 第三章 終わり ~
- + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + -
※ 作者より ※
ここまでお読みいただきありがとうございました。
続きの更新は、次の一章分を書き終えてからまとめて連続更新になります。
(短編はあるかも)
今後もよろしくお願いします。
- + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + -
0
お気に入りに追加
221
あなたにおすすめの小説
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
素材採取家の異世界旅行記
木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。
可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。
個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。
このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。
この度アルファポリスより書籍化致しました。
書籍化部分はレンタルしております。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

半分異世界
月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。
ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。
いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。
そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。
「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~
舞
ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。
異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。
夢は優しい国づくり。
『くに、つくりますか?』
『あめのぬぼこ、ぐるぐる』
『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』
いや、それはもう過ぎてますから。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる