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第三章 天空のカルラ
天空のカルラ
しおりを挟む【忠臣カルラ、十年の喪に服す!】
特別法要の日の出来事は翌日の新聞記事になり、深州一帯に一気に広まった。
記事にはカルラの素性や飼い主を慕う心情が丁寧に書かれていて、まるで忠犬ハチ公のような扱い。今後はアティーシャ僧正の墓がある瑞雲寺周辺で暮らす事になるだろう、と締めくくっている。
これで飛行中のカルラを見かけて怖がる人が減るに違いない。全ての問題が無くなるわけじゃないけど、今のようなパニックは減るだろう。
「長らく行方不明になっていた聖獣・迦楼羅は、安賀佐村在住の魔物使いにより所在が確認され……って、コレ、ミーナの事だろ?」
取っておいた古新聞を見ながらエレナが言う。
あの翌日の早朝からまたダンジョンに潜っていたので、ウワサは聞いていても新聞記事を読むのは初めてだそうだ。
「未成年だから名前は伏せてもらったのさ。騒ぎになっても困るしね。こっちの続報にも出てるから、ご覧よ」
おばあちゃんがエレナに別の新聞を手渡す。
「お茶も置いとくよ」
ダンジョンで採れた素材を持ってパーティで訪ねて来てくれたのがうれしいらしく、いそいそと三人をもてなしている。お姉ちゃん達の方も素材と物々交換でおばあちゃんの魔法薬を入手できて、お互いに満足する取引だったみたい。
縁側に座ってエレナが広げた新聞を、ゴッツさんが横からのぞきこむ。
「ああ。野良の魔獣と区別するための足輪をつけたのか。それをミーナちゃんが?」
「瑞雲寺で授与式をやったの。人がたくさん来てビックリした」
「飼育許可も出たし、これでカルラは瑞雲寺に戻ったわけだ。……名目上は」
腕組みをしたケイさんが庭の方に目をやる。そこではカルラとラルが追いかけっこをして遊んでいる。
あの日、特別法要に合わせてカルラが現れたのは偶然ではなく、ケイさんが計画した事だった。
強制するまでもなく、アティーシャ様のための特別法要があると教えてあげたらカルラは喜んで参加した。お坊さん達に対する誤解も解けたので、このまま瑞雲寺に在籍してはどうか?とたずねたら快くOK。カルラは十年ぶりに「帰宅」することになった。
こうして、私の初クエストは大成功に終わった。
けれども瑞雲寺にはカルラのお世話をする人がいなかったため、またもやギルド経由で私に仕事が回って来た。飼育許可のために魔獣を管理するテイマーが必要なんだって。ラルの時と同じだね。
もちろん引き受けた。だってカルラと会えるから。
それでカルラは以前の様に寺で飼われる事になったんだけど、自由な飛行散歩が許されてるせいか、どうも瑞雲寺よりうちにいる方が多いんだよねー。夜は山の上の巣に帰ってるし。いいのかな?
ケイさんが苦笑いしながら続ける。
「……今日と明日、団体客が来るから寺の方に多めに顔出して欲しいって、親父からの伝言だ」
「分かった。頼んでみるね」
「俺が言っても伝わるんだろうが、返事が分からないからな。悪いな」
「全然! だって管理担当者としてお給料まで頂いてるし!」
前回のクエスト結果に満足した瑞雲寺からは成功報酬と特別手当をもらい、さらに今回のクエストも報酬が割り増しの単独指名依頼だ。しかも継続契約。毎月、破格のお給料が入ってくる。その分はしっかり働きますとも!
「カルラとお話してるだけでお給料をもらえるなんて、なんだか悪いなぁ。いつもうちでご飯食べてくって話したら、食費までくれたんだよ?」
「もらっとけ、もらっとけ。寺の方じゃ冠皇帝鷲は手に余る。今みたいに出勤だけしてくれる方が助かるんだ。黄金の実を売った金で作った【カルラ基金】も十年分の利子が付いてる。必要経費はしっかり取れ。ガッポリ巻き上げろ」
お坊さんらしくないケイさんのアドバイスに笑いながら、カルラにスケジュールを伝える。
そう、絶妙なタイミングで瑞雲寺に現れるようにカルラにお願いするのも私の仕事なの。何だかアイドルのマネージャーみたい。
「知ってるか? 瑞雲寺の周りじゃ、カルラ饅頭やカルラ煎餅を売り始めたぞ」
「え、何それ食べたい」
「今度買って来るよ、ミーナ」
「寺でもカルラ守りと名付けた御守りの販売…いや、授与を始めた。迷子になっても戻って来られる御利益があるらしい。人によっちゃ、空き巣避けにと求めるのもいる。坊主じゃなくて商人になりゃ良かったんだよ、親父は」
確かに、玄信和尚は気持ち良くお金を使ったり使わせたりが上手い。変にケチケチしないので、こちらもできる限り協力してあげようと思えるのだ。
「ま、そういう商売もカルラが戻って来たからだ。カルラと話すだけと言うが、それは充分に報酬に値する。誇ってよいぞ」
大げさだなぁ、ケイさんは。でもほめられるのはうれしい。
「カルラが本物だって証明できたのはケイさんのおかげだよ。カルラの特技なんて知らないから、あんな方法、私じゃ思いつかなかった。ありがとう」
ニコリと笑うケイさんは、かなりカッコイイ。髪の毛ないけど。
『ミーナ殿、ミーナ殿。思い出しましたぞ!』
急に鬼ごっこを止め、カルラとラルが走って来る。
『コイツ、ようやく、思い出したってさ』
『今度こそ、忘れないうちに!』
何事かと思ったら、「聞きたかった事」を思い出したのだそうだ。
って、空き巣を捕獲した時のアレか!
もう一週間以上前だよ!
カルラが真剣な目で質問する。
『我が飲み込んだ黄金の実の種は、いつ頃、芽を出すのかのう?』
…………それってお腹の中だよね?
て言うか、もう外に出てるよきっと。じゃなきゃ消化されてるような。
無理じゃないかなぁ……
念のためにケイさんが【魔力感知】で調べてくれたけど、体内に生命力のある粒状のモノは残ってないそうだ。
ションボリするカルラにおばあちゃんが声をかける。
「揷し木の方は順調だからね。もう少し育ったら一番大きいのを持ってお帰り」
それを聞いて大喜びしてるけど、根付いた枝は全部で三本。上手いこと半分以上おばあちゃんに持ってかれてるよ?
まあ、カルラがイイならイイけど。
なんかカルラって真面目なのに抜けてて、でも一所懸命で、放っておけないなぁ。
小生意気なラルとは違う可愛さがあるよ。
『それでは、さっそく瑞雲寺に向かいますわい』
翼を広げ、天高く飛び立つカルラ。あっという間に小さな点になる。
種族の特徴なのか、カルラのクセなのか、まず高く飛び上がってから滑空して移動するのがいつもの飛び方だ。
「……美しいな」
青空に吸い込まれる様に飛んでゆくカルラから目を離さずにケイさんがつぶやく。
「俺は得度して坊主になる時、本名の慶信の読み方を変えて慶信と名乗る予定だった。だがあの時、アティーシャ殿の死を知らされたカルラが失意で飛び去るのを見た時、俺もあんな風に空を飛んで行きたいと強く思ったのだ。広い世界へ。遠い空へ。だから、【空】の字を入れた。慶空という俺の名には、カルラが飛ぶ青い空が入ってるんだ」
そう言ってケイさんは、青い青い空をいつまでも見つめていた。
~ 第三章 終わり ~
- + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + - + -
※ 作者より ※
ここまでお読みいただきありがとうございました。
続きの更新は、次の一章分を書き終えてからまとめて連続更新になります。
(短編はあるかも)
今後もよろしくお願いします。
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