黒猫印の魔法薬 〜拾った子猫と異世界で〜

浅間遊歩

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第三章 天空のカルラ

客観的な見分け方

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「持ち物を詳しく調べたら、鍵開け道具や家までの地図が出たそうよ。計画的犯行ね」
「薬は拾った物だと供述を変えてるそうが、ウソだな。奴ら、婆さんが村へ降りて来てるのに気づいて、留守の間に魔法薬のストックを盗むつもりだったんだろう。品薄だから転売すればさらに儲かる。現金も魔晶石も家に置いてあった分とほぼ一致しているようだ」

 腹立たしげなギルドマスターとマイナさんから事情聴取の内容が漏れてくる。
 男達は冒険者の登録をしていたため、ギルドマスターも警察から話を聞かれたそうだ。もちろん、登録は抹消。以後、ギルドで仕事を受ける事ができなくなる。
 それで一度は観念したのに、ま~たシラを切り始めたらしい。

「懲りない奴」

 往生際の悪さにお姉ちゃんもあきれてる。おばあちゃんもヤレヤレと肩をすくめる。

「魔法薬を盗むために、わざわざ山を登って来るとはねぇ。今度からは魔法の鍵でも付けとくよ」
「それがいい。登録した人しか開けられない最新のを付けとくといい」
「へー、そんなのがあるんだ」

 アガサ村には良い人が多いけど、残念ながら悪い人もいる。ダンジョンから持ち出す物が増えて村がうるおってくれば、外からもやって来るだろう。

 でも、悪い事ばかりではなく、良い事もあった。
 カルラと私のやり取りを近くで見ていた冒険者達が、それを面白おかしく語って回ったので、どうやらあの冠皇帝鷲カンムリコウテイワシはそれほど危険な魔獣ではないらしいという見方が冒険者の間に広がったのだ。

「本当にミーナちゃんは魔獣と会話ができるのねぇ。私には鳴き声の区別がつかないわ」

 マイナさんが不思議そうに感心する。鳴き声の強弱やイントネーションで聞き分けてると思われてたらしい。そうじゃないと教えてあげたらさらに不思議がってた。

「でもこれでカルラは悪い子じゃないって分かってもらえたでしょ?」
「そうは言っても…」

 ギルドマスターのオガワさんは気まずそうに眉をしかめる。

「規則は規則だからな。それに、ほとんどの村人は魔獣を恐がる。この辺りはヤンバダンジョンに近いから、地上に魑魅魍魎モンスターがあふれ出した【暗黒時代】をリアルに経験したんだ。今日も目撃報告と共にクレームが来たよ。アレが本物のカルラだとは驚いたが、正直言って他の冠皇帝鷲カンムリコウテイワシと見分けがつかん」
「アレがカルラだって分かれば、みんな少しは安心してくれるのにねぇ」

 マイナさんの言葉に驚く。

「そうなんですか?」
「カルラは特別だ。『やさしいアティーシャさまと、かしこいカルラ』って子供向けの絵本にもなってる。前は基本的に寺にいたから、参拝者や観光客がよく見学してた。あの頃はカルラが町の上を飛んでも誰も気にしなかったな」

 ゴッツさんも子供の頃、瑞雲寺の裏庭に居るカルラを近所の子供達とのぞきに行ったそうだ。子供達が騒いでもカルラは気にせず、落ちてる羽根を拾うのを静かにながめていたと言う。

「カルラはアティーシャ僧正の死と同時に天に帰ったという俗説が広まっているからなぁ。それに新しい住民が増えて昔のカルラを知らない人も多い。ただ安心してくれと言っても難しいだろう。せめてアレが『十年前に消えたアティーシャ様のカルラ』だって分かる客観的な証拠でもあれば…」

 オガワさんが腕組みをしてうなると、ケイさんがアゴに手を当てつぶやく。

「もしかしたら…使えるかもな」

 何か思いついたようだ。
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